福島第一原発2号機で温度急上昇?線量も急上昇?という件について

■【ヤバイ】福島第一原発で緊急事態か!?2号機の温度が20度から80度以上に急上昇中!放射能測定データでも線量が急激に上昇! new!!
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-6084.html

 福島第一原発2号機で異常事態が発生した可能性が浮上しています。
 福島第一原発の情報を公開している「ふくいちプラントパラメータモニタ」によると、福島第一原発2号機で2015年4月3日11時に温度が20度から70度に急上昇したとのことです。その後も温度は上昇を続け、4月5日には88度に到達しました。
 2014年からのデータでは最大の温度変化で、これが事実だとすれば、福島第一原発2号機で異常が発生していると考えられます。
 また、原子力規制委員会が発表している福島県放射能データでも異常を観測しました。福島県のよつば公園では線量が平時の0.130μSv/h前後から急激に増え、4月6日23時頃に5.914μSv/hまで上昇しています。
 しかも、線量が急激に跳ね上がったモニタリングポストは一つだけではありません。南相馬市飯舘村葛尾村(かつお)などでもよつば公園と類似するような上昇を捉えています。福島原発付近を中心に線量が高い傾向が見られ、他のデータも上昇傾向を示唆していました。
 4月7日火曜は福島第一原発から首都圏方面に風が吹いています。何も異常が無ければ良いですが、念の為にマスクなどを外出時に着用しておくと良いでしょう。
ちなみに、福島県では2015年1月〜2月の間にセシウム降下量が5450メガベクレル/km²も増加しています。事故から4年が経過しましたが、福島原発事故は現在進行形なので、これからも引き続き油断せずに注意してください。

今日、こんな話題があったようです。
私の福島原発事故に関するスタンスは、

福島原発はもう一応の落ち着きを見せた。次に私のような一般人が注意をするべきとしたら、それは原発敷地外に影響が及ぶような、大きな線量の変化があったとき、若しくはその恐れがあるときだろう」

と思ってきましたので、私も冒頭の「温度の急上昇」や「線量の上昇」と言う言葉を見たときには注意をひかれました。

そこで、元データに当たるべくデータを探ってきました。

まず始めに、冒頭の記事で「2号機の温度上昇」とされるものはこれ。
http://fukuichi.mods.jp/?p=16%2C17%2C19%2C21%2C23%2C24%2C27%2C28&fname=p02.csv&cnt=24&update=%E6%9B%B4%E6%96%B0

確かに一つだけ、「2015/4/3 5:00」を境に急上昇している温度計があります。
しかしこの温度計、具体的に言えば「supply air D/W cooler(TE-16-114K#1)」(ドライウェルへの給気口付近にある温度計と思われる)は、保安規定では監視対象外とされています
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/pla/2014/images/figure-j.pdf#page=2

この温度計「TE-16-114K#1」は、平成24年に行われている温度計の信頼性評価において、正しい値を示していないため監視には使用せず、参考にとどめるものとされています。
以前から「確実に故障しているとは言えないものの、信頼性には問題あり」とされていた温度計です。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120402j0101.pdf#page=9
信頼性評価の際の資料では、監視使用レベルとされた他の温度計に比べ、温度変化が不安定であった様子が分かります(青い細線)。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120402j0101.pdf#page=21

また、上の2号機の温度上昇図で変化の無い線は、私が監視対象の温度計を選んで引いた線ですが、この間特に変動を示していません。
(ちなみに冒頭の記事では、このような変化の無い監視対象温度計の推移は記載されていません)


次に、もし2号機で異常な核分裂反応などが発生し、放射性物質が放出されていたのなら、まずは福島原発敷地内のモニタリングポストで異常が測定されるはずで、
その結果がこれ↓ですが、

福島原発敷地内の放射線量の推移

4月3日から4月7日までの間、特に変動はありません。

(参考)福島原発敷地内のモニタリングポストの位置


次に、冒頭記事で異常な放射線量を示したとされる、よつば公園(南相馬市)についですが、確かにこういう↓グラフを見てしまうと、何かあったのか?と思ってしまいますが、

これ↑は週単位で見たもので、時間軸を1日にするとこうなって↓

こうなると、「もしや放射性プルームが通ったか?」という感じでは無く、「電気系か何かのトラブルかな…?」となってしまいます。

ちなみに、もし福島原発2号機で問題が発生し、放射性プルームが「よつば公園」がある「南相馬市」方向へと、福島原発から見て北方向へと流れたのなら、よつば公園の近傍にあり、よつば公園の南方向にある「よつば保育園南町分園」や「さゆり幼稚園」でもその兆候が確認されるはずですが、

○よつば保育園南町分園(よつば公園から南におよそ200m)

○さゆり幼稚園(よつば公園から南南東へおよそ500m)

どちらも特に変化はありません。


そもそも、もし原発で異常があり、放射線の元となる核分裂反応が多量に起きていたのなら、短半減期核種であるヨウ素131が捕捉されているはず。

そこで、福島原発敷地内の大気分析結果を見てみると、
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2015/images/air_150404-j.pdf (4月3日採取分)
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2015/images/air_150405-j.pdf (4月4日採取分)
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2015/images/air_150406-j.pdf (4月5日採取分)
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2015/images/air_150407-j.pdf (4月6日採取分)

冒頭記事で問題とされている4月3日以降、ヨウ素131は不検出です。
もし原発敷地外のモニタリングポストで大きな影響を捉えるレベルの異常が起きているなら、短半減期核種が確認されるはず。
にもかかわらず原発敷地内においても、大気中のヨウ素131は検出レベルにありません。

以上のことを総合すると以下のようになるので、

・反応してる温度計は監視対象外の一つだけ。他の温度計は反応せず。
原発敷地内モニタリングポストに反応なし。
・異常を示したとされるモニタリングポストの、近傍モニタリングポストに反応なし。
原発敷地内でヨウ素131不検出。

現状では福島県発表の通り、新設機器の不具合と考えるのが妥当と思います。

■モニタリングポスト:4月運用開始の30台異常値の不具合
http://mainichi.jp/select/news/20150408k0000m040019000c.html
毎日新聞 2015年04月07日 18時40分(最終更新 04月07日 23時39分)
 福島県は7日、空間放射線量を計測するモニタリングポスト約30台で異常を示したと発表した。周辺の複数のモニタリングポストの数値に異常がなく、県は、測定データを伝送する際に不具合が起きたとみている。修理か交換かを検討する。
 県によると、異常を示したのは、県が3月末に設置し、4月から試験運用を開始した簡易型モニタリングポスト77台のうちの約30台。南相馬市伊達市など7市町村に及び、南相馬市葛尾村の計2台では通常値の約1000倍に上昇した。
 県によると、3日に南相馬市の2カ所で異常に高い測定値が出たため、業者に確認するよう依頼していた。県放射線監視室は「公表は原因究明してからと考えた。異常を認識した時点で公表すべきだった」としている。【岡田英】

日本人は人質奪還に伴うリスクに耐えられるのだろうか?

小林よしのり氏 ネトウヨイスラム国と戦う勇気ない野次馬
http://news.livedoor.com/article/detail/9850543/

小林氏の文章にもしばらく接してなかったけど、西部邁氏と仲がいいだけあって、たまに鋭いこと言うんだよね。

さて、この文に触発される形で、私も最近の武力による人質奪還論について思っていることを書いてみようと思う。

イスラム国による今回の人質事件で、政府は自衛隊による奪還作戦の法整備を検討しているし、世間にもこれを支持する声は多いようだ。

私はこういったニュースに対し、
『それはいいけど、やるんだったらまず第一に北朝鮮による拉致被害者を対象にしてくれよ』
といった趣旨のことを(Twitterでは)呟いてきた。

しかし政府や、これを支持するネトウヨ層からは、『まず第一に北朝鮮』という声は多く聞かれない。
対象とされるのはいつもイスラム国だ。

『日本人に対するテロ行為』という理屈からすれば、北朝鮮による拉致被害者が外される理屈は無いし、ましてや自分から危険地帯に出向いたわけでも無く、日本国内で平穏に暮らしていて北朝鮮によるテロに遭ったのだから、道義的な面からも第一対象とされるのは拉致被害者だ。

ところが、政府やネトウヨ層からはこういった声はあまり聞こえてこない。

北朝鮮を対象とすることで何か問題があるのか?
言うまでも無くそれは、【報復】だろう。
自衛隊北朝鮮に乗り込んで、拉致被害者を救出したとしても、北朝鮮工作員によるテロ行為が起きそうだし、ミサイルが飛んできそうだし、下手すれば戦争にもなる。
日本人の蒙る人的被害は、小さなものではないだろう。
だから北朝鮮が対象だとは言わない。

もしそれが理由で北朝鮮という言葉を出せないのなら、まさにそれが
【人質奪還に伴うリスクだ】
と言いたい。

相手が北朝鮮であれ、イスラム国であれ、他のテロ組織であれ。
日本が武力を用いるということは、その時点で『ケンカを買った』ということに等しい。

『いや、相手が先に手を出してきたんだ。罪なき民間人を卑怯にもさらったんだ』
と言っても、それは正しい理屈ではあるが、力の無い理屈でもある。

理屈はどうあれ、武力を使う時点で、それはケンカを受け入れたということになる。
(その理屈で北朝鮮が矛を収めるか、考えてみればよい)

北朝鮮には報復の可能性があるように、相手がイスラム過激派であっても、自衛隊が乗り込めば報復による日本国内でのテロの可能性は高まる。
何らの罪なき、無関係の日本人が日本国内で被害に遭う可能性は高まる。

人質奪還を叫ぶ人、賛成する人は、果たしてそこまで考えているのだろうか?
危険地帯はアラブ地域、危険な目に合うのはアラブにいる人質と自衛隊、無意識にそう考えてはいないだろうか?

そうではない。
武力を行使すると言うことは、日本国内の危険性も高まると言うことだ。
アメリカやイギリスが武力を行使し、国内でテロの危険性の高まりを受けて、治安組織や情報組織を強化してきたように、日本にもその必要性が生まれるということだ。

私が度々北朝鮮を(Twitterで)引合いに出してきたのもそういうことだ。
武力を行使すると言うことは、応分の報復リスクを負うと言うことだ。
北朝鮮には武力が多いからそのリスクが高い、イスラム国にはそこまでの力は無いだろうからリスクは少ない。
そのリスクの多寡の問題であって、日本が対戦相手として名乗りを上げることに違いは無い。

果たしてそこまで考えているのだろうか。
危険は遠い向こうのこと、日本国内には関係無いと無意識に思ってはいないだろうか。

小林よしのり氏は以下のように厳しい問いかけをしている。
・果たしていまの日本人にイスラム国と本気で戦争するだけの覚悟はあるのか。
・結局、国内の安全圏で物を言ってるだけだ。
ネトウヨにはイスラム国に行く勇気もイスラム国と戦う覚悟もない。リスクが少ないところで大騒ぎしている、ただの野次馬でしかない。

もう一度考えてもらいたい。
北朝鮮拉致被害者を武力で取り返しに行くことを。
そしてそこから発生する様々なリスクを。

無関係な国民の犠牲を甘受してでも、最終的に戦争になっても、捕われた同胞を救いに行くか?

それが【武力で国民を守る覚悟】というものだ。

果たしてネトウヨ層にその覚悟があるのだろうか?
10人の人質を救うために100人の命を危険にさらす、その覚悟があるのだろうか?
あるのであれば何故、人質奪還の第一目標は北朝鮮であると聞こえてこないのだろうか?

『リスクが少ないところで大騒ぎしている、ただの野次馬でしかない』

今の段階では、小林よしのり氏のこの言葉が正しいように思える。

「内部留保から賃上げへ」は本当に無理なのか?

最近の内部留保を巡る議論には混乱を感じる。

内部留保から賃上げへ」に対する反論の多くは、「内部留保は現預金で保管されているのではなく、土地や建物、設備になっているのだから、内部留保での賃上は困難だ」と主張するのだが、では内部留保によって生産設備がどの程度増えていて、賃金化できる資産はこれくらいしかないから賃上げは困難だ、と具体的な数字で説明する意見には巡り合えないからだ。
多くが、バランスシートの科目の、言葉の説明で終わってしまう。

そこで、無いなら仕方がないので、自分で数字を探してまとめることにした。
以下の表は財務省の法人企業統計を用い、拾える最新の数字である2013年度から、とりあえず過去15年間と言うことで1999年度までのバランスシートの変化を表したものだ。

なお、科目は沢山あるので、内部留保を巡る議論に便利なように科目を適宜整理し、以降の説明で特に触れる科目にはオレンジの網掛けをした。


(1)内部留保とは(ストックの内部留保とフローの内部留保

まず最初に、「内部留保から賃上げへ」で言うところの内部留保とは、バランスシートでは右下、純資産の中の「利益剰余金」を指すことが多い(ストックの内部留保)。

利益剰余金とは以下のように説明される。

「企業が生み出した利益を積み立てたお金で、会社内部に蓄積されているもの」
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ri/J0547.html

これが1999〜2013年度の間に倍以上、170.9兆円も増えており、“企業は利益を溜め込み過ぎ”と言われる元となっている。

なおここで「ストックの内部留保」と「フローの内部留保」と分けて書いているのには理由がある。
利益剰余金が内部留保だと言われるのは、ストックを表したバランスシートの中で内部留保を探すとしたら、という話であって、内部留保にはストック(これまでの積み上げ)の他にもフロー(毎年発生する分)の内部留保もあり、フローの内部留保で賃上げをという意見もある。
この「ストック」と「フロー」の違いも、内部留保を巡る議論を混乱させているので、後に再度触れたい。


(2)利益剰余金の言葉の説明だけでは不充分

内部留保から賃上げへ」に対する批判の多くは、この利益剰余金の言葉の説明に多くを費やす(と言うか言葉を説明して終わるだけのものも多い)。
中でも特徴的なのは、利益剰余金(内部留保)の中には積立義務のある利益準備金などが含まれるから、内部留保で賃上げするのは困難だ、といった説明だが、上の表を見て分かる通り、利益準備金は2.1兆円しか増えていない。
170.9兆円の利益剰余金の増加のうち2.1兆円なので、構成比にして1.2%ほどを占めるに過ぎない。
確かに積立義務があるとは言え、僅か2.1兆円(1.2%)の増分で、170兆円超の内部留保の性格を限定するのは行き過ぎだろう。
むしろ、170兆円の増加の大部分は、使途が比較的自由な繰越利益剰余金(135.4兆円)が占めている。
内部留保を巡る議論は、むしろこの辺りを考えることが重要だろう。


(3)内部留保の行き先は?

利益剰余金の行き先を考えることは確かに難しい。
その説明としては、表の左側、資産の部、これらを資産形成した元となっているのが右側の負債・純資産なのだが、お金にひもづけはされていないので、増加した内部留保が左側の資産のどこに使われているか分からない、というものだ。
このエントリの最初の方で書いた「内部留保は設備投資にも使われているから換金は難しい」とする主張もここから来ている。
確かに話としてはその通りではあるのだが、この表を見れば、明確な方向性が現れていることに気付く。


(4)内部留保は設備投資に使われているから換金は難しい?

設備投資の結果は、上の表で言えば左側資産の部の、有形・無形固定資産に現れる。
(元データは有形固定資産、無形固定資産となっているが、分かりやすいように合算して表している)
この有形・無形固定資産には、土地・建物・機械に加え、知的財産権やソフトウェア等といった生産資産が含まれているので、内部留保の増加に見合った活発な設備投資が行われていれば、ここが増えているはず。
ところが増えていない。
むしろ減っている。
内部留保は170.9兆円増えているのに、生産設備はむしろ36兆円のマイナスとなっている。

確かに、お金にひもづけはされていない。
だが右側の純資産で、内部留保(利益剰余金)が170兆円以上も増えているときに、その運用先である左側の資産で、生産設備関連が36兆円も減るということがあり得るのだろうか。
これはむしろ、内部留保の増加は設備投資にはそれほど結びついていない、と考えるのが自然だろう。
少なくとも内部留保の運用先や換金の難しさを説明するにあたって、生産設備を持ち出すのはミスリードではないかと思う。


(5)「投資その他の資産」の著しい増加

170兆円以上増加した内部留保(利益剰余金)の運用先として、設備投資よりも自然なのが199.8兆円増加している「投資その他の資産」だ。
「投資その他の資産」とは、以下のように説明される。

貸借対照表の借方の資産の部、固定資産のひとつ。株式配当や預金利息など、企業が利殖を目的として投資をした長期資金のことで、投資有価証券、長期貸付金などが含まれる。」
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/to/toushi_sonota.html

「大きく分けて、他の企業への資本参加を目的とする投資、長期の資産運用(利殖)を目的とする投資、その他の長期の資産の3つがあり、具体的には、投資有価証券、長期貸付金、長期預金、長期前払費用、出資金などがある。」
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/account/acc075.html

「投資その他の資産」が199.8兆円増えており、中でも株や公社債といった有価証券が170.4兆円増えている。
ではそれらの原資として何が考えられるかと右側の負債・純資産の部を見れば、負債は逆に45.1兆円減少しており、これら百数十兆円に及ぶ株や公社債などの原資になったとは考えにくい。
百数十兆円を超えるこれら有価証券の原資は、同じく百数十兆円の増加となっている利益剰余金や繰越利益剰余金であったと考えるのが自然だろう。

上の言葉の説明で見たとおり、「投資その他の資産」に計上されている株や公社債には、長期の利殖目的の他にも子会社や関連会社への出資が含まれており、真に必要性の高い株式取得等も確かに相当程度あるだろう。
しかし例えば投資有価証券では1999〜2013年度の間に、87.8兆円から258.2兆円へと3倍近くになり、170.4兆円増加している。
この中には利殖目的の高い投資も相当程度あるのではないか。
残念ながらこの法人企業統計からはそこまでは追えないが、経団連などの企業団体が「内部留保での賃上げは困難」との主張に説得力を持たせたいなら、この「投資その他の資産」中のどの程度が真に必要な出資なのか、あるいは利殖目的ではないのか、ある程度具体的な数字で説明することが求められるのではないだろか。

ちなみに、子会社や関連会社への出資であっても、「配当」や「持分法による投資益」という形で、投資側に収益が発生していることは指摘しておきたい。

※日本のGDPの過半数個人消費であり、個人消費が増えねば景気は良くならない。もし子会社などを管理するために1999年度の3倍以上、170兆円もの資金が必要で、その分が賃金に流れず景気を冷え込ませているとしたら、そのような会社分割や株式持ち合いにどのような意味があるのだろうか?


(6)現金・預金は重要か?

内部留保を巡る議論では現預金が注目されることが多く、だいたいは「現預金も増えてはいるが経営資金として必要なので、賃金に回すことは難しい」との説明になる。
ただ、ここで考えたいのは、使う当てのない多額の資金があれば、現金・預金で保管しておくよりも株や国債などの金融投資に回すはずだということ。
その方が収益性が高いし、これは企業に限らず富裕層といった個人レベルでも同じ。
当面使う当てのない余裕資金があれば、現金・預金で抱えるよりも普通は金融投資に回す。
企業も同じで、余裕資金があるのなら、当面必要そうな運転資金を残して、金融投資に回すだろう。
その意味では内部留保の話では現預金をあまり重視する必要性はないし、あまり重視しすぎるのはかえってミスリードを招く。
余裕資金の行き先として着目すべきなのは、現預金よりもむしろ「投資その他の資産(あるいは投資有価証券)」なのだから。


(7)「ストックの内部留保」と「フローの内部留保

(1)で触れたが、内部留保と言えばバランスシート上の利益剰余金(ストックの内部留保)のみを指す説明も多いが、内部留保には毎年発生するフローの内部留保もあるのだから、きちんと整理して考えることが必要だろう。
1999〜2013年度で170.9兆円の利益剰余金が増加したということは、単純計算では毎年11.4兆円の増加が発生していたことになる。
この毎年発生する留保利益、つまりフローの内部留保を賃上げに活用しようという議論も当然成り立ち得る。
どこにも分配しない利益を社内に残して、利殖を目的とした株や公社債を買う金があるのなら、賃金として分配して個人消費を活性化させる。それでこそ日本経済に需要が増え、企業の経営環境も改善し、将来的な企業利益の増加に繋がるのでは、ということだ。

内部留保の話になると、ストックの内部留保の話ばかりしてそれで終わり、といった議論もよく見かけるが、それでは議論として不充分であることを指摘しておきたい。
ストックの内部留保は、フローの内部留保が蓄積された結果なのだから。
貯金箱の中の話ばかりして、毎年発生している余裕資金には目を向けないというのは、資金活用の議論としてはおかしいだろう。


(8)まとめ

このエントリの締めくくりとして、ここまで書いてきたことをまとめておきたい。

内部留保と賃上げの話になると、ストックの内部留保(利益剰余金)の言葉の説明だけして終り、という議論があるが、それでは不充分。
・特に利益準備金の積立義務などを理由として賃金化は困難とする説明もあるが、利益準備金の存在はとても小さい(1.2%)。言葉だけの説明ではなく、やはり個々の金額を確認するアプローチが必要。
・お金にひもづけはされていないが、企業の生産設備は減っている(設備投資は増えてない)。「内部留保は設備投資に使われているから換金は難しい」との説明に説得力はない。むしろミスリード
・生産設備が減っているのに比べ、株や公社債といった「投資その他の資産」「投資有価証券」は百数十兆円の規模で増えている。この科目には利殖を目的とした投資や子会社・関連会社への投資などが混在するが、法人企業統計から内訳を追うのは困難。
・とはいえ1999年度から3倍、170兆円以上も増えている。真に必要な投資ばかりで賃上げが困難なら、企業団体側が数字的根拠をもってその理由を(利殖に回しているのではないと)説明できないと説得力がない。
内部留保の議論で現預金の話はあまり意味がない。余裕資金があれば金融資産に回すのが当然。
・ストックの内部留保とフローの内部留保を整理して考えるべき。貯金箱の話ばかりで毎年発生する余裕資金に目を向けないのは不適当。


※つけたし
だいたい書いたと思うので、あとはつけたし。

内部留保金額を母集団の企業数で割って「1社当りにすればこれくらいしかない。これでは賃上げは困難」とする説明もあるが、内部留保と賃上げの話は「賃上げ余力を持つ企業は賃上げを」という話なのだから、赤字企業まで含めた母集団数で頭割りするのは不適切。このような手法は、賃金を全労働者数で割って1人当たり平均は400万、消費余力のある高所得者はいない、と言うようなもの。

内部留保の増加は中小企業よりも大企業が大きい。これは中小企業には赤字企業が多いことによると思われるが、とは言え中小企業に賃上げ余力が少ないとは断言しにくい。中小企業は大企業に比べ、黒字化するインセンティブが乏しい。有体に言えば、利益が出そうになったら経費を増やして利益を圧縮する・赤字にするという行為が行われやすい。例えば高級車を会社名義で買って経費計上して利益圧縮するが、その高級車は実質経営者の自家用車になる、というもの。一般的に言って中小企業は大企業に比べ苦しいというのはそうだろうが、経営実態の信用性は中小企業は大企業に比べ乏しいと思う。

(追記)政治は企業経営に口出ししてはいけないか?
・企業側も政府に対し、企業減税をしてほしい、労働規制を緩和してほしいといった要求をしてきている(政治に口出しをしている)。双方が双方に望むところを伝えるのは妨げられることではないので、企業側しか要求できない、という主張はおかしい。

・これまでにも企業が苦しい時期には、エコカー補助金や家電・住宅購入への助成など、政府によって企業救済が行われてきた。経済は市場の成り行きに任せて政治は経済に関与するなと言うなら、この時も経済界から大きな批判が巻き起こってしかるべきだったが、そのような批判は無かった。むしろ経済界は喜んでこれら政府の経済への関与を受け入れた。「政治は経済に関与するな」という主張を自分の都合で出したり引っこめたりするのはおかしなことだと思う。

GDPの最大の構成要素が家計消費であり、賃金がその消費力に影響する(つまりGDPに大きく影響する)ものである以上、賃金への波及を望むのは、GDP上昇を望むなら等しいところと思う。企業はこれまで、経済対策や減税によって支えられてきているのだから、賃金引上げ余力がある企業はそれを賃金へも回して家計の購買余力を増やして欲しいと言うのは、マクロ経済を預かる政治として当然のことと思う。これは経済環境の好転となって、企業にも恩恵をもたらす。

・と言うか家計消費が盛り上がってこない限り景気は好転しないから、企業投資も回復しないし労働市場の逼迫も起こらない。経済の自律的な好循環や、企業の経営環境の改善を望めばこそ、賃金の上昇が不可欠となる。

・政治は経済の制度設計でそれを果たすべき、というのは理屈としてはその通りだとは思う。ただ、実際問題として家計の消費力の多くは、企業を通して賃金として流れていくのも事実であり、せっかく経済対策を行ってもお金が企業止まりで家計へと流れて行かないのでは効果が薄い。企業の意志に頼らず家計の購買力を増やす方策としては、あとは直接給付(例:子ども手当)や法律化といったことも考えられるが、果たしてどうか。それよりも、政治が口で言うだけで家計購買力への波及が果たせるなら、政治的コストとしてはリーズナブルだと思う。

内部留保と賃金上昇の関係を否定するなら、バランスシートの言葉の説明や「政治は経済に関与するな」といったべき論でなく、なるべく数字で語って欲しい。具体的に投資有価証券170兆円超のうち○○兆円は○○といった理由で賃金化はできないし、フローの内部留保からも○○という理由で賃金には回せないと。それでこそ説得力があるし、生産的な議論にもなる。数字を伴わない言葉の話だけでは説得力に乏しい。

(参考)企業を含む日本一国規模の資金状況をマクロ的につかむものとして、GDP統計を用いた貯蓄投資バランスがある。
近年は企業部門が過剰貯蓄の主体となっているのは、貯蓄投資バランスにも現れている。
日本の貯蓄・投資バランス(平成24年度版)
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20141130/1417355683

財務省悪玉論への違和感

安倍総理が解散・総選挙を決めて以降、財務省を批判する声が多く聞こえるようになった。

安倍総理は消費税増税に反対だったが、財務省が議員説明などをし増税させようとした。これに総理は怒った。今回の選挙は増税を認めるか否か、増税派の財務省との戦いだ。」

といった感じで、安倍総理を擁護する文脈で語られる。

だがそうだとすれば、解散・総選挙を表明した記者会見で「次回は景気条項を削除して確実に増税する」と断言したことはどう理解すればよいのか。

○首相、消費増税「17年4月 確実に実施」延期を表明
安倍晋三首相は18日夜、首相官邸で記者会見し、来年10月に予定する消費税率10%への引き上げを17年4月まで1年半延期すると表明した。「再び延期することはない。景気判断条項を付すことなく確実に実施する」とも語り、経済情勢にかかわらず再延期はしない意向を示した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK18H4F_Y4A111C1000000/

与野党、景気条項廃止に賛否
自民党谷垣禎一幹事長は「必ず(増税を)するという強い意志の表れだ」と強調。
http://jp.reuters.com/article/kyodoPoliticsNews/idJP2014120701001218

増税が景気に悪影響であることは多くの人に知られた。
1年半後になっても景気が悪いなら、再び延期すればよいし、むしろそうしなければならない。
ずっと景気が悪いなら、ずっと延期が必要だ。

それなのに、「もう延期はしない。次は経済がどうであれ必ず増税する」と「増税への強い意志」を表したことはどう理解すればいいのか。

「総理は消費税増税には反対だったのに、財務省が悪いから・・・」
との説明には、どうにも腑に落ちない疑問が残る。

穿った見方かもしれないが、安倍総理財務省との“プロレス”との見方も成り立つ。
今回の解散、安倍総理は解散の大義を厳しく問われたが、財務省を悪者にして「増税をくわだてる財務省との戦い」とすることで一応のストーリーは出来上がるし、事実ネット上ではそれなりの成果が挙がっているようにも思える。
今回、財務省は悪者となることで安倍総理解散総選挙大義を提供する代わりに、1年半後には経済状況がどうであれ消費税を増税するという見返りを得る(今回安倍自民党が大勝すれば4年間は安泰なのだからそれが可能になる)。
そういう、筋書きのある“プロレス”との見方もできる。

先に穿った見方と書いたようにこの推論は置くとしても、やはり納得を難しくしているのは景気条項を削除する点だ。

安倍総理が真実、不景気下での消費税増税に反対していたのであれば、国民に問うのは「不景気下での消費税増税は是か非か?」であったはずだ。
ならば、1年半後にも不景気であった場合に備えて景気条項を盛り込むことは当然だし、景気条項を削る必要はない。

しかし安倍総理は景気条項を削ることを表明して国民に信を問うている。
これは「1年半後には景気に関わらず消費税を増税する。是か非か?」
という問い掛けに他ならない。

国民の生活など意に介さず増税をたくらむ財務省に抵抗するために、財務省と戦う安倍総理を支持したはずなのに、その結果は1年半後の増税を支持したことになる(しかも景気に関係なく)。
何とも不思議な状況となる。


そもそも、財務省との戦いをうたうマスコミ記事などでは、財務官僚が議員への説得に周り多数派工作を行ったことを問題視しているようだが、これは官僚としては特に問題となる行動ではない。
省の抱える政策目標を達成するために、議員への説明を行って政策への理解を取り付けることは、他の省庁でもやっていることだ。

何も財務省だけでなく、経産省でも農水省でもやっていること。
と言うか、政策は議会に上がってきたものをいきなり読んでも、直ぐには理解できるものではない。
あらかじめ説明を受けて、疑問質問などを整理しておいて、それでようやく議論可能なレベルに理解できる。
その意味では、議員への個別説明と言うのは、各省庁に与えられた任務を達成するために必要不可欠な仕事だともいえる。

ここで、「与えられた任務」と書いたが、各省庁には法律によって任務が与えられている。
法律に書かれている任務だから、つまり国民によって与えられた任務と言うことになる。

では実際に、財務省にはどういう任務が与えられているかと言うと、「健全財政の確保」等の任務が、法律、つまり国民によって与えられている。
具体的には以下の条文に書いてある。

財務省設置法
第三条 財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。

こういった任務を定めた条文と言うのは各省庁にもあり、経産省農水省にも、国民によって与えられた任務と言うものがある。

ここで確認したいのは、財務省に与えられた任務としては第一番目に「健全財政」が来ているわけだが、その後の文のどこを読んでも、「景気を良くする」とか「経済の活性化」といった文言は書いていないということだ。

つまり、財務省が景気や経済を考えることは任務として与えられていない。
景気回復や経済活性化は財務省の任務では無い。
それは、内閣府経済産業省の仕事とされている。
国民がそう決めた。

財務省に関してはよく、
「大蔵省時代はもっと視野が広かったのに、財務省になってから財政にしか目が向かなくなった」
「財政が良くなれば他はどうでもいい。自分の庭のことしか考えていない」
といった言葉を聞くのだが、それもそのはず。

大蔵省時代には省の中に銀行局もあり、証券局もあり、日本経済を司る部分を抱えていた。
ありていに言えば、経済界の圧力団体を抱えていた訳であり、省の考えにもその“圧力団体”からの意向が届くし、省としても銀行や証券業の繁栄を考えなければならない。

ところが、中央省庁再編の際に、この経済部門は財務省から切り離された。
今は金融庁にある。

財務省は財政のことしか考えていない。財政が良くなれば後はどうでもいい」
と言われるが、それはある意味当然の成り行きだとも思う。

省庁再編の時に、財政の事に特化されたからだ。
「お前たちは銀行や金融のことを考える必要は無い。財政の事だけ考えろ。」
と法律によって指示されたからだ。
もちろん、政治家を通し、立法と言う形でそのような指示を出したのは、他ならぬ国民。

財務省は財政のことしか考えていない」
ある意味当然だろう。
国民がそう指示したのだから。

国民にそのような任務を与えられ、財務省が「健全財政の為に効果的な方策は何か?」と考えたとき、「景気に左右されにくい消費税だ」との結論に至るのは当然だろう。
財務省が国民から与えられている任務は「健全な景気」では無く「健全な財政」だからだ。

「そうは言っても景気回復は国全体の課題だ。省の任務はひとまず置いて、景気回復を第一に考えてくれてもいいんじゃないか。省益では無く国益だ」
と考える向きもあるだろうが、日本は法治国家であり、彼ら役人は法律に従って動くことを叩き込まれている。
彼らが何かをする際には、「法的根拠」というものが必要になる。

財務省の任務のどこを読んでも「景気回復」という文字が書いてない以上、それは彼らの行動に法的根拠を与えない。
法に基づかない行為となる。
しかも、その行為が省の任務に抵触しないならまだ許される余地もあろうが、景気回復策は健全財政には悪影響を及ぼすことにもなる。

国民から与えられ、法的に定められた任務である健全財政と、法的根拠を持たない景気回復。
どちらが優先されるかは、考えるまでもないだろう。
仮に健全財政よりも景気回復を優先させる財務官僚がいたとしても、
「君の行動の法的根拠は何か?」
と聞かれれば、その財務官僚は黙るしかない。


国民から健全な財政と言う任務を与えられた財務省が、その効果的な方策である消費増税を達成すべく、議員に説明に周り、政策の推進を図ることはある意味当然だし、むしろそれが彼らの仕事の本筋だとも言える。
それが法治国家における彼ら官僚の、法律や国民に対する誠実さだとも言える。
彼らはただ、主権者たる国民に与えられた任務に、忠実であろうとしているだけとも言える。

それで多くの議員が財務省になびいたとしたら、それは財務省の説明が説得的であったか、財務省の説明に反論し得るだけの力が議員達に無かったということだ。

もし彼ら財務省の行動が問題であるなら、総理はその指揮で財務省の行動を止めるなり、国民は彼らに与えた任務を変更すべきなのだ。

それらをせずに、ただ財務省の行動だけを問題とするのには、政治家も国民も、自分達が財務省に与えた任務を忘れ、自分達が銀行局や証券局を取り上げて財政に専念させたことを、忘れているのではないかと思う。

「今回の選挙は増税を認めるか否か、増税派の財務省との戦いだ」との声。
財務省が消費税を推進するのは当然だろう。
国民が彼らに与えた任務なのだから。
それを止めるなら政治家が指揮力を発揮することが必要だが、選挙という形になった。
そして、増税延期を支持したつもりが、1年半後の増税を支持する結果となる。

この流れは、私にはとても奇妙に思えるし、違和感を禁じ得ない。

日本の貯蓄・投資バランス(平成24年度版)

日本の貯蓄・投資バランスのグラフを最新のものに更新する。


内閣府国民経済計算確報 平成21年度・平成24年度)

グラフの細かい見方については以前の記事(http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20120104/1325677154)を参照して欲しいが、ごく大まかに言えば日本の国家規模での黒字と赤字を示している。
プラスであればその部門が黒字(貸出超過)、マイナスであれば赤字(借入超過)を意味する。

例えば2012年度では、民間が約46兆円の黒字(貸出超過)になっているのだが、そのバランスとして政府に約41兆円の赤字(借入超過)、海外に約4兆円の赤字(同)が発生していることが分かる。
(マクロ経済では、経常黒字は国内から海外に対する貸出を意味する)

黒字(貸出)と赤字(借入)は表と裏の関係なので、一国規模で見ればプラスとマイナスは概ね一致する。
したがってグラフの棒の長さもプラスとマイナスで概ね一致する。

なお、ここで言う黒字や赤字は貯蓄や投資と言い換えることもできるので、黒字=貸出=貯蓄、赤字=借入=投資と考えてもらいたい。

この最初のグラフからは、近年においても民間の黒字(貯蓄)と政府の赤字(投資)が40兆円以上のレベルで続いていることが分かる。

念の為に書いておくが、だからと言って民間が偉く政府が悪い、ということにはならない。
黒字と赤字は表と裏だから、赤字が増えないで黒字だけ増える、ということにはならない。
誰も借りてくれないで貸出だけ増やせるか?、と考えればわかるだろう。
このグラフで政府の赤字を20兆円縮小させるとしたら、民間側の黒字も20兆円縮小する。
それはつまり、経済に流れるお金が20兆円以上減ることを意味する。

言い換えれば、民間の40兆円以上の過剰貯蓄を、政府が借金という形で回収して、経済に流していることが分かるのが、このグラフだとも言える。

次のグラフは、民間を企業(企業・金融機関)と家計等(家計・非営利団体)に分けたもの。
こうすることで、民間内での貯蓄の度合いが分かるので、過剰貯蓄の主役が分かる。

以前の記事にも書いたように、1990年代の半ばを境に、それまで貯蓄の主役だった家計等に代わり、企業が貯蓄の主役になっており、その傾向は近年も続いている。
つまり、企業に資金需要が少ないことが分かる。

日本の経済政策を巡っては“企業投資を活発にする”といった考えが強く、安倍政権の第三の矢(成長戦略)にもその考えが色濃く反映されているが、そもそも企業に資金需要が少なく、投資するよりもむしろ貸出主体にまわっていることが分かるのがこのグラフ。
企業が投資しないのは投資資金が無いからではなく需要が少ないからなので、需要を増やすために家計の購買力(所得)を増やすのが先決だろう。

さて次のグラフは、2番目のグラフから企業・金融機関を抜き出し、それを非金融企業と金融機関とに分けたもの。
(非金融企業=正確に言うと非金融法人企業。金融機関を除いた一般的な企業のこと)

近年、貯蓄の主役は企業部門だが、これを見ると金融機関よりもむしろ非金融企業が貯蓄の主役になっていることが分かる。
つまり企業には資金需要も投資意欲も乏しい。

以上のように、近年においても民間の過剰貯蓄と政府の財政赤字は40兆円以上のレベルで続いているわけだが、その国債資金の供給源は家計よりも企業であり、ことに金融機関以外の一般的な企業がその過剰貯蓄の主役になっていることが分かる。
企業に投資意欲を湧かせ、この過剰貯蓄を投資に回すためには、最終消費者である家計の購買力(所得)を増やす政策が強く望まれる。

つまり、労働者の賃金増やせよ。

エボラ 〜デマに惑わされず冷静に行動するために〜

いよいよ日本でもエボラ疑い例が確認されました。
ただ、現時点での情報によると、この疑い例の男性はリベリアに滞在はしていたものの、感染者との接触は確認されていないとのこと。
このことから考えると、検査の結果陽性となる確率は高くは無いと考えます。

とは言え、いずれ日本でもエボラ患者が確認されるのは避けられないし、来るか来ないかではなく、いつ来るかの問題であると思っています。
その時のためにある程度の心構えを持ったり、情報を仕入れておくのは有益なことです。

そこで、エボラに対する基本的な情報は公の情報ソースに任せるとして、ここでは公の情報の隙間を付く、ネット上の不安を煽るようなデマに対して反論を加えておこうと思います。
(公の機関は確たる根拠が無いと断言、確言できない。そこを付いて、無責任な個人やジャーナリストは不安を煽り、注目を集めようとする。公の機関ではこれらへの即時・的確な反論は難しいので、個人的な立場から反論を加える)

このエントリで最低限確認しておくエボラの基本的な性質は以下の4つのみ。

・エボラは潜伏期には感染力は低い。発症後に感染力が強まる。
・エボラは体液(血液、下痢、嘔吐、精液、汗など)との直接接触でうつる。飛沫による感染(半径1m程度)はありうる。
・エボラの初期症状は風邪・マラリア赤痢などに似ていて区別が難しい。
・エボラは石鹸やアルコールで無害化できる。


そして、不安を煽るデマへの反論材料となる、踏まえておきたいエボラの感染例が以下の3つ。

○ナイジェリアでの例(パトリック・ソーヤー)

リベリア国内でエボラに倒れた妹を看た後、リベリアからアメリカに移動する途中、経由したナイジェリア・ラゴスの空港でぶっ倒れる。
入院後、エボラと確認。
エボラと診断されたパトリック・ソーヤーは、自暴自棄からか、自分の糞尿を医療関係者にぶちまける。
その医療関係者は政府当局の監視下に置かれたが、看護婦の女性が夫を伴ってナイジェリア国内を自動車で移動。
感染者20名で終息宣言。
ちなみにパトリック・ソーヤーはアメリカに住む娘の元に向かっていた。
非常に恐ろしい男。


セネガルの例

患者はギニア人。ギニアの検疫の目を逃れ、陸路でセネガルにある親戚の家を訪ね、滞在していた。
一度体調不良で病院に行ったものの、親戚の家に戻る。
症状が治まらないので感染症の専門病院を紹介され、エボラと確認され入院。
その後、この人物から感染は拡まらず、セネガルはこの1名で終息宣言。


アメリカの例(トーマス・エリック・ダンカン)

リベリア国内で、エボラ疑いで発病した近所の妊婦と一緒のタクシーに乗って、病院を探して連れて行った。
それだけなら心優しい男なのだが、その後アメリカに住む婚約者宅(子供も同居)に向かった。
しかも自己申告ではリベリアにいた事実は隠した。
子供も同居する婚約者宅で発症、一度病院に行くが単なる感染症として帰宅。
症状が治まらないので婚約者の呼んだ救急車で病院へ。
治療行為にあたった看護婦2名に感染したが、同居した婚約者や子供には感染せず。


これらの感染例を踏まえて、ネット上にある以下の点に一問一答形式で反論する。


・空気感染しているのでは?西アフリカではエボラの感染拡大が止まらないし。

もしエボラが空気感染するなら、アメリカのダンカンの例、セネガルの青年の例では同居人に感染しているはずだし、ナイジェリアのソーヤーの例では飛行機の同乗者に感染が拡大しているはずです。
でもそうはなっていません。
ナイジェリアとセネガルでは終息宣言が出され、アメリカでもダンカンのケースでは同居人にうつってはいません。
空気感染はしていない。


・でも西アフリカでは医療関係者が感染しているようだけど・・・?

それらの国々での医療関係者は、赤道に近い高温の国で、防護服に一日何時間も身を包み作業しています。
加えて、マスク・手袋・消毒薬といった、日本では当たり前の基本的な医療用具すら不足しています。
高温の中、一日何時間も防護服で作業していたら、集中力が衰え、うっかり注射針を自分にあてる、手順を間違えるといったこともあり得ます。
加えて、医療関係者の相手には、感染力が強まった終末期の患者達が含まれます。
こういった要素が医療関係者への感染を増やしていると考えられます。


・飛行機といった密室内では、感染の危険性は高いんじゃないの?同じ便の人がうつっているんでは?

ナイジェリアのソーヤーの例では、ソーヤーは空港に到着してぶっ倒れました。
その時点で症状はそれなりに進んでいたと思われますが、同じ便の人には感染していません。
ある程度の発症はしていても、その時点での感染力は強くないと思われます。


・でもエボラは感染力が強いって言うけど・・・?

確かにそう言われています。
ですが上に挙げたような、空港ですでに発症していたナイジェリアのソーヤー、発症しながら親戚の家に滞在していたセネガルの男性、そしてアメリカのダンカン。
いずれも飛行機の同乗者や同居人には伝染していません。
伝染したのは、治療行為にあたった医療関係者や、長時間行動を共にした家族などが主で、症状の進んだ患者に接触した人々が主です。
これらの状況から考えると、発症初期の感染力は、それ程恐れなくてもいいのでは、とも考えられます。
もちろん用心に越したことはありませんが。


・エボラの予防法は?

エボラは石鹸やアルコールでウイルス膜が破壊されるため、感染力を失います。
初歩的ですが、外から帰ったり、物を口にする時にはよく手を洗う。
風邪やインフルエンザに対する予防法が効果的と考えらえれます。

ちなみに、西アフリカではそもそもこういった石鹸やアルコールと言う消毒薬すら不足していた。
手を洗える程のきれいな水があるなら、むしろ飲む、といった環境。
こういった環境が感染者数を増やしています。


※あくまで個人的な見解ですし、記憶を主に書いているので、後日細かい事実関係については加筆・修正することがあるかもしれません。ただ、主要な事実関係については間違ってはいないと思います。

福島原発由来とされたストロンチウムの値について

最近は放射能騒ぎも少なくなって、それによって不安を煽られる人もかなり少なくなったろうと思っていたのだが、今回の10都県で福島原発由来のストロンチウムが確認されたという話は、一部で少し騒ぎになっているようだ(とは言え、以前のような騒ぎに比べれば小さくなったが)。
そして、それによってまた不安になってしまった人もいるようなので、その値がどのようなものなのか、記しておこうと思う。

私の日記では、以前からストロンチウムについても何度か書いてきた。
中でも大きな話では、昨年秋の横浜市でのストロンチウム騒動がある。
この時は、市民団体を称する団体が、排水溝の堆積物などの、過去の分析結果とは比較できないようなサンプルを使って、測定方法も精密測定とは違う簡易測定(民間分析会社)でもって「福島原発由来」と結論付けていたので、さすがにそれは問題だと書いた。

放射能がどこ由来か。
当たり前だが放射能には色が付いていないので、例えばセシウム137が検出されたといっても、それだけでは何由来かは判断できない。
それを判断するには、ストロンチウム89などのような短半減期核種を捉えるか、過去の値と比較するか、といった方法が採られる。

今回の文科省の発表というのはこれなのだが、
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/6000/5808/24/194_Sr_0724.pdf
これによれば、サンプルは月間降下物で、分析方法は日本分析センターによる精密測定なので、過去の分析結果と比較できる方法を採っている。
そして、その分析結果が、『事故前の11年間に全国で観測されたストロンチウム90 の最大値(0.30MBq/km2)を超えた』ものについて、福島原発由来と判断している。
このようなやり方なら横浜市の件とは違い妥当なので、確かに福島原発由来と判断できるだろう。

さて、それでは、その値というのはどのようなものだろうか。
福島原発由来とされたのは岩手県秋田県山形県茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の10都県で、その値は0.30〜6.0MBq/km2の範囲となる。
この値についてはどのように理解すればいいだろうか。
(ちなみに、「MBq/km2」という単位は「Bq/m2」と同じなので、以降の本文中では「Bq/m2」と表記する)

ところで、この話題に興味を持った人の中には「事故前の11年間」という部分に引っかかった人もいるかもしれない。
「事故前の11年間」ではなくそれ以上遡るとどうなのだろうかと。
そこで、その数字を見てみようと思う。
データ元は、例によって環境放射線データベースから(http://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top)。

次の表は、ストロンチウム90の月間降下物の分析結果が確認できた、1957年度から2011年度までのもので、各年度に確認された最大値を、その都道府県と共に表記した。

○各年度の最大値 (MBq/km2=Bq/m2)

年度最大値都道府県 年度最大値都道府県 年度最大値都道府県 年度最大値都道府県
195723.68東京都197124.79静岡県19850.777青森県19990.27鳥取県
195844.77東京都19725.92高知県19866.1秋田県20000.15鳥取県
195961.79東京都19739.25秋田県19870.296青森県,愛知県20010.16青森県
196052.91大阪府197419.61島根県19880.34広島県,福岡県20020.22福井県
196158.46福岡県19757.4高知県19890.3北海道20030.092北海道
1962206.46秋田県19763.441石川県19900.56富山県20040.14和歌山県
1963357.79宮城県197711.47石川県19910.4新潟県20050.3北海道
1964206.83新潟県197813.32高知県19920.36新潟県20060.25和歌山県
196560.31福井県19799.25沖縄県19930.49宮崎県20070.26和歌山県
196626.27高知県19803.885石川県19940.34鳥取県20080.23和歌山県
196717.02高知県19819.62秋田県19950.44千葉県20090.22和歌山県
196814.06高知県19821.221秋田県19960.22鳥取県20106茨城県
196915.91石川県19830.851石川県19970.17広島県20114.4茨城県
197019.98東京都19840.851青森県19980.18鳥取県   
2010年度の6Bq/m2(茨城県)と、2011年度の4.4Bq/m2(茨城県)が原発事故後の数字で、新聞記事などで最大値と表記されているものがこれにあたる。
確かに、過去11年(1999年度から)の数字と比較すれば高いものの、年度を遡れば、遥かに大きな数字が沢山ある。

一番古い数字の1957年度から、23.68Bq/m2と、既に今回の数字を大きく超える値が出ているし、1962〜1964年度では200〜350Bq/m2というレベルの、とても高い値が出ている。
おそらくこのあたりで核実験が盛んだったのだろうが、この数字は200〜350Bq/m2というストロンチウム90が降っていたことを意味する。

その後は(おそらくは核実験の減少から)、降下物中のストロンチウム90も減少傾向が続くが、今回の事故の6Bq/m2というレベルは、1981年度まで続いていたことが分かる。
その後1986年度にも再び6Bq/m2を超えるが、これはチェルノブイリによる影響だろう。

ということで、最近は目立った核実験が無いからストロンチウム90もさすがに少なくなっており、6Bq/m2という数字も大きく見えるが、過去に遡れば遥かに大きな数字が降っていたことが分かる。
もちろん私達は、そういう中で生活をしてきた。


ここで、大きな数字の話しが出たところで、過去に確認されたストロンチウム90・月間降下物のTOP30を確認してみる。

○過去の最大値 TOP30 (MBq/km2=Bq/m2)

順位放射能都道府県年度 順位放射能都道府県年度 順位放射能都道府県年度
1357.79宮城県196311206.83新潟県196421181.3岡山県1963
2307.84鹿児島県196312206.46秋田県196222180.93秋田県1963
3291.93高知県196313204.98広島県196323174.64石川県1963
4259.74高知県196314199.8埼玉県196324170.2愛知県1963
5247.9愛知県196315199.06和歌山県196325169.83東京都1963
6229.4秋田県196316196.47青森県196326168.35京都府1963
7226.81長崎県196317196.47高知県196427166.5宮城県1964
8224.22東京都196318193.88北海道196428165.39東京都1963
9217.93静岡県196319189.44鳥取県196329164.65宮城県1964
10207.94秋田県196320185.74鹿児島県196330157.25鳥取県1963
このように、1963年度を中心に150Bq/m2超の大きな値が数多く確認できるわけだが、これは何も、単に大きな数字を示すためにこのような表を作ったのではない。
この表で注目してもらいたいのは、都道府県の欄。
北は北海道から南は鹿児島まで、150Bq/m2超の値は、何も特定の場所だけではなく、日本国中至るところで降っていたことが分かる。
つまりこの時代は、このような環境で生活をしていたということになる。


次は、TOP30では現れてこない都道府県もあるので、次の表では若干視点を変えて、47都道府県のこれまでの最大値を整理してみた(ストロンチウム90・月間降下物)。

都道府県ごとの過去の最大値 (MBq/km2=Bq/m2)

都道府県最大値最大年度開始年度 都道府県最大値最大年度開始年度 都道府県最大値最大年度開始年度
北海道193.8819641959石川県174.6419631963岡山県181.319631963
青森県196.4719631963福井県146.8919631963広島県204.9819631963
岩手県0.7420111987山梨県0.03619971994山口県9.9919701970
宮城県357.7919631959長野県2.9619781976徳島県0.119981990
秋田県229.419631959岐阜県0.119921992香川県0.07620041990
山形県4.0719741974静岡県217.9319631963愛媛県2.70119771977
福島県15.9119741967愛知県247.919631963高知県291.9319631963
茨城県128.0219641963三重県0.1819941989福岡県151.3319631959
栃木県1.220101987滋賀県0.0519941990佐賀県7.419711971
群馬県1.920101990京都府168.3519631963長崎県226.8119631963
埼玉県199.819631963大阪府125.4319631959熊本県0.1119911990
千葉県2.99719811979兵庫県155.419631963大分県0.0519951990
東京都224.2219631957奈良県0.07720041992宮崎県0.4919931991
神奈川県116.1819631963和歌山県199.0619631963鹿児島県307.8419631963
新潟県206.8319641963鳥取県189.4419631963沖縄県9.2519791972
富山県0.5619901988島根県19.6119741970
※「開始年度」は、最も古い分析結果が確認できた年度を示す。

放射能で騒ぐ人というのは、この表の、例えば山梨県(0.036Bq/m2)や岐阜県(0.1Bq/m2)を見て、「山梨県岐阜県ならストロンチウム90が少ない。そこなら安全!」と思ってしまうかもしれないが、そのような理解では不充分だ。
というのも、「開始年度」の欄を見てもらえれば分かるのだが、山梨県岐阜県の分析結果は1990年代から始まっている。

最も値の大きかった、1960年代前半の分析結果が無いので、単に表にしてしまえばこのように少ない数字に見えてしまう。
注意深く見ていけば、1960年代前半の分析結果が確認できる都道府県は、軒並み100Bq/m2以上のストロンチウム90が降下していたことが分かるだろう。
つまりこの表から何が言いたいかというと、繰り返しになるが、核実験が盛んだったこの頃は、こういう値が日本国中(と言うか世界中)に降り注いでいたのであり、こういう環境の中で生活してきたということ。


さて、話は戻って、今回の福島原発由来の0.30〜6.0Bq/m2という数字。
この数字をどのように理解すればいいだろうか。

確かに、核実験がほとんど無くなっていたここ最近としては高い値だが、過去を振り返ればこれよりも遥かに大きな数字があったし、少なくとも1981年度くらいまでは6Bq/m2超が観測されるような状況は続いていた。
今30歳以上の人達は、そういう環境の中で暮らしてきた。

正直言って、このくらいの値では、環境や人体に影響を与えるほどのものでは無いと言えるだろう。
※ちなみに、今回の文科省の発表の中でも、以下のような文章で、暗に大したことないよ、と言っていたりもする。
『なお、事故前11年間の環境放射能水準調査において観測された、茨城県内の土壌中のストロンチウム90の沈着量は72〜950MBq/km2の範囲にあり、これと比べると、今回月間降下物で観測されたストロンチウム90の放射能濃度の値は0.6〜8.3%と小さい値となっています。』


今回の「福島原発由来のストロンチウム」という報道を見て、一部では例によって、

「東京までストロンチウムが!」
「関東終わった!」
「関東危険だ避難しろ!」
「関東は子供を育てる環境では無い!」
「いやうちは子供にサプリ飲ませてるから大丈夫!」

といった反応が見られるわけだが、過去の数字を確認すれば、これらの反応がいかに過剰で、いかにセンセーショナルなものかが分かるだろう。

0.30〜6.0Bq/m2という値で関東が終わるなら、50年も前に終わっていなければならない。
このような値で子供が育たないならば、立派に成長している今の大人は一体何なのか、という話になる。

このような騒ぎで心配になったり、不安になったりする必要は、全く無いと言えるだろう。

※例によって取り急ぎ書いた。後日加筆修正の可能性あり。