放射線の話を、ごく簡単に(でも長くなった)

ネットをチラチラ見ていたら、東京の辺りでも、西へ避難している人がいるようだ。

なので、ごく簡単に、今起きている、放射線の話をしてみようと思う。


まず、昨日今日あたりにかけて、400mSv/時という数字が、だいぶ人々を驚かせ、放射線に対する恐怖を煽っているようだ。

この400mSv/時という数字だけを見れば、確かに危険なレベルなのだが、それは福島原発の中での話(より正確には3号機周辺)。

この数字は、このレベルの放射線量が1時間継続する条件で、福島原発の中に1時間立ち続けていれば、400mSv被曝することを示している。
もちろん、そんな人はいないだろうし、東京とかに影響する話でもない。

福島原発の中で1時間立ち続ける人もいないだろうし、400mSvというレベルが1時間継続するかどうかも分からない。

そもそも、放射線は距離が離れれば急激に弱まる。
「距離の2乗に反比例して弱まる」と言われたりするのだが、具体的に言えば、2倍離れれば1/4になるし、10倍離れれば1/100になる。

仮に400mSvが放射線源から100mの地点で観測されたとすれば、1km離れれば、
1/100になるし、10km離れれば1/10000になる。
この場合の10km地点の放射線量は、0.04mSv、μに直すと40μSvになる。

これに準じて、50km以上離れたいわき市ではどうなるか、100km以上離れた水戸ではどうなるか、200km以上離れた東京ではどうなるかは、興味がある人が計算してみてください。

つまり、ここで何が言いたいかというと、「400mSV出た、これは凄い値だ」と聞いて、遠くの方の人まで心配しているようだけれど、この値が遠くまで影響する可能性は、ほとんどゼロだということ。
これを心配するくらいなら、明日階段でつまづいて転ばないか、そっちの心配をした方が、有益なレベルだと思う。



そんなわけで、災害対策本部で住民の安全を考えている人は、こういう事故現場の数字を心配して、避難とかを考えているわけではない。

住民の安全にとって大事なのは、こういう事故現場の数字ではなく、放射性物質が、気体状になって流れてくる、その放射性物質から受ける放射線の量だ。
これを考えて、どこまでを避難範囲にするべきか、どこまでを屋内退避にすべきかを考えている。


ここで、放射線が人体に与える影響を確認しておこう。
放射線が健康に影響を及ぼすレベルはどのくらいかというと、200mSvとなっている。
これ以下の被曝量では、放射線による障害の臨床的知見は無い。

これを、よく聞くμ(マイクロ)という単位に直すと、200,000μSvになる。
これを超えてくるようだと、健康への影響を真剣に考え出さなくてはならない。
(上で見た400mSvが観測された時の、この線源による10km地点の放射線量は、40μSvであったと推測される)

ちなみに、これもよく心配される、将来のガンや、遺伝的影響については、ガンについては50mSv以下(50,000μSv以下)なら増加せず、遺伝については幾ら浴びても、影響は確認されていない。

ちなみに、仕事として放射線を扱う人(原子力関係者、医療関係者)の年間限度が、この50mSvとされている。
話としては、比較的厳格に被曝線量を管理されている原発関係者と違い、医療関係者は、この50mSvを超えてしまうことも結構ある、という話もあるようだ。
だからと言って、医療関係者に健康上の障害が出たとか、ガンが増えたとかの話は特に無いらしい。


一方、住民の安全を守る避難計画の方はどうなっているかと言うと、国の指針によれば、予測される線量が「10mSv」で屋内退避、又は避難ということになっている(この数字の大元は国際放射線防護委員会だったと思う)。
これもμに直しておけば、10,000μSvになる。

実際に体に影響の出始める、50mSvや200mSvといった数字よりも、かなり低いレベルで、避難が考えられていることが分かる。
ちなみに、実際の現場では、この10mSvよりもさらに低い値であっても、避難が決定されている(JCOの例)。
それだけ、安全側に考えているということなのだろう。

「避難」と聞くと、危険がそこまで迫っているのかと、不安になってしまうだろうが、数字としてはそのようになっていて、安全側に考えて、実際には数字上の必要性よりもより広い範囲を対象に、避難指示が行われるのだと考えれば、少しは気が休まるのではないだろうか。



まぁそんなわけで、今行われている避難指示は、こういう考えが背景にあってのことだと思うし、避難指示が行われていない茨城や東京の放射線量の危険性も、推して知るべし、ということになるのだろう。

今回観測された北茨城の15.8μSv/時も、普段の約300倍とは言え、避難レベルになる10,000μSvに比べると、まだ開きがあるし、健康に影響の出るとされる50,000μSvや200,000mSvに対しては、もっと開きがある。
しかも、その15.8μSv/時が、24時間継続するというわけでもない。

東京や神奈川で観測されたレベルなんて、申し訳ないけど、防災の観点からすれば、お話にならないレベルだと思う。
ちなみに、本日19時10分現在の、神奈川で観測された最大レベルで、多く見積もっても、
0.083μSv/時だ。
これで西へ避難するのは、ちょっとどうかと思う。


そんなわけで、私が言いたいこととしては。
通常より高い放射線が確認されているのは事実である。
だが、よく誤解されがちではあるが、放射線量が高くなれば、それだけ健康に影響が出る、という単純なものでもない。
放射線量が2倍になれば、健康にも2倍影響が出る、という単純なものではない。
放射線障害とは、ある一定の、ものすごく高いレベルの放射線量に達したときに、始めて影響が出るものだ。

いま観測されているレベルでは、とてもそんなレベルに達するものはなく、まして東京の人間が、西へ逃げるようなレベルのものでは全く無い。

むしろその程度の東京人が、泡食ってガソリンや食料を買いだめに走る方が、全体ではむしろマイナスだ。


最後に、昨日も書いたことだけど、今も水戸以北で仕事をしている、放射線に詳しい知り合いに、東海村で通常より高い値が出たことについて、質問した話。

・この数字をどう思うか?
・自分はともかく、家族の避難を考えるか?

という質問をした。
返ってきた答えは、

・(家族の)避難など【全く考えない】



〔毒のつけたし〕
都会に住んでる、都会は都会だけで成り立ってるとでも言いそうな人間は、普段は、やれ政治が悪いだの、やれ改革がどうだのと、頭デッカチなことを言っている割には、こういうことになると全く弱いのな。

まぁ、西へ逃げたきゃ逃げればいいんじゃない?
自分としては時間と金の無駄だと思うけど、まぁ宿泊費やら移動費やらで、無駄金使ってくれれば、日本経済にも多少はいいだろうしね。

ああ、でも、物資の買い溜めだけはするなよ。
被災地では現実に目の前の物資に困っているのに、全然事態が緊迫してもいない人間に買い溜めされると、迷惑だからな。

まぁ、都会は都会だけで成り立っていると考えそうな人間は、
「まずは危機に直面していない自分達が安心できるまで備蓄をしてからだ。危機に直面している被災地に物資が届くのはそれからだ」
という行動をしているけどね。