残念であるがやむを得ない

汚染水が海へ漏れ出ていることについては、先日来、原子炉を冷却することの緊急性から考えれば、現時点では止むを得ない、という趣旨のことを書いてきた。

汚染水の海への流出は、確かに出来ることなら回避したいのだが、そのために原子炉の冷却の手を緩めてしまうと、今度はそれよりも、もっと悩ましい事態になる。

原子炉冷却の手を緩めれば、今よりも、もっともっと高濃度の汚染水が流出してしまうことにもなりかねないし、土壌汚染の危険性も高まる。

だから、現時点では、原子炉の冷却を優先するためには、汚染水が海へ流出することを、我慢しなければならないような状況にある。
トータルでの被害を、より少なくするために。

この経緯について、本日発表された原子力安全保安院の資料がよくまとまっていると思うので、簡潔にして箇条書きで引用する(5・6号機のサブドレン関係は省略する)。
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110404003/20110404003-3.pdf

東京電力が、低レベル排水を海洋に放出したい理由は、以下の通り。
・2号機タービン建屋に溜まっている、【高濃度】の排水が海へ漏れていることから、【緊急に】この排水を別の場所に移す必要がある。
・移す先としては、「集中廃棄物処理施設」を考えているが、ここには既に、【低レベル】の放射性排水が入っていて、他に移す先も無い。
・このため、【高濃度】の排水を移す容量を確保するため、【低レベルの】排水を海洋に放出する。

○これに対し、保安院は「海洋放出に係る事実関係、影響評価、放出の考え方等」の報告を東京電力に求める。回答は以下の通り。
・2号機タービン建屋に溜まっている、【高濃度】排水が海へ流出することを抑えるには、集中廃棄物処理施設を使うことが必要である。
・しかし、集中廃棄物処理施設には既に【低レベル】排水が入っており、他に移す先が無く、海洋に放出せざるを得ない。
・海洋放出による悪影響を抑えるため、放出先は滞留しやすい湾内ではなく、直接湾外に行う。
・今回の排出に伴う人への影響については、近辺の水産物を毎日食べ続けたとして、年間0.6mSvと評価され、人体に問題は無い。

保安院としては、以上を確認し、人の健康への有意な影響は無く、【大きな危険を回避するためにやむを得ない】ものと判断した。
なお、東電に対しては、現在行っている海洋モニタリングを強化し影響を調査・確認することと、海洋への放出を可能な限り低減することを併せて指示した。


となる。

【高濃度】排水の、海への流出を抑えるために、やむを得ず、【低レベル】排水の放出を、選択せざるを得なかったということだ。


誰だって、海への放出などしたくない。
それがどんな意味を持つか、世間にどう受け取られるか、今後に何が待っているか、誰だって分かっている。

分かっていてなお、海への放出をせざるを得ないと判断した。
それだけ、プラントを預かるものとして、苦渋の判断を行なったということなのだろう。

批判は物凄いだろう。
今後に待っている運命も、物凄いものがあるだろう。

それでも、これが冷却系の復旧に一番いいと判断したのなら、これが全体の被害を一番低く抑える方法だと判断したのなら、私は、これによる一日も早い冷却系の復旧を、ただ応援する他は無い。



ところで、【低レベル】放射性排水と言っているが、これはマスコミの記事でも説明がされていないので、ここで簡単にどんなものか説明しておく。

低レベルの液体廃棄物とは、作業着の洗濯水、床掃除などの雑用水、配管やポンプなどの機器排水といった水を指す
これは通常であれば、「集中廃棄物処理施設」といった所に貯められ、蒸発や沈殿などで濃縮して体積を減らしたあと、残った固形物はドラム缶に貯められ埋設処理、蒸発させた水分などは海へ放流される。

今回は、こういった処理過程を経ずに、そのまま海へ放流することになる。

ここで、処理過程を経ていないので、どの程度の放射能があるかが問題となる。

ちなみに、低レベル排水の基準としては、一例として、IAEAの0.037〜37Bq/mlというものがある。
ごく単純に、単純平均の18,518,500Bq/トンで計算すると、11,500トンならば、2130億ベクレル相当になるだろう。

しかし、どの程度の放射能があるかは事業者の計測によるところが一番正確で、今回は1700億ベクレルということだから、単純平均よりも、幾分低い放射能であったということになるだろうか。

もちろん、たとえどんな値だって、そのまま放出はしたくなかっただろうが。