日本の基準はチェルノブイリの4倍、という話について


<福島第1原発>「土壌汚染600平方キロ」推計値を報告
毎日新聞 - 05月24日 21:03)
 東京電力福島第1原発事故で、原子力発電環境整備機構(NUMO)の河田東海夫(とみお)フェローは24日、内閣府原子力委員会近藤駿介委員長)の定例会で、旧ソ連チェルノブイリ原発事故(86年)で居住禁止となった区域と同レベルの土壌汚染が、福島県内で約600平方キロにわたって広がっているとの推計値を報告した。河田氏は「大規模な土壌改良が不可欠だ」との見解を示した。
 チェルノブイリ原発事故では、1平方メートル当たり148万ベクレル以上の土壌汚染地域約3100平方キロを居住禁止、同55万〜148万ベクレルの汚染地域約7200平方キロを農業禁止区域とした。
 河田氏は、文部科学省が作成した大気中の放射線量地図を基に、福島県内で土壌中の放射性物質セシウム137(半減期30年)」の蓄積量を算定した。その結果、1平方メートル当たり148万ベクレル以上の地域は、東京23区の面積に相当する約600平方キロ、同55万〜148万ベクレルの地域は約700平方キロあり、それぞれ複数の自治体にまたがっている。
 チェルノブイリ事故では年間5ミリシーベルトの被ばくを居住禁止の基準とした。自然に被ばくする線量は世界平均で年間2.4ミリシーベルト、ブラジルやイランの一部地域では同10ミリシーベルトに達していることを考慮すると厳しかった。今回の事故で政府は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を基に空間線量年間20ミリシーベルトを避難地域の基準にしている。河田氏は「福島では土の上下を入れ替えるなど、対応をしっかりすれば避難者は戻ることが可能」と冷静な対応を呼びかけている。【比嘉洋】

ここ数日、疑問に思っていたこと。
記事の最後の方にある、
チェルノブイリ事故では年間5ミリシーベルトの被ばくを居住禁止の基準とした」
というもの。

これ読んで、「日本の基準はチェルノブイリの4倍! 殺人的だ!」という批判がある。

元々は広瀬隆という、この話では有名な(アレな)人が発信元みたいで、山本太郎も乗っかっているらしい。


で、この話の中身なんだけど、確かに、チェルノブイリで5mSvという基準があったのは間違いではない。
ただし、それは事故から≪5年後≫の話。

事故から5年後に、5mSv以上にした。
正確に言えば、セシウム137が15キュリー/km2以上の地域が移住地域となるように、基準が改められたという話。

では、それまでの被曝限度はどうだったかというと、事故の1年目は100mSv、2年目は50mSv、3〜4年目は30mSv、5年目で5mSv(うち外部被曝内部被曝が50%ずつ)というもの。
つまり、事故当初からいきなり5mSvだったわけではなく、段階的に減らして行ってる。
ちなみに、最終的に1mSvまで基準が下がるのは、事故から13年目とされていた。
もちろん、日本は事故から1年目でも、チェルノブイリのような50mSvに達する基準は設定していない。

で、その事故から5年間で何があったかというと、ヨウ素131やセシウム134といった比較的短い半減期放射性物質は自然に減るし(ヨウ素131はゼロ、セシウム134は19%に減る)、雨や風で洗われるし、土壌中に移行した放射性物質放射線は表土によって遮蔽されるし、軍隊による表土剥ぎ取りなんかの除染作業があったし、農地では耕作によってかき混ぜられるので、やっぱり表面近くにあった放射性物質が土壌中にすき込まれて土壌に遮蔽されるし、要は色々と、放射線の低減に繋がることが起きていた。


冒頭の、「チェルノブイリは5mSvなのに日本は20mSv!」というのは、事故から5年の間に色々と放射性物質を減らしていった後の状況と、事故から1箇月目の日本を比べているわけで、ちょっとフェアな比較では無いと思う。

では、日本の避難はどうなのかというと、文科省ではセシウム137の地表への蓄積量を調べていて、
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/05/06/1305820_20110506.pdf#page=6
この図で言うと、だいたい緑色(600,000Bq/m2)のエリア以上が、チェルノブイリの5年後に移住とされた、15キュリー/km2(555,000Bq/m2)エリアに相当する。

で、このエリアは、既に設定されている、計画的避難区域のエリアとだいたい合致する。
http://www.asahi.com/politics/gallery_e/view_photo.html?politics-pg/0411/TKY201104110586.jpg

つまり、チェルノブイリの5年後と同じように、セシウム137の沈着状況で避難範囲を考えるなら、日本は既に、避難区域に設定済であると言える。
(しかも当然、これからの5年間での減少を考慮すれば、このエリアはもっと縮まってくると思われる)

事故から5年後に設定されたチェルノブイリと、事故から1箇月後に設定済みの日本。
どちらが、より適切な対応であったのだろうか。
私には、「日本の対応は、チェルノブイリより殺人的!」とは思えないのだが。

それにしても、この毎日新聞の記者は、「チェルノブイリ事故では年間5ミリシーベルトの被ばくを居住禁止の基準とした」と、全国紙でサラッと書いてしまって、マズイと思わないのだろうか。
誤解を招く表現だと思うのだが。
嘘は言っていないから別にいい、ということなんだろうかね。