学校での被曝は、1mSvを目指すとなった件


■福島の学校、線量年1ミリ・シーベルト以下目標 (読売新聞 - 05月27日)
 高木文部科学相は27日の閣議後の記者会見で、福島県内の学校で子供が1年間に浴びる放射線量について、「今年度は当面、年間1ミリ・シーベルト以下を目指す」と述べた。
 これまで同省が示していた基準(年間1ミリ・シーベルト〜20ミリ・シーベルト)は変えないものの、初めて「1ミリ・シーベルト以下」という目標に言及した。
 また、小中学校の校庭などで通常より高い放射線量が検出され、一部自治体で進めている表土除去費用については、98%までは国費で負担する方針も示した。残り2%は自治体の負担となる。
 同省は「上限20ミリ・シーベルト」を根拠に校庭などで毎時3・8マイクロ・シーベルト以上の場合は、体育や部活動を1時間以内に制限するなどの基準を策定。これについては、保護者などから基準の引き下げを求める声があがっていたこともあり、高木文科相は「20ミリ・シーベルトを目安としつつ、できる限り線量を減らしていく」として、可能な限り低い線量を目指す考えを示した。


このことについて、文科省からの発表は以下のとおり。

福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1306590.htm

この中で、問題の子供達の被曝線量については、以下のような表現となっている。

『暫定的考え方で示した年間1ミリシーベルトから20ミリシーベルトを目安とし,今後できる限り,児童生徒等の受ける線量を減らしていくという基本に立って,今年度,学校において児童生徒等が受ける線量について,当面,年間1ミリシーベルト以下を目指す。』

年間20mSvの上限自体は変えないが、なるべく実際に受ける被曝量を減らしていくようにしますよ。
とりあえず今年度については、年間1mSvを目指しますよ、ということ。

この数字を私なりに、少し考えてみる。

ところで、最初に言っておくと、
『今年度,学校において児童生徒等が受ける線量について,当面,年間1ミリシーベルト以下を目指す』
この文章は、なかなか上手い文章と言うか、深い文章だと思う。
(これだけ読んでピンと来た人は、センスいいかも)

さて、1mSvについて。

こないだの日記でも書いたが、これまでの上限が20mSvであったとしても、文科省も、実際に学校で20mSv被曝すると見込んでいたわけではない。
学校で実際に受ける線量は、上限3.8μSv/hの学校でも、1.67mSv程度と推計されている。

○学校の20mSvの話
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20110609/1307613161

加えて、文科省は、4月時点で3.8μSv/hを超えた55校で、子供と一緒にいる教員に積算線量計を持たせ、子供の実際の動きに合わせた線量をモニタリングしている。

それによると、
5月9日〜5月15日の測定結果では、積算線量の時間平均は、最少0〜最大0.70μSv/h(平均0.19μSv/h)で、学校滞在時間から年間に直すと、学校で受ける線量は、最少0〜最大1.12mSv(平均0.31mSv)程度となる。
そして、調査対象55校の内訳は、以下のようになる。
【学校における積算線量予測(年間)】
・0.5mSv未満 48校
・0.5〜1mSv未満 5校
・1mSv以上 2校 ←←←←←←←注目

5月16日〜5月22日の測定結果では、積算線量の時間平均は、最少0.07〜最大0.79μSv/h(平均0.19μSv/h)で、同じように年間に直すと、最少0.11〜最大1.26mSv(平均0.31mSv)程度。
同じく内訳は以下のようになる。
【学校における積算線量予測(年間)】
・0.5mSv 未満 48校
・0.5〜1mSv 未満 6校
・1mSv 以上 1校 ←←←←←←←注目

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/05/26/1305995_0526_2.pdf

この、5月9日〜22日の結果から年間に直した線量は、単に測定時点の線量を年間に直しただけで、これからの自然減衰分などは含まれていないわけだが、それを考慮しなくても、年間1mSvを超えるのは、1〜2校に留まっている。
これは、4月の時点で3.8μSv/hを超えていた、線量の高い学校であっても、実際の被曝量で1mSvを超えそうなのは、現時点では1〜2校しか無いということ。

もちろん、これらの学校では、屋外活動などを自主的に制限していたりして、それらによって実際の被曝量が低く抑えられているという要因はあるのだが、それを考えたとしても、実際の被曝量は20mSvといったオーダーではなく、もっと低いレベルにあることが分かる。
(5月16日〜5月22日で最も高い値を出した福島市立大波小学校において、毎日屋外で1時間活動したとして、積算線量に3.8μSv/日を加えて計算したとしても、年間2mSv程度)
それに、自然減衰などの低下要因は、これとは別にあるわけで。

そもそも、これまでの上限20mSvという数字は、実際に子供達が学校でそこまで被曝すると見込まれた数字ではなく、様々な仮定により安全側に設定した数値。
8月までの暫定の数字だったし、低減策も検討されていた数字。

それが何か、そういう計算の前提は吹っ飛んで、20mSvという数字だけが一人歩きして、子供に20mSvを強要するのかみたいな、変な話になっていった。

そもそも、20mSvと言い出せば、学校よりも計画的避難区域の方が先だし、計画的避難区域外にも子供は住んでいるわけで、騒ぐならその時から騒がなきゃ変だし、子供達の実際の生活パターンを考えても、学校というのは生活の一部で、実際には家に帰ってからの時間の方が長いんだから、そっちの方が重要だと、文科省も言ってたわけなんだけど。

そう言ってたわけなんだけど、「学校! 20mSv! 文科省は殺人犯!」みたいになってしまったのは、なんか、「20mSv」という数字と「学校」という単語が組み合わさったことで、ヒステリックになってしまったんじゃないかとも思う。

今回の文科省の発表を受けて、マスコミは「大きな前進だ」とか言ってるし、市民団体は「我々の勝利だ」と言うかもしれないが、上で見てきたように、そういう話とは少し違うことが分かると思う。

文科省は、『学校において児童生徒等が受ける線量について』、1ミリシーベルトを目指すよ、と言っているわけで。
『学校において受ける線量』と言っているわけで。

つまり、

「20mSv → 1mSv」

にするよと言ったわけではなく、

「1.67mSv → 1mSv」

あるいは、

「1.26mSv → 1mSv」

を目指すよ、と言っているわけで。

これまでの数値が8月までの暫定基準で、低減策も検討されていた事を思えば、これらは文科省にとっては、始めから想定していた路線だったんじゃないかな。

「大きな前進だ」とか「我々の勝利だ」とか言うとしたら、20mSvの数字の意味を、計算の意味を、分かっていなかったとしか思えない。
まぁ、そういう、数字の意味を理解せずに、数字だけ見て「20mSv!20mSv!」と騒ぐ人達向けには、
『学校において児童生徒等が受ける線量について,当面,年間1ミリシーベルト以下を目指す』
という表現は、上手い表現をしたなぁと思う。

実質的にやることは何も変わっていなくても、表現一つで、彼らに花を持たせる形で、なだめるわけだからね。
まぁ逆に言えば、表現一つであしらわれてしまう人達、とも言えるわけだが。