基準値を守って生じる余裕

前回の日記で、飲食物の基準値について書いたが、その中で、
「今の基準値というものは、全ての年齢段階に通用するように、食品群ごとに、各年齢段階の最も厳しい値を採用して設定されている」
という趣旨の事を書いた。

基準値は、甲状腺等価線量なら50mSv、実効線量なら5mSvを超えないように設定されたわけなのだが、「食品群ごとに、各年齢段階の最も厳しい値を採用して設定された」のなら、違う言い方をすれば、上限値まで汚染を受けた食品を1年間食べ続けても、各年代が実際に受ける線量は5mSvを下回るのではないか、という疑問が沸く。

そこで、基準値上限まで汚染を受けた食品を、各年代が1年間食べ続けた場合の被曝量を計算してみた。

なお、(前回も書いた事だが)計算では、食品の汚染は物理的半減期によって減少すると想定されている。


甲状腺等価線量(放射性ヨウ素群)

数字の並びは、以下を意味する。
(実際にその年代が11.1mSvに達する濃度)−(基準値)−(基準値から受ける線量)

・乳児
水   322Bq −  100Bq − 3.45mSv
乳   382Bq −  300Bq − 8.74mSv
野菜 3880Bq − 2000Bq − 6.80mSv
合計 18.99mSv

・幼児
水   424Bq −  300Bq − 7.86mSv
乳   849Bq −  300Bq − 3.93mSv
野菜 2500Bq − 2000Bq − 8.91mSv
合計 20.70mSv

・成人
水   1270Bq −  300Bq − 2.63mSv
乳  10500Bq −  300Bq − 0.32mSv
野菜  5220Bq − 2000Bq − 4.26mSv
合計  7.21mSv

ここで、放射性ヨウ素では魚介類の基準値が設定されていなかったが、これも前回計算した、魚介類から受ける線量(乳児2.4mSv、幼児3.4mSv、成人1.3mSv)を合算すると、

乳児  21.39mSv
幼児  24.10mSv
成人   8.51mSv

となる。
基準値は、50mSvのうち16.7mSvを余裕分とし、残りの33.3mSvを超えないように考えられたのだが、各年齢段階の最も厳しい値を基準値としたことから、実際的には、全ての年齢段階において33.3mSvを下回ると見込まれる。
この下回った部分は、そのまま余裕分となるだろう。


■実効線量(放射性セシウムストロンチウム

ここでも、数字の並びは、以下を意味する。
(実際にその年代が1mSvに達する濃度)−(基準値)−(基準値から受ける線量)

・乳児
水    228Bq − 200Bq − 0.88mSv
乳    270Bq − 200Bq − 0.74mSv
野菜  1540Bq − 500Bq − 0.32mSv
穀類  2940Bq − 500Bq − 0.17mSv
肉他  3234Bq − 500Bq − 0.15mSv
合計  2.26mSv

・幼児
水    421Bq − 200Bq − 0.47mSv
乳    843Bq − 200Bq − 0.24mSv
野菜  1686Bq − 500Bq − 0.30mSv
穀類  3830Bq − 500Bq − 0.13mSv
肉他  4010Bq − 500Bq − 0.12mSv
合計  1.29mSv

・成人
水    201Bq − 200Bq − 0.99mSv
乳   1660Bq − 200Bq − 0.12mSv
野菜   554Bq − 500Bq − 0.90mSv
穀類  1110Bq − 500Bq − 0.45mSv
肉他   664Bq − 500Bq − 0.75mSv
合計  3.21mSv

ここでもやはり、全ての年齢段階において5mSvを下回るが、この値は基準値設定時に想定されていたとおり、ストロンチウムによる寄与が約37%あるとする数字だ。
これまでのモニタリングによると、ストロンチウムの存在比は基準値設定時に想定されていた0.1よりももっと低く、0.0001〜0.0005であるとの結果が出ている。
そこで、ストロンチウムの寄与にモニタリング結果を反映させ、ストロンチウム存在比は0.0005として再計算すると、こうなる。

・乳児
水   0.56mSv
乳   0.47mSv
野菜  0.21mSv
穀類  0.11mSv
肉他  0.10mSv
合計  1.45mSv

・幼児
水   0.38mSv
乳   0.19mSv
野菜  0.24mSv
穀類  0.10mSv
肉他  0.10mSv
合計  1.01mSv

・成人
水   0.91mSv
乳   0.11mSv
野菜  0.83mSv
穀類  0.41mSv
肉他  0.69mSv
合計  2.95mSv


このように、ストロンチウムのモニタリング結果を反映させると更に下がる。
これらの数字と5mSvとの差もまた、余裕分ということになるだろう。


基準値は、各年齢段階の最も厳しい値を採用して決められている。
その結果、単純に基準値を守っただけでも、実際の被曝量は50mSvや5mSvを下回り、余裕が発生することが分かる。

この他にも、前回も書いたとおり、放射能が減る速度とか、食品の希釈などで、実際にはもっと余裕が出てくるものと推測される。

基準値を守るのはもちろん大切だが、基準値を大きく下回っているにもかかわらず、「検出されている以上は買わない」といったところまで、神経質になる必要は無いのだろうと思う。