最低な報道を聞いた

今日のNHKニュースを聞いていて、あ然とした。
基準値超の牛肉が流通したニュースで、最後のまとめの部分で、

園田矢(そのだ ただし)というNHK元解説委員が、

「検査がズサンだった。国や自治体などの検査機関は、おざなりに検査していたか、国民の健康をいい加減に考えていた」
(大意)

ということを述べた。

この人間は、何を根拠に、検査機関の人間が、「おざなり」で「国民の健康をいい加減に考えていた」と、そう断言できたのだろうか。
何を根拠に、「国民が健康に不安を抱えているこの状況でも、検査機関の奴らはいい加減な仕事をしている」と、公共の電波を使って、何万何十万の国民に、そう吹聴できたのだろうか。

前からちょこちょこ書いているが、私も検査機関に出入りしていた経験がある。
そこの体制がどんなものか、どういう状況で検査をしているかは、それなりに知っている。

私が知っているのは、原子力施設を多く抱えた地域の分析機関で、他に比べれば機器も人員も恵まれている方だと思うが、それでも、職員は事務職やバイトを入れても10人程度に過ぎない。

今のそこの状況は、震災から4ヶ月経った今でも、24時間体制で分析している。
分析機器も24時間フル稼働状態だそうだ。

それでも、1日に分析できる件数は、40件程度だそうだ。
それに比べて分析する対象は、土・降下物・水道水・海水・牛乳・野菜・魚・貝・海草・肉…
とにかく、あらゆるもの。
心配だからって、計画に無いあれもこれもと持ち込まれれば、当然、対象も件数もっと増える。

放射能の分析は、思っているほど簡単じゃない。
スーパーのレジじゃあるまいし、バーコードを読ませて「ピッ」と値段が出てくるような、そんな単純な話じゃ無い。

限られた人員と限られた機器をフル稼働させても、怠けている訳じゃなくても、ズサンなわけでなくても、分析できる件数には限界があるということ。

事故が起きてから検査体制の充実とか言い出しても、そんな簡単な話じゃ無い。
分析できる人間なんてそう簡単に養成できないし、今分析にメインで使われているゲルマニウム半導体検出器だって、1台1500〜2000万くらいする機械だ。
既製品じゃあるまいし、注文を受けてから生産するような機械だ。
「必要になったから来月までに100台納入してください」とか、そんな簡単に用意できるもんじゃない。


だいたい、マスコミは、NHKは、これまで行政に対してなんて言って来たんだ。
行政は何もしなければしないほどいい、小さい政府だ、可能な限り予算を減らせ、そう言って来たんじゃないか。

日本はOECD諸国と比較して、人数的にも金額的にもトップクラスの小さな政府だったのに、もっとスリムにしろ、人員を減らせ予算を減らせと、そう言って来たんじゃないか。
原子力防災や分析機器の整備には、緊急時交付金や監視交付金というものがあって、大元では電源特別会計に行き着くわけなんだが、電源特会といえど例外ではない、もっとスリムにしろ、削って一般会計に回せと、そう言って来たんじゃないか。

これまでの日本の風潮が、NHKも片棒を担いで作り出したそういう風潮にあった中で、人員の増加も分析機器の増台も、出来る環境にあったと思うのか。
人員も機器も、増やそうとすれば、増やさなければならない理由を厳しく問われる世の中で、増やせる環境にあったと思うのか。

1人増やせば年間数百万、1台増やそうと思えば数千万が飛んでいく。
事故が起きた後なら、誰だって増やせと言える。
検査体制を充実しろと言える。簡単に言える。

事故が本当に起きなければ、ただコストを抱えているだけ。
地震が起こる前の世の中で、これを認める風潮にあったと思うのか。
そういう風潮の片棒を担いだのは、NHK、お前等じゃ無いか。

これまでは、小さな政府だ行政のスリム化だと言ってきたくせに、事故が起きたからって、検査は何やってるんだ、検査体制を充実しろと言われたって、そんな簡単に出来る話じゃ無いんだよ。



事故が起きた後ならば、誰だって検査体制を批判できるし、誰だって検査体制を充実しろと言える。
だけど、限られた人員、限られた機械で、毎日毎日、1件1件、24時間体制で分析してるのは、そういう後知恵で批判するNHK職員なんかじゃない。

サーベイ・サンプリング・前処理・分析・報告書・機器メンテ・取材対応・問合せ対応。
何やってんだ早くしろ、ズサンだいい加減だと批判されながら、1件1件分析してるのは、結果だけ見て偉そうに批判するNHK元解説委員じゃなくて、NHKも片棒を担いだ風潮の中で、人員増も機械増も望むべくも無かった、名も無き分析機関の職員なんだよ。


正直、これほど場当たり的で、低レベルで、ずさんな報道を聞いたのは久しぶり。
いったい、どんな取材を現場に行ったというのか。
基準値を超えた肉が出回った、その結果だけを見て、自分の先入観で決め付けただけじゃないのか。


今回の、園田矢(そのだ ただし)という人間の経歴を調べると、

【元・解説委員。バンコク特派員、北京支局長、アメリカ総局長などを歴任。「NHKニュース21」の編集長兼アンカーマンをつとめた】

というもので、いやはや立派な経歴だ。

このNHK元解説委員からすれば、現場で検査に当っている人間なんて、ちっぽけな地方公務員で、取るに足らない人間なのかもしれない。
自分のいい加減な先入観で、コツコツ1件1件分析している人間を貶めるようなデマを広めても、所詮はちっぽけな地方公務員。

このNHK元解説委員からすれば、1件1件分析している職員が、世間から叩かれようが批判されようが、どうでもいいのかもしれないな。
なんたって、NHK元解説委員だからね。
現場で批判にさらされながら、地べた這いずり回っている人間なんて、吹けば飛ぶような存在だろうよw


もし違うと言うのなら、確たる根拠に基づいて、検査機関の人間が「おざなり」で「国民の健康をいい加減に考えていた」と、そう断言できるのなら。
「国民が健康に不安を抱えているこの状況でも、検査機関の奴らはいい加減な仕事をしている」と、そう断言できるだけの取材をしているのなら、その取材結果を示して、解説をするべきだろう。

番組中では、それが分かる取材結果は示されなかった。
ただ、結果だけを見て、「おざなり」で「国民の健康をいい加減に考えていた」と、そう断言されていた。
これは、報道でも解説でも何でも無い。
ただの、小学生レベルの「感想」だ。


※結果が全てだ。そういう向きもあるだろう。分析機関の人間も、住民からの批判なら甘んじて受けるかもしれない。ただ、これまでの風潮を自分達で作り出しておきながら、事故が起きたら偉そうに批判するこのNHK元解説委員。そういう連中が、私は許せない。

※あと、国民という意味では、総体としての国民も、防災機能の充実を認めなかったその責任を、総体として負うだろう。

※それから、最後になったが、この牛肉そのものについては、前に飲食物の基準値の話で書いたとおり、基準値そのものに余裕が見てあるので、自分的には特に心配していない。

※まぁそういう、自分だけ目を盗んだつもりが、生産者全体と、分析機関にも迷惑をかけることになった生産者がいたということで。

※みんながルール守れば、分析だってもっとスムーズにできるのにね。全頭検査って、かなり大変だと思うよ…