陸前高田の薪からストロンチウムが検出されたという件について

■被災地の松、「送り火」使用断念…専門家は批判 (読売新聞 - 08月07日)
 東日本大震災津波で倒れた岩手県陸前高田市景勝地高田松原」の松で作った薪(まき)を、「京都五山送り火」(16日)で燃やす計画について、大文字保存会(京都市)は断念することを決めた。
 保存会と京都市が行った薪の検査では放射性セシウムは検出されなかったが、放射能汚染を懸念する意見が相次いだためだという。
 送り火は、故人の名前などを書いた護摩木を燃やす、お盆の伝統行事。今年は、被災者らが薪に犠牲者の名前や復興への願いを書き込み、五山のひとつ「大文字」に奉納する計画だった。薪は計画の倍の約400本が集まったが、放射能汚染を不安視する声がインターネット掲示板京都市などに寄せられ、保存会内でも「見送るべきだ」との意見があったという。
 保存会の松原公太郎理事長は6日、陸前高田市を訪れ、経緯を説明。薪に記された願いは写真に記録し、京都で護摩木に書き写して送り火に使うことにした。薪は8日夜、陸前高田市で「迎え火」としてたき、法要をする。松原理事長は「申し訳ない。被災地の思いにできる限り応えたい」と話している。
 放射線影響に詳しい松原純子・元原子力安全委員会委員長代理の話「原発から遠く離れた岩手県陸前高田市で、幹の内部にまで放射性物質が蓄積することはなく、誇大な不安だ。根拠のない不安をもとに計画を中止することは、むしろ不安をいたずらにあおることになる」

このニュースについては、大文字保存会(京都市)側の対応について、色々と批判する声が上がっているが、その批判への反論として一部には、「ストロンチウムが検出されている」というものがある。

そもそも、原子力を多少知っている人ならば、セシウムが不検出なのにストロンチウムが検出されている、という時点で疑問を持つだろうし、私も疑問を持った。

と言うのも、原子力事故の場合、ストロンチウムセシウムの一定割合が検出されると考えられており、チェルノブイリの時は、ストロンチウムセシウムの10分の1。
(つまり、ストロンチウムが10検出されるなら、セシウムは100検出されるはず)

今回の福島ではその割合は更に低く、原発周辺のモニタリングでは、ストロンチウムセシウムの2千分の1から1万分の1であり、簡易的な検査でハッキリとしたストロンチウムが検出されるようなら、その2千倍以上のセシウムも確認されるはずで、不検出という結果になるはずが無いからだ。

そのような疑問を感じたので、ストロンチウムが検出されたという、そのソースを探してみた。
すると、このようなものがソースとして語られていた。

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782 :名無しさん@12周年:2011/08/08(月) 10:14:22.24 id:Hnip8H7E0
>>776
何が有りもしないだか
マキの検査でストロンチウムでてんじゃんw
http://www.fukkou.org/home/shi-yan-cheng-ji-cheng-ji-shu
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分析書の3枚目に、確かに松の分析結果として、Sr(ストロンチウム)という文字が確認できる。
しかし、そもそもこの分析は、松の“成分を分析”したもの。
ナトリウムとか、マグネシウムとか、カルシウムとか、ストロンチウムとか、松にどういう元素が含まれているか分析したものであって、放射性物質がどれくらい含まれているかを分析したものでは無い。

つまり端的に言えば、この分析では放射能を測っていない。分からない。
(ちなみに、この分析ではセシウムは検出されていない)


そもそも、「ストロンチウム」とは、ナトリウムとかカルシウムと同じように、単に元素の名前。
それ自体が安全だとか危険だとか、そういうものでは必ずしも無い。

ナトリウムとかカルシウムとかは、聞き慣れた元素の名前だが、一口にカルシウムとか言っても、実際はその中で種類が色々あって、安定状態にあるカルシウムもあれば、不安定状態にあるカルシウムもあって、不安定状態にあるカルシウムからは放射線が出る。
元素としては同じでも、その中で安定な元素と不安定な元素があって、そういう不安定で放射線を出す元素を、我々は放射性物質とか呼んでいる。

カルシウムもそうだし、ストロンチウムもそうだ。
カルシウムに放射線を出すカルシウムと出さないカルシウムがあるように、ストロンチウムにも放射線を出すストロンチウムと出さないストロンチウムがある。

放射線を出さないストロンチウム(Sr86、Sr87など)は天然にもあり、年代測定なんかに使われる。
別にその辺にあっても不思議じゃない。
例えば、ストロンチウム86やストロンチウム87は米にも含まれていて、産地判別技術なんかにも応用されている。
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/publish/niaesnews/052/news05206.pdf

京都に生えてるその辺の木を分析すれば、同じストロンチウムが検出されたとしても不思議ではない。
と言うか、今回燃やそうとしてる他の薪だって、分析すればストロンチウムが出るよきっと。

そんなわけで、ストロンチウムが検出されたと言われている上の検出結果は、単に天然のストロンチウムがあっただけだろう。


放射能分析は、こういう成分分析とは違った分析をしなければならないし、ストロンチウムをきちんと測ろうと思ったら、何週間もかかる。
思い立ったからポンと測れるようなものでは無いし、短時間の簡易検査で検出されるとすればとんでもなく高い値のはずだし、そのような値が出るのであれば、セシウムが不検出のはずがない。

そんなわけで、精密測定のGe半導体検出器でセシウムが不検出だったのに、福島由来のストロンチウムが検出されるなんて不思議だなと思ったら、なんだ成分分析見て言ってたのかよ、という感じ。
それ放射能分析じゃねーだろ、と。


セシウムとか、ストロンチウムとか、カルシウムとか。
そういうのは単に元素の名前であって、放射線を出すカルシウムもあれば、出さないセシウムもある。

放射能の話をするときに、僕たちが単に「セシウム」とか「ストロンチウム」とか言ってるのは、暗黙の内に放射性であるセシウム134やセシウム137、ストロンチウム89やストロンチウム90を指して言っているのであって、放射線を出さない安定なセシウム133やストロンチウム86まで含めて言っているのではない。
(だって話の前提が「放射能の話」であれば、放射性のセシウムとかストロンチウムのことに決まってるでしょ)

ところが、今回の事故で「ストロンチウム=危険」とだけ頭にインプットした人が、成分分析結果に「ストロンチウム」という文字を見つけて、危険危険と騒ぐ。

そんなこと言い出したら、酸素にだって放射線を出す酸素(放射性酸素)があるんだが。

松の分析表にストロンチウムがあったから「放射性ストロンチウム!危険!」と騒ぐのは、陸前高田の空気を分析して酸素が検出されたら、「放射性酸素!危険!」と騒ぐのと同じ。
成分分析だけ見て「ストロンチウム!燃やすの危険!」と騒ぐなら、酸素を吸うのもやめたらいい。

いい加減な科学的知識がいかに風評被害を招くかが、よく分かる話だと思う。



今回の大文字保存会の判断には、色々な話もあるようだ。
発端は大分県の芸術家だったとか、その芸術家が大文字保存会の了解を受ける前から薪づくりを始めていたとか、ハングルのHPを持っていたとか。
売名行為とか商売とか、チョーセン人とか色々ある。

ただこの件で、大文字保存会がいったん了解し、最終的に大文字保存会が断ったということには変わりないだろう。
大文字保存会が断った理由は、記事を読む限りでは放射能汚染の不安だが、もしかしたら売名目的チョーセン人に乗せられたから、というのが真相なの「かも」しれない。

ただそれであれば、断る理由については、よからぬ人に乗せられて利用されそうになったから、と察せられるように言うべきだし、読売新聞の記事がその辺を捩じ曲げて書いているというのなら、大文字保存会として抗議するなり声明を出すなりする話だと思うが。
(今のところそういう話は知らない)

もし仮に、売名目的チョーセン人に乗せられたのを隠すために、「放射能汚染の不安」という理由を付けて断ったのだとしたら、それはありもしない放射能汚染を作り出して風評被害に荷担し、差別を助長する。

今のところの大文字保存会の行動は、風評被害に荷担し、差別を助長する行為であるように思う。

(最後の部分が、こちらの意図と違う意味に受け取られることを、ついさっき知った。疑問に思う人は、次の日記も読んでみてねhttp://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20110809/1312896724