実際には2億ベクレルも出ていない

福島原発放出の放射性物質、大幅減少〜東電(日テレNEWS24 - 08月18日)
 政府と「東京電力」は17日、福島第一原子力発電所の事故収束の進ちょく状況について、原発から放出されている放射性物質の量が大幅に減ったとする評価を発表した。
 事故収束に向けた作業の「ステップ2」に入ってから1か月がたち、政府と東京電力は、1号機から4号機までの使用済み燃料プールの安定冷却については、すでに達成できたと発表した。また、直近2週間で、原発の敷地付近の放射線量を分析した結果、一時間当たり最大で2億ベクレルと、事故直後に比べて1000万分の1程度にまで低減したことも公表した。しかし、この試算について、経産省原子力安全・保安院は、測定箇所が少ないことなどから「精度がまだ粗い」と述べ、慎重な姿勢を見せている。
 政府と東京電力は、原子炉から放出される放射性物質を減らすため、格納容器の中の放射性物質で汚染された気体を吸い出し、フィルターを使って放射性物質を取り除くことも検討している。
 また、作業に当たっている福島第一原発吉田昌郎所長からのメッセージがビデオで公開された。
 吉田所長「現在、地元の皆さまの一日も早いご帰宅と発電所の安定化に向けた『ステップ2』に取り組んでいるところです」
 冷却システムの設置作業や、建屋カバーの工事の様子も映像で紹介された。

と言うか、現実的には大気中への新たな放出と言えるものは、ほとんど無いだろう。
もちろん、そう言うのには根拠がある。

それを理解するには、この放出量の計算がどのように行われているかを理解する必要がある。
それが理解できれば、「現実的には新たな放出と言えるものはほとんど無い」ということも理解できてくる。

ちょっと長くなるが、お付き合いをば。


まず、原発からの放出量計算は、前回7月にも行われており、そのときは10億Bqとされていた。
これがその計算の元だが、まずはこれに沿って、計算の仕組みを見ていく。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110723_01-j.pdf

これまでの原子力防災での考えは、放射性物質が漏れるにしてもそれは排気筒(煙突)からになるだろうから、排気筒モニタなどのプラント側計器で、放出量を把握できると考えられてきた。
しかし、今回の事故では、停電や水素爆発などによって計器類に様々なトラブルが発生したため、一部を除いて、プラント側からの情報は得られなくなってしまった。
つまり、放出量をプラント側情報から求めることは困難になってしまった。

では、この10億Bqという数字はどうやって求めたのかというと、モニタリング結果からの逆算で求めている。
つまり、この場所でこの値が確認されるのなら、原発からはこの程度漏れているだろうと、そういう逆算によって求められている。

で、このような求め方の違い、プラント情報からなのか、モニタリング情報からなのか、その違いで、数字の意味も違ってくる。

要点を端的に言うと、プラント情報ではなく、モニタリング情報からの推計では、過去に出たものか新たに出たものか、区別できない。

原発敷地内には、3月の水素爆発によって、既に多量の放射性物質が積もっている。
積もっている以上この放射性物質は、とても小さい割合だが、一定割合で再浮遊すると考えられる。

再浮遊率は、例えば100万分の1などと言われる。
再浮遊すると言っても、割合からすればほんの極僅かであり、原発から離れた場所では問題にもならないような値だが、大量に積もったであろう原発敷地内では、この数字も考慮する必要がでてくる。

実測値で説明すれば、7月の10億Bqという数字は、原発敷地内の空気から、0.000010Bq/cm3程度のセシウム137が検出されているので、その数字から逆算されたもの。
セシウム134も同程度あるとすれば、0.000020Bq/cm3程度になるだろう。
(ちなみに、この数字の時点で、もう一般地域の基準値以下)

一方、原発敷地内の、原発から西北西500m地点では、80万Bq/kgのセシウム134+137が7月でも検出されていた。
これを平方メートルに直せば、52,000,000Bq/m2程度にはなる。

これに再浮遊率である100万分の1(0.000001)をかけると、0.000052Bq/cm3。
計算では、7月時点においても0.000052Bq/cm3程度くらいなら、過去に出てその辺に積もっていた放射性物質が原因で、検出されてもおかしくない計算になる。

再浮遊の計算値が0.000052Bq/cm3で、7月の実測値が0.000020Bq/cm3だから、7月に検出されていた空気中の放射性セシウムのほとんどは、実際には過去に出たものが再浮遊しただけかもしれない、再浮遊したものを測っているだけかもしれない。

だけど、モニタリング結果からの推定では、過去に出たものか、新たに出たものかを区別することはできない。
明確に言えることは、原発敷地内の空気を測ったら、セシウム137が0.000010Bq/cm3検出されたと、単に言えるに過ぎない。

なので、過去に出たものか新たに出たものか区別できないので、このセシウム137の0.000010Bq/cm3が「全て新たに出たものと仮定して」計算したのが、7月の10億Bqという数字。

過去に出たものか新たに出たものか区別できない以上、外部(マスコミや一般人)に説明する場合には、「 “最大で”10億Bqが放出されている可能性がある 」と言うしかない。
区別できないんだから。

だけど、上記のとおり再浮遊というものがあるから、専門家などは、「まぁ全部が新たに出たものとは思えないよな〜」と考えている。

そんなわけで、「7月には10億Bq/h放出されていた」としても、それはモニタリングで検出された値が全て新たな放出によるものだと仮定した場合の、計算上の最大値だよと。
まぁ実際には再浮遊なんかがあるから、実際に新たに出てる分は少ないだろうなと。
計算から行くとほとんど再浮遊分であってもおかしくないよねと。

つまりダブルカウントで過大に出ている可能性は大いにある。
だけどそのへんは区別できないから、発表としては「最大10億Bq/hの放出」と言うしかないよねと。


このように、最近「原発から○ベクレルの放出」と言われているものは、モニタリング結果が全て新たな放出だと仮定した場合の、最大限に見積もった数字。
モニタリング結果では、新たに出たものか、それとも過去に出たものが再浮遊しただけなのかは区別できないから、安全側に見て、全てを新たに出たものとして考えた数字。


ちなみに、もし本当に毎時10億ベクレル放出されていたとしたら、原発とモニタリングポストの間の風向きによっては、放射線の値が変動してもいいはずだが、
・風向きが 原発 → 検出器 であれば放射線量は上がるはずだし、
・逆に風が 原発 ← 検出器 であれば放射線量は下がるはず
風向きの変化によってもそれと分かる変化は確認されていない。


そのようなわけで、実は放出量を評価した資料そのものにも、
「この測定値は事故時に放出された放射性物質が支配的で、1〜3号機から現在新たに大気中へ放出されている放射性物質の量は非常に少ないと考えられる」
と書いてあったりする。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110719u.pdf

そんなわけで、7月の10億ベクレルという数字も、実際にはそんなに出ていないと、むしろほとんど出ていないと考えられている。


さて、前段の説明が長くなったが、いよいよ今月の毎時2億ベクレルという数字。

この数字がどうやって求まったかというと、求め方は7月の10億ベクレルと同じ。
つまり、原発敷地内で実測された空気中のセシウム137濃度が、全て新たな放出だと仮定した場合に、2億ベクレルになったということ。

空気中の実測値が7月時点の5分の1くらいになったから、計算される放出量も5分の1になりましたと、そういう計算。

そんなわけで、今回の2億ベクレルという数字も、実際はほとんど再浮遊分だと思われる。
新たな放出と言えるものは、ほとんど無いと思われる。

思われるけど、やっぱりモニタリング結果では、新しいものか古いものか、その辺区別できないから、とりあえず全てが新しいものだとして、最大限に見積もって、2億ベクレルという数字を出している。


実際には2億ベクレルも出ていない、とは、そういうこと。