福島に住める可能性は、もちろんある

少し前の話になるが、原発の避難区域で、帰宅できるまで20年以上かかるとか、そんな感じの話。

最初にこの話を見たときに、そう言われたことの根拠は何だろうかと思った。
何を根拠にそのようなことを、20年という数字が出たのだろうかと。

そして探してみると、【第1回原子力災害からの福島復興再生協議会】というものがあって、その中での資料が元らしい。

具体的にその現物を示すとこれなのだが、これを元に各種記事では、「帰宅までに20年以上の可能性」と書かれているようだ。
http://www.reconstruction.go.jp/topics/05jyosen.pdf#page=11

この図面を見ると、年間被曝量20ミリシーベルトを帰宅可能かどうかのラインとした場合に、今年150ミリシーベルトの場合で20年後にようやく20ミリシーベルトラインに到達し、今年200ミリシーベルトの場合では20年後でも20ミリシーベルトラインに到達していない形になっている。

この図を元に、「帰宅までに20年以上の可能性」と記事にされているようだ。

しかし実際のところは、この図の持つ意味を、もう少し正確に理解する必要があるだろう。

この図には、ズバリ、この計算をした前提として、
「物理的減衰及び風雨などの自然要因による減衰を考慮した変化を試算したもの」
と書いてある。

この意味はと言うと、除染とかを何もしないで、人の手を何も加えないで、完全に放置していた場合、放射性物質半減期とか、雨風による流出とか、そういう全くの自然要因のみによって減るのがこれだけ、ということ。
全くの自然要因で減るのを絵にしたのがこれですよ、ということ。

つまり、この図には、除染活動による減少分とかは入っていない。
人による除染活動が加われば、当然、このラインはもっと早く、大きく減ることになる。

「帰宅までに20年以上の可能性」と、そこだけを聞くと、可能性と言いつつ20年かかってしまうのが現実的な予想のかと、そういう受け取り方をする人も出て来てしまうかもしれない。
しかし既に書いたようにこれはそういう意味ではなく、除染とかを何もしないで、単に放っておいた場合にはこれだけ減りますよという図であり、これが現実的な帰宅時期なのかと言うと、必ずしもそうでは無いということ。

まぁ一応、各種記事には「除染しない場合」の数字だと言うことは書いてはあるのだが、「帰宅までに20年以上の可能性」という見出しやフレーズが結構衝撃的なので、そこのところにまで充分理解が至っていない場合もあるかと思う。

と言うかネット上では、現に「20年以上」という部分だけを切り取って騒いでいたりもするんだが、そういう訳では無いですよ、ということ。


最近話題になったこういうニュースの背景を確認したうえで、次に、「福島に住める可能性は、もちろんある」ことの、より直接的な根拠を示したいと思う。

私は以前から、原発20km圏内のモニタリング結果などから、20km圏内で現状では避難区域内であっても、低線量の地域は複数あることを根拠に、福島には住める可能性があると言ってきた。

○20km圏内の状況
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20110601/1306933739

そのモニタリング結果のより詳細版と言うか、より分かりやすい図面が政府から発表されているので、それを見てみる。

既に知っている人も多いと思うが、この図は、文部科学省原発から約100km圏内の約2000箇所でモニタリングした結果を図にしたものだ。
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_080218.pdf#page=16

GPSと地図上ポイントのズレからこの図は後に修正されているが、大きな修正ではなく3.8μSv/h以上のポイントが増えるわけでもないので、これをこのまま用いる)

一見して分かるとおり、原発から半径20km圏の避難区域内であっても、黄緑や水色といった、3.8μSv/h未満の地域が多く存在していることが分かる。
特に、原発近傍と北西方向を除いた、北・西・南方向には、それらが多く存在していることが分かる。

そして、範囲を広げて見ると、そういった黄緑や水色といった点は、福島市郡山市白河市などといった、福島の中通りにも同じように確認できることが分かる。
つまり、原発から半径20km圏内で、現在は避難区域であるとしても、福島県中通りと同等の線量の箇所は沢山あるということ。

今すぐの解除は困難だとしても、原発冷温停止状態になり、安定的に管理されるようになってくれば、つまり再び水素爆発のようなことが起こらないと言えるようになってくれば、これら中通りと同等の線量の地域は、帰宅できる最有力候補となってくるのではないかと思う。


残る地域についてだが、(確か以前にも書いたんじゃないかと思うが)これは日本という国が、どれだけ除染に力を注ぐかにかかってくる。
つまりは国民が、除染にどれだけ予算や労力を投入することを容認できるかが、除染コストをどれだけ容認できるかが、帰宅できる時期を左右することになってくる。

まず、人間が何も手を加えない、自然にのみ任せた減衰がベースラインとしてあって、それがどれだけ早まるかは、除染コストの容認にかかってくる。

国民が、除染コストをより多く容認できれば、それだけ早く帰れるようになるし、除染コストをあまり容認しなければ、帰れる時期は早まらない。
そういう、容認できる除染コストと帰宅時期との関係になってくる。


先程の、約100km圏内の線量マップに戻って具体的に言えば、まずは黄色いポイントの地点。
このポイントは年間20mSv〜50mSvに相当する。
全く何も除染せず、自然のままに任せた場合、年間20mSvラインに乗ってくるのは4年後となる。
次に橙色(オレンジ)のポイントの地点。
このポイントは年間50mSv〜100mSvに相当し、何もしないで自然に任せれば、年間20mSvラインに乗ってくるのは10年後となる。
次にそれ以上、赤のポイントの地点は年間100mSv以上に相当し、何も除染をしない場合は10年以上かかる。

こういう、4年後、10年後、10年以上という、全く何もしなかった場合の数字を、どれだけ縮められるか、どれだけ短く出来るかは、端的に言えば
『国民が除染コストをどれだけ容認できるか』
にかかってくる。

繰り返しになるが、除染コストを多く容認できれば早く進むし、あまり容認できなければ遅くなる。
そういう関係になってくる。

確かに、現実的には除染にも順番をつけなければならないだろう。
高線量地域は、同じ除染作業を行った場合の線量低減率という意味では、除染効率は高いものの、一方で除染作業員の健康確保がハードルになる。
除染コストが投入されたとしても、早く進むところがある一方で、最後になるところもあるだろう。
長い時間待つことになる場所もあるだろう。

だが、一部ネットで言われているように、半径20km圏内の、避難区域全体が長期間待つことになるかと言うとそれは違うし、残された地域がどれだけ早くなるかは、この国がどれだけ除染に力を注ぐかにかかってくる。


私個人としては、多くの予算を除染に投入してもいいと考えているし、前に少しつぶやきでも書いたとおり、これまでは除染技術はあまり需要が無かったから進歩しなかったが、今回の事故を受けて技術開発に多くの力が入れられるだろうから、除染スピードそのものも、現在考えられているよりも早まる可能性があると考えている。

したがって、現段階で「20年住めない」とか、そういうことを言ってしまうのは早計だと考えている。
この国の指導者が現段階で言う言葉は、「20年住めない」とかそういうことでは無くて、
「政府は全力を挙げて1日でも早く帰れるように、除染に取組みます」
「ご苦労も多いと思いますが、その日まで我々と一緒になって頑張ってください」
と、そういうことではないのかと思う。

その意味で、この↓読売新聞の社説は、私には全く同感に思える。


警戒区域の帰宅 「長期間困難」の判断は性急だ(8月27日付・読売社説)
 福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染が深刻な一部地域について、政府が、住民の帰宅は長期にわたり困難、という判断を示した。
 その地域は原発周辺20キロ・メートル圏内の警戒区域に点在しており、住民は10〜20年間の避難を強いられる可能性もある。
 政府は、対象地域の立ち入り禁止措置を解除せず、土地の借り上げや購入も検討する。具体的な範囲については、福島県や関係市町村と協議して決めるという。
 しかし、各地の汚染実態の把握はまだ進んでいない。帰宅は困難と、何を根拠に判断したのか。あまりに唐突だ。
 政府は、従来、原発事故を来年1月をめどに収束させ、それに合わせて、警戒区域の住民帰宅を検討するとしてきた。
 いきなり判断を繰り上げ、20年も帰れないというのは、原発の危険性を強調する意図なのか。明確な理由の説明が必要だ。
 20キロ・メートル圏内からは住民約7万8000人が避難している。26日には原発直近3キロ・メートル圏内の住民が初めて一時帰宅したが、「もうこの家に戻れないのか」と落胆する声も出ている。
 今、最も重要なことは、放射能汚染の除去だろう。これを徹底的に進めて、汚染地域を縮小していく。帰宅の可否は、その過程で検討すればいい。
 汚染除去の政府方針さえ、今週決まったばかりだ。
 年間被曝(ひばく)線量が20ミリ・シーベルトを超えると推定される汚染地域は国が直接除去に当たる。それ以下は、市町村や住民と協力して進めるという役割分担になっている。
 汚染除去を効率的、かつ効果的に進めるために必要な技術の開発も、これからだ。そのための政府の専門家チームが、ようやく発足し、福島県伊達市では汚染除去のモデル実験が始まった。
 政府は、必要な人員や資金の確保と、関係市町村との協議を急がねばならない。
 ただ、除去作業では大量の汚染土壌、がれきが発生する。その置き場、処分先がないと、作業が滞る心配がある。
 福島県は県外移出を強く求めている。細野原発相は、県内は仮置き場だけで、処分場は県外に探すと明言しているが、引き受ける自治体は容易には見つからないだろう。住民帰宅の障害とならないよう、処分場探しを急ぐべきだ。
 これ以上、場当たり的な対応を重ねて、原発事故の被災者たちを混乱に陥れてはならない。
(2011年8月27日01時31分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110826-OYT1T01181.htm

そんなわけで、「福島に住める可能性は、もちろんある」私はそう言いたいと思う。



■自分のためのメモ
セシウム土壌濃度マップ」
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/11555_0830.pdf
「農地土壌マップ」
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110830-06.pdf
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/110830.htm