東京と公共事業の関係

(近頃どうも、何かを書こうという気が起こりません。とは言え、考えてみればもう2ヶ月以上も何も書いていなかったことに気付きました。これではイカンということで、昔に別のところで書いていた経済ネタなんぞを、再掲してみようかと思います。)

近ごろ東京と地方の関係を考えることが多く、その中でふと思ったことだが、建設業が一番多い都道府県は、実は東京であることを知っている人は少ないのではないだろうか。

例えば、建設業の企業が一番多いのが東京で、全国の10.1%を占めるし、従業者数にしても10.8%を占め、やはり東京が一番多い(事業所・企業統計調査;18年)。

○建設業の企業数

○建設業の従業者数

東京には建設業以外にも色々な産業があって、建設業の存在が薄まるから気付きにくいだけで、建設業が一番集中しているのは、実は東京。
日本で一番の土建大県はどこかと問われれば、それは岩手でも新潟でもなく、「東京」ということになる。
(毎回都道府県と書くのはめんどうなので、これ以降は単に県と書く。なので、東京は県じゃないだろjkとかつっこまないように)

もっとも、東京が一番の土建大県であるのは事実としても、東京に建設業が多いのは民間の仕事が多いから、という面もある。
したがって、これだけでは単純に公共事業の恩恵が多いと言うことは出来ない。

では、公共事業に占める東京の割合はどれくらいなのだろうか、それを考えてみる。


国交省がまとめている数字に、「都道府県別完成工事高」というものがある(建設工事施工統計調査;18年度)。
ここから、都道府県ごとの、民間工事・公共工事それぞれの施工金額がわかる。

公共工事の元請完成工事高(実際の施工地)

それによると、全国で行われた公共工事14兆4000億円のうち、東京は1兆3500億円となる。
東京一県だけで全国の9.4%の工事が行われており、これもやはり全国1位の数字だ。
つまり、民間工事をのぞいて公共工事だけで考えても、東京が1位。
東京は日本一の「公共事業大県」ということになるだろう。


ところで、この東京の1兆3500億円は、「東京都内で実際に施工された工事」の金額だけだ。

地方の大型公共工事などは、東京の大手ゼネコンがやってきて、元請として受注し、受注金額の多くを得ていることは、建設業界を少しでもかじったことのある人なら知っている話。
そういった、東京の建設会社が地方で請負った金額が、上の1兆3500億円には含まれていない。
つまり、地方という市場で東京の建設会社が稼ぎ、東京の本社に売上として計上される金額が、上の1兆3500億円には含まれていない。

そこで、同じく「都道府県別完成工事高」から、今度は東京の会社が実際にどれだけ、全国の公共工事を請負っているかを見てみる。
それによると、4兆1600億円、実に全体の28.9%を、東京の会社が請負っていることが分かる。
グラフを見れば一目瞭然。
ハッキリ言ってダントツ。

公共工事の元請完成工事高(受注した都道府県)

考えてみて欲しい。
公共工事が全体で14兆4000億円というのは変わらない。
東京で実際に施工された工事は1兆3500億円であるのに、東京が元請けになった工事は4兆1600億円。
その差、2兆8100億円は、地方で行われる工事を東京の会社が元請けになり、東京の会社の売上げになっているということだ。


これがつまり、「地方は東京にとっての市場」の分かりやすい例だ。
地方で使われたお金が、東京の会社の売上げとなって、東京を潤すということの典型例だ。

以前の日記で書いたように、東京が実際に負担した税金のほとんどは東京で使われている。
(※この「以前の日記」は再掲していませんのでこのブログにはありません)
その上、地方で使われる税金もこのように東京に環流し東京を潤す。
東京の繁栄は、このような仕組みの上で成り立っているということだ。

それを、某コラムのように、「東京の税金が地方に奪われている」と言うのは、事実に全く反したものだろう。
そんなに地方でお金が使われるのが嫌なら、減らしてみるといい。
地方という市場が縮小し、東京に流れるお金が減り、東京も衰退するだろう。
植民地という市場を失って衰退した大英帝国のように。

某コラムのような主張は、無駄遣いを正すとか、経済の効率化を図るとか、コラムなりの正義感で考えているのかもしれない。
だがそれは一面的な見方であり、長期的には東京の首を絞めるものでしかない。


最後に、都道府県ごとの受注金額を、その県の人口で割ってみよう。
「人口一人当たり公共事業受注金額」という意味合いになり、公共事業でどれだけ潤っているか、だいたいのイメージがつかめると思う。
それによると、一人当たり325,940円で、やはり東京が1位となる。

○人口一人当たり公共工事受注金額

つまり、
別の産業が色々あるから気付きにくいだけであって、ボリュームの大きさで考えれば、


「公共事業で一番潤っているのは東京だ」



注1)東京を批判しているように受け取られるかもしれないが、断っておくが東京が嫌いなわけではない。
東京で人生の○分の1を過ごしており、愛着も親しみもある。
ただ問題を感じるのは、ビジネス雑誌で聞きかじったような話を振りかざし、流行のビジネス用語を使って分かったような気になり、日本を支えてきたもの、暮らしを守っているものを、古くさいもの、非効率的なものと決めつける、そのような考えだ。

公共事業の恩恵を一番受けているのは自分たちなのに、自分達は公共事業みたいな泥臭いものとは関係ないかのように、自分達は製造とか情報通信とか金融とか、そういうカッコイイ仕事で稼いでいるから、公共事業なんて無くったっていいかのように、地方の公共事業に偉そうなことを言う。
東京のお金が地方に奪われているかのような物言いをする。
そんな態度には、どうしても一言いいたくなってしまう。

注2)冒頭に書いたように、このエントリは以前に書いたものの再掲です。そんなわけで数字は平成18年と若干古いのですが、その平成18年時点においても公共事業はムダだ論、東京のお金が地方の公共事業に食い潰されている論は盛んだったわけで、エントリ自体の妥当性は失われていないと思います。