役所の変化が遅く、間違いの是正も遅い理由を、船に例えてみる

役所とは船のようだと思った。
方向を変えるべく舵を切ろうと思っても、その舵が効き出すまでには時間がかかる。

『役所は方向を変えるのが遅い』
『間違いと分かっても改めるのに時間がかかる』

とはしばしば聞く言葉。

これは巨艦と同じく、乗っている人間も、背負っている積荷も多いからだ。
そして何より、軍艦や商船とは意思決定のプロセスが完全に違うからだ。

転舵した先が機雷源だったと悟って慌てて舵を戻しても、すぐに戻れるものではない。
間違った判断による避けられない機雷には、残念ながら当たるしかない。

軍艦なら艦長の号令一下、変針作業が行われる。
乗組員には命令に従う義務がある。

民間の商船でも、法律的には船長に決定権がある。
事情を知る乗客は船長に意見を言うかもしれないが、最終的な決定権はキャプテンたる船長にある。

それでも船体が巨艦であるほど、舵を切ってから変針には時間がかかる。
戦艦大和の舵が、効き出すまでに時間がかかったように。

役所という船では、艦長に命令権は無い。
最終的な決定権も無い。

重要な変針を行う際には、乗客の了解を得る必要がある。
場合によっては針路を巡って、船長選挙を行い、乗客の多数決を問う必要も出てくる。
選挙の結果、多数側の乗客が、士官(オフィサー)としてブリッジに乗り込んでも来る。
この場合、オフィサーの主要メンバーは、一等客室の乗客だ。

そうして一度決めた針路が、氷山や機雷源に向かっていることが分かっても、その針路を再び変えるにも時間がかかる。
・氷山や機雷源に向かっていることを説明して、乗客の了解を得ねばならない。
・場合によっては船長選挙をせねばならない。
・ブリッジにいる(元多数側の、このままで安全だと言う)士官達の抵抗をも排除せねばならない。

そうして決まった再度の変針も、号令して、各部署がその体制を整えて、その舵が効き出すまでには時間がかかる。

加えて、外的要因として、
・潮流(世論)の強いところでは、流れに押されて変針が遅くなる。
・推進力への抵抗の強いサルガッソーのような場所では変針力が鈍る。

その間にも、ある程度氷山にもぶつかるかもしれないし、ある程度は機雷源に突っ込むかもしれない。

それはもう、どうしようもない。
結果的に間違っていた判断による避けられない機雷には、当たるしかない。

船長にできるのは映画で見るのと同じく『衝撃に備えろー!』で、機雷命中区画の乗員・乗客の無事を期待するしかない。

この場合、真っ先に被害を受けるのは、海面に近い三等船室(低所得層)だ。
真っ先に水が流れ込んでくる。
アッパークラスにある一等客室(高所得層)は、救命ボートにも近く、脱出できる可能性が高い。
船と同じだ。

自分で操船する1名のカヌーなら、自分の判断で行動できる。舵の効きは素早い【自営業】
乗員5名の漁船でも、船長の判断が強いだろう。舵の効きも早い【小企業】
乗組員50名の軍艦なら、艦長の号令一下。舵の効きも遅くはない【中企業】
乗組員が3000名いる巨艦でも、訓練が行き届き命令系統がしっかりしてれば、時間はかかるが舵は効く【大企業】

乗客が数万人の市町村という船では、乗客の了解を得るのに時間がかかる。
乗客が数十万〜数百万の県という船ではもっとかかる。
乗客が1億を超える国という船では、とてつもなく時間がかかる。
そのうえ舵を切っても、各部署が体制を整え、その舵が効き出すまでにさらに多くの時間を必要とする。

そうして多くの労力を払って切った舵が、間違いであったと。
実は機雷源に向かっていた、氷山に向かっていた、他国のウルフパックに向かっていたと。
そう気付いてから舵を戻すには、さらに多くの時間がかかる。

そのとき船長にできるのは、『衝撃に備えろー!』でしかない。
被害区画の乗員・乗客の無事を期待するしかない。
結果的に間違っていた判断による避けられない機雷には、当たるしかない。

後は船長が、いち早くダメコン班(社会保障)を組織して、損害個所の救援(社会崩壊の防止)に当たらせるしかない。
しかしダメコン班(社会保障班)を組織せず、三等客室を見捨て、一等客室を優先的に助ける決断を下したら、それは悲しい現実となる。

国とは、役所とは、船に似ている。