生前退位に関する私の思い

数年後に向けて自分なりに残しておきたいと思ったので自分の考えのまとめ。

○「数年内の譲位を望まれている」とのことで、今すぐではないという事がまず第一の点。

○急にその時が来るより予め次代にその準備と心構えを"世間的にも違和感なく"させることができる。

○庶民生活レベルでも、平成から次の年号へのシステム変換とか結構やることはいっぱいある上に、予めそれをやることも憚られる。でもこれなら庶民レベルでも誰に気兼ねなく予めその準備ができる。

皇室典範生前退位の定めがないので、皇室典範の改正が必要になる。例えばどのような退位手続きを採るか、退位後の前天皇の扱いをどうするか。

○退位手続きで言えば、これは一つ間違えると時の権力が恣意的に都合の悪い天皇を交代させる武器となる可能性もはらむので、その可能性を排除するために慎重な規定の仕方が必要になるだろう。

日本国憲法 第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」
つまり皇室典範は法律と同様に国会での改正手続きが必要。改正内容を生前退位のみに絞るのか、それとも他の変更も盛り込むのか。色々な思惑が入り乱れそう。

皇室典範 第一条
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」
皇室典範の改正など頻繁に出来ないだろうし、ある意味憲法改正に匹敵する重みがある。
男系男子による皇位継承皇室典範が根拠なので、女系天皇を目指す側はこの機会を逃すことはできず、議論に加えようと必死になるだろう。

○しかしこのタイミングでの発表。皇室典範の改正に次代の準備。これは安倍政権の考える憲法改正スケジュールにどんな影響を与えるのか。このタイミングは計算か、それとも偶然か。

○この発表、事前に官邸に内意を伝えていたうえでの今日の発表なのか、それとも官邸にとっても寝耳に水の発表なのかでも解釈が違ってくる。色々と凄い話だ。とりあえず参院選が終わって3日後の夜を狙って情報を出す当たり、皇室側の用意周到さは感じるが。

○報道の「生前退位の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました」について「宮内庁に」示されているではなく「宮内庁の関係者に」示されているってのも興味深い点。正規の役所ルートで事前に情報が伝達するのを避けたと読めなくもない。

○とりあえず今安倍首相に電話してみて、余裕で酒飲んでるようなら既に話は出来てて皇室と官邸は蜜月、逆に電話が繋がらなかったり、繋がってもブチ切れてるようなら官邸が皇室に出し抜かれたってことになる。誰か総理に直接電話できる人がいたらその結果を教えていただけると幸いです。


憲法第一条の改正が急務となるのか?

日本国憲法 第一条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

皇位を継承した者が次代の天皇となり、これまで通り日本国民統合の象徴となるだけなので、先代の天皇を例えば上皇扱いにし、あえて天皇に加える形での象徴として第一条に盛り込もうと考えない限りは、憲法第一条の改正の必要はない。

その他の条文にしても、今回の発表は憲法改正の必要を迫るものではない。
ただ皇室典範の改正を求めることにはなるが、その皇室典範改正に要する時間と手間については、これまでこのような改正を経験したことがないだけに容易には想像できない。


※このタイミングでの生前退位発表は憲法改正を推進するものか?それとも阻止するものか?

現状での捉え方は二つある。

前者の「推進論」に立てば、皇室典範は法律と同様に国会で改正が可能だから、短期に改正することで「皇室典範ですら改正できた」として重要法案改正への抵抗感を薄れさせ、憲法改正に弾みをつけるものとする。

後者の「阻止論」に立てば、典範の改正は手続き的には法律と同様でもその内実は想像以上に困難。短期間で改正できるものではなく、2018年の衆院任期までの憲法改正スケジュールを大きく乱すとする。

確かに皇室典範の改正となれば、退位後の天皇の扱いと退位手続きは大きな問題となることが予想される。

退位後の扱いとしては、どのような呼称とするか?どのような礼遇とするか?退位後の天皇を再び皇位継承者に加えるか?退位後の天皇が子供を持ったらその子の皇位継承順位・皇族としての資格はどうするかなど、今後の可能性を考えると疎かに出来ない事項が多い。

また退位手続きとしては、本人の希望のみで退位が可能か?皇族会議の議決で退位が可能か?あるいは本人の希望と会議の議決の両方が必要かなど、こちらも時の権力による恣意的な皇位継承の可能性を排除しておくために、慎重な検討が必要となるだろう。

これらの問題を解決するためには、有識故実に通じた有識者を含めた検討を少なくとも半年〜1年程度は経る必要があるだろうし、そうなれば当然憲法改正スケジュールにも影響を与えるだろう。

一つの可能性としては、皇室典範の改正を待たずに憲法改正を先に行ってしまうことも可能性レベルとしてはあり得るが、天皇・皇族の形が固まっていないのに憲法改正が先に有り得るのかと考えると、これは困難な話であると思う。

このような観点からは、今回の生前退位発表、天皇陛下にその意思があったにせよなかったにせよ、結果としては憲法改正阻止に働くものと個人的には考える。

もちろん、憲法改正の推進でも阻止でもなく、単に天皇陛下個人としてもう疲労の限界でこのタイミングとなってしまった可能性も付け加えておきたい。


しかしこうして考えてみて思うのは、現在の皇室典範の合理性と非情性だ。
死ぬまで天皇を続けねばならない、そのことは時の権力による恣意を排除し、皇統の安定を確保するという意味では誠に合理的な設定だったのだろう。
時の権力に都合の悪い天皇を隠居させることもできず、隠居した天皇の子供の扱いを考える必要もないのだから。

明治期にこのような「死の時まで天皇」との皇室典範が作られたのは、時の権力に翻弄され、政争によって皇位が左右されてきた歴史を踏まえてのものかもしれない。

これによって確かに皇位の安定性は高まった。しかし一方ではこの合理性は、天皇となる個人にとっては死の時まで天皇として職責を負わねばならないとの非情さを意味したのではないだろうか。

恐らくは、解決の一つの可能性としては「摂政」の活用ではなかったかと思う。
天皇自身はその位に留まりながら、高齢の天皇に代わり皇太子が摂政としてその職務を代行する方策。
その道を採らずに生前退位という検討事項が多くなる方策を選んだことに、何がしかの思いがあるのではないかと感じる。