日本での感染拡大はおそらく武漢ほどではなく、個人が対策できる余地はまだある。

〇日本での感染拡大について

武漢からチャーター便で帰国した集団と、クルーズ船の集団では感染の状況が大きく違う。
チャーター便集団には顕著な感染拡大が認められず、自宅に帰れるようになったにも関わらず、クルーズ船集団では感染拡大が止まらず、第二の武漢とも言われる有様ともなっている。

どちらも各部屋に隔離されている集団なのにこの違い。
これには大きな意味があるように思う。

クルーズ船の空調は各客室を循環するものと伝えられており、この情報が正しければ船内ではエアロゾル感染(弱い空気感染)が起きており、これが感染を拡大させている要因と考えられる。
そしてこの情報は香港や武漢での情報とも整合する。

香港では同じマンションの、異なる階の、同じ部屋番号の住民で感染が拡がったとの情報がある。
階こそ違うが同じ位置関係にある部屋で感染が拡大したとすれば、糞便から生じたエアロゾルが下水管を通じで各階の同じ位置にある部屋に拡がり、感染を拡大させたものと考えられる。

同様の情報は武漢でもあり、糞便由来の感染拡大の指摘とも符合する。

これらを総合すれば、新型コロナはやはりエアロゾル感染力(弱い空気感染力)を持った感染力の強いウイルスと判断されるが、一方で日本にとっては安心材料も含む。

日本のマンションやアパートと言った集合住宅は衛生環境が整った作りをしており、下水管は共有でもトイレや洗面所といった水場には排水トラップがあるのが普通。
トラップ内には水が満たされているので、排水トラップが正しく機能していれば下水管を通じてウイルスが各階に侵入することは考えにくい。

もちろんこの考えが正しければだが、感染者の糞便から生じたエアロゾル武漢での感染拡大の一因であったとすれば、日本ではその危険性は少なくなるので、武漢ほどの感染拡大は日本では起こらないことになるだろう。

もちろんその場合でも、クルーズ船が示すように糞便エアロゾル以外での感染可能性は健在なので、過度に安心することなく十分な注意は必要だ。
新型コロナは未発症でもエアロゾル感染力を持つ、強い感染力を持ったウイルスであることは忘れてはならない。
しかし排水衛生環境の整った日本では、武漢程の感染拡大は起こらないのではないかと思う。


〇個人ができる対策について

個人ができるウイルス対策についてはインフルエンザと同じと言われているが、厳密に言えば同じではない。
手洗い、うがい、マスク、十分な睡眠などと言えば確かにインフルエンザと同じなのだが、それは「手法」が同じなだけ。

「インフルエンザに備えて手洗い、うがいを」と頭では理解していても、毎年のこととなるとつい面倒で手抜きをしていた人は多いのではないだろうか。
事実私はそうだった。

今回は未知のウイルスに対することなので、これまでより危機感を持って手洗い等に励むことはできる。
つまり、対策の「手法」は同じでも、「頻度」は増やすことができる。

そして実際、ウイルス対策においてこの「頻度」の違いは小さくない意味を持つ。

ウイルス感染とは手などに付着したウイルスが、口や鼻を触ったときに体内に侵入することで感染が成立する。
手洗いを怠っていた場合なら、自分がウイルスの付いた手で机を触り、その机を別の人が触り、その手を口に持って行った時に感染が成立する。

この場合、自分が机を触る前に手を洗っていれば机にウイルスは着かないし、その後の感染拡大も起こらないことになる。
つまり手洗いの頻度を増やせば、それだけウイルスの伝播を遮断できることになる。

ごく単純な表現だが、手洗いの頻度を2倍に増やせば、手を媒介とした感染拡大は半分に減らせると言っていいだろう。
「どうせインフルと同じ」などと諦めず、「手法」は同じでも「頻度」は増やすことができる。
そしてこれがウイルス対策では確実な意味を持つ。

その場に石鹸が無ければ流水だけでもいい。多少なりともウイルスを少なくすることもできる。
多くの人がそのような積み重ねを行えば、ウイルスの伝播が抑制され、無用な患者を抑制することにも繋がるだろう。

新型コロナにはインフルエンザのような有効な薬が無く、現状で我々には衛生意識の高さしか新型コロナに立ち向かえる武器はない。
それだけに、個々人の衛生意識の高さが重要なカギを握ることになる。
衛生意識を高めて「頻度」をあげてウイルスに立ち向かう。
精神論のようだが、やった分だけウイルスを抑制できるのは、確率論的に確かだ。

生前退位に関する私の思い

数年後に向けて自分なりに残しておきたいと思ったので自分の考えのまとめ。

○「数年内の譲位を望まれている」とのことで、今すぐではないという事がまず第一の点。

○急にその時が来るより予め次代にその準備と心構えを"世間的にも違和感なく"させることができる。

○庶民生活レベルでも、平成から次の年号へのシステム変換とか結構やることはいっぱいある上に、予めそれをやることも憚られる。でもこれなら庶民レベルでも誰に気兼ねなく予めその準備ができる。

皇室典範生前退位の定めがないので、皇室典範の改正が必要になる。例えばどのような退位手続きを採るか、退位後の前天皇の扱いをどうするか。

○退位手続きで言えば、これは一つ間違えると時の権力が恣意的に都合の悪い天皇を交代させる武器となる可能性もはらむので、その可能性を排除するために慎重な規定の仕方が必要になるだろう。

日本国憲法 第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」
つまり皇室典範は法律と同様に国会での改正手続きが必要。改正内容を生前退位のみに絞るのか、それとも他の変更も盛り込むのか。色々な思惑が入り乱れそう。

皇室典範 第一条
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」
皇室典範の改正など頻繁に出来ないだろうし、ある意味憲法改正に匹敵する重みがある。
男系男子による皇位継承皇室典範が根拠なので、女系天皇を目指す側はこの機会を逃すことはできず、議論に加えようと必死になるだろう。

○しかしこのタイミングでの発表。皇室典範の改正に次代の準備。これは安倍政権の考える憲法改正スケジュールにどんな影響を与えるのか。このタイミングは計算か、それとも偶然か。

○この発表、事前に官邸に内意を伝えていたうえでの今日の発表なのか、それとも官邸にとっても寝耳に水の発表なのかでも解釈が違ってくる。色々と凄い話だ。とりあえず参院選が終わって3日後の夜を狙って情報を出す当たり、皇室側の用意周到さは感じるが。

○報道の「生前退位の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました」について「宮内庁に」示されているではなく「宮内庁の関係者に」示されているってのも興味深い点。正規の役所ルートで事前に情報が伝達するのを避けたと読めなくもない。

○とりあえず今安倍首相に電話してみて、余裕で酒飲んでるようなら既に話は出来てて皇室と官邸は蜜月、逆に電話が繋がらなかったり、繋がってもブチ切れてるようなら官邸が皇室に出し抜かれたってことになる。誰か総理に直接電話できる人がいたらその結果を教えていただけると幸いです。


憲法第一条の改正が急務となるのか?

日本国憲法 第一条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

皇位を継承した者が次代の天皇となり、これまで通り日本国民統合の象徴となるだけなので、先代の天皇を例えば上皇扱いにし、あえて天皇に加える形での象徴として第一条に盛り込もうと考えない限りは、憲法第一条の改正の必要はない。

その他の条文にしても、今回の発表は憲法改正の必要を迫るものではない。
ただ皇室典範の改正を求めることにはなるが、その皇室典範改正に要する時間と手間については、これまでこのような改正を経験したことがないだけに容易には想像できない。


※このタイミングでの生前退位発表は憲法改正を推進するものか?それとも阻止するものか?

現状での捉え方は二つある。

前者の「推進論」に立てば、皇室典範は法律と同様に国会で改正が可能だから、短期に改正することで「皇室典範ですら改正できた」として重要法案改正への抵抗感を薄れさせ、憲法改正に弾みをつけるものとする。

後者の「阻止論」に立てば、典範の改正は手続き的には法律と同様でもその内実は想像以上に困難。短期間で改正できるものではなく、2018年の衆院任期までの憲法改正スケジュールを大きく乱すとする。

確かに皇室典範の改正となれば、退位後の天皇の扱いと退位手続きは大きな問題となることが予想される。

退位後の扱いとしては、どのような呼称とするか?どのような礼遇とするか?退位後の天皇を再び皇位継承者に加えるか?退位後の天皇が子供を持ったらその子の皇位継承順位・皇族としての資格はどうするかなど、今後の可能性を考えると疎かに出来ない事項が多い。

また退位手続きとしては、本人の希望のみで退位が可能か?皇族会議の議決で退位が可能か?あるいは本人の希望と会議の議決の両方が必要かなど、こちらも時の権力による恣意的な皇位継承の可能性を排除しておくために、慎重な検討が必要となるだろう。

これらの問題を解決するためには、有識故実に通じた有識者を含めた検討を少なくとも半年〜1年程度は経る必要があるだろうし、そうなれば当然憲法改正スケジュールにも影響を与えるだろう。

一つの可能性としては、皇室典範の改正を待たずに憲法改正を先に行ってしまうことも可能性レベルとしてはあり得るが、天皇・皇族の形が固まっていないのに憲法改正が先に有り得るのかと考えると、これは困難な話であると思う。

このような観点からは、今回の生前退位発表、天皇陛下にその意思があったにせよなかったにせよ、結果としては憲法改正阻止に働くものと個人的には考える。

もちろん、憲法改正の推進でも阻止でもなく、単に天皇陛下個人としてもう疲労の限界でこのタイミングとなってしまった可能性も付け加えておきたい。


しかしこうして考えてみて思うのは、現在の皇室典範の合理性と非情性だ。
死ぬまで天皇を続けねばならない、そのことは時の権力による恣意を排除し、皇統の安定を確保するという意味では誠に合理的な設定だったのだろう。
時の権力に都合の悪い天皇を隠居させることもできず、隠居した天皇の子供の扱いを考える必要もないのだから。

明治期にこのような「死の時まで天皇」との皇室典範が作られたのは、時の権力に翻弄され、政争によって皇位が左右されてきた歴史を踏まえてのものかもしれない。

これによって確かに皇位の安定性は高まった。しかし一方ではこの合理性は、天皇となる個人にとっては死の時まで天皇として職責を負わねばならないとの非情さを意味したのではないだろうか。

恐らくは、解決の一つの可能性としては「摂政」の活用ではなかったかと思う。
天皇自身はその位に留まりながら、高齢の天皇に代わり皇太子が摂政としてその職務を代行する方策。
その道を採らずに生前退位という検討事項が多くなる方策を選んだことに、何がしかの思いがあるのではないかと感じる。

ブスって可愛いよな

ブスって可愛いよな。

だって、ブスが、ブスのくせに、鏡の前に座って、少しでも自分を可愛く見せようとして、一所懸命に化粧してるんだぜ。

鏡を見ながら、「ああ私の鼻がもう少しこうだったらなぁ。。。」とか「私の頬がもう少しああだったらなぁ・・・」とか思いながら、それでも自分を少しでも可愛く見せようとして、一生懸命に化粧してるんだ。

健気じゃないか。
キュンキュンしちゃよ。

その健気さは、下手に容姿に恵まれた美女よりもよっぽど美しいと思う。
だから私は思う。
ブスは可愛いと。

あとは、男を捕まえた後に天下取った気になって、踏ん反り返って男を財布のように思わないことだな。
それだけが問題だ。
それだけはもはや女に生まれた業のように、女に付きまとう悪性だから。

役所の変化が遅く、間違いの是正も遅い理由を、船に例えてみる

役所とは船のようだと思った。
方向を変えるべく舵を切ろうと思っても、その舵が効き出すまでには時間がかかる。

『役所は方向を変えるのが遅い』
『間違いと分かっても改めるのに時間がかかる』

とはしばしば聞く言葉。

これは巨艦と同じく、乗っている人間も、背負っている積荷も多いからだ。
そして何より、軍艦や商船とは意思決定のプロセスが完全に違うからだ。

転舵した先が機雷源だったと悟って慌てて舵を戻しても、すぐに戻れるものではない。
間違った判断による避けられない機雷には、残念ながら当たるしかない。

軍艦なら艦長の号令一下、変針作業が行われる。
乗組員には命令に従う義務がある。

民間の商船でも、法律的には船長に決定権がある。
事情を知る乗客は船長に意見を言うかもしれないが、最終的な決定権はキャプテンたる船長にある。

それでも船体が巨艦であるほど、舵を切ってから変針には時間がかかる。
戦艦大和の舵が、効き出すまでに時間がかかったように。

役所という船では、艦長に命令権は無い。
最終的な決定権も無い。

重要な変針を行う際には、乗客の了解を得る必要がある。
場合によっては針路を巡って、船長選挙を行い、乗客の多数決を問う必要も出てくる。
選挙の結果、多数側の乗客が、士官(オフィサー)としてブリッジに乗り込んでも来る。
この場合、オフィサーの主要メンバーは、一等客室の乗客だ。

そうして一度決めた針路が、氷山や機雷源に向かっていることが分かっても、その針路を再び変えるにも時間がかかる。
・氷山や機雷源に向かっていることを説明して、乗客の了解を得ねばならない。
・場合によっては船長選挙をせねばならない。
・ブリッジにいる(元多数側の、このままで安全だと言う)士官達の抵抗をも排除せねばならない。

そうして決まった再度の変針も、号令して、各部署がその体制を整えて、その舵が効き出すまでには時間がかかる。

加えて、外的要因として、
・潮流(世論)の強いところでは、流れに押されて変針が遅くなる。
・推進力への抵抗の強いサルガッソーのような場所では変針力が鈍る。

その間にも、ある程度氷山にもぶつかるかもしれないし、ある程度は機雷源に突っ込むかもしれない。

それはもう、どうしようもない。
結果的に間違っていた判断による避けられない機雷には、当たるしかない。

船長にできるのは映画で見るのと同じく『衝撃に備えろー!』で、機雷命中区画の乗員・乗客の無事を期待するしかない。

この場合、真っ先に被害を受けるのは、海面に近い三等船室(低所得層)だ。
真っ先に水が流れ込んでくる。
アッパークラスにある一等客室(高所得層)は、救命ボートにも近く、脱出できる可能性が高い。
船と同じだ。

自分で操船する1名のカヌーなら、自分の判断で行動できる。舵の効きは素早い【自営業】
乗員5名の漁船でも、船長の判断が強いだろう。舵の効きも早い【小企業】
乗組員50名の軍艦なら、艦長の号令一下。舵の効きも遅くはない【中企業】
乗組員が3000名いる巨艦でも、訓練が行き届き命令系統がしっかりしてれば、時間はかかるが舵は効く【大企業】

乗客が数万人の市町村という船では、乗客の了解を得るのに時間がかかる。
乗客が数十万〜数百万の県という船ではもっとかかる。
乗客が1億を超える国という船では、とてつもなく時間がかかる。
そのうえ舵を切っても、各部署が体制を整え、その舵が効き出すまでにさらに多くの時間を必要とする。

そうして多くの労力を払って切った舵が、間違いであったと。
実は機雷源に向かっていた、氷山に向かっていた、他国のウルフパックに向かっていたと。
そう気付いてから舵を戻すには、さらに多くの時間がかかる。

そのとき船長にできるのは、『衝撃に備えろー!』でしかない。
被害区画の乗員・乗客の無事を期待するしかない。
結果的に間違っていた判断による避けられない機雷には、当たるしかない。

後は船長が、いち早くダメコン班(社会保障)を組織して、損害個所の救援(社会崩壊の防止)に当たらせるしかない。
しかしダメコン班(社会保障班)を組織せず、三等客室を見捨て、一等客室を優先的に助ける決断を下したら、それは悲しい現実となる。

国とは、役所とは、船に似ている。

人事院勧告が示したアベノミクスの危機的状況

■ 国家公務員給与、2年連続引き上げ勧告…人事院 (読売新聞)
2015年08月06日 18時01分

 人事院は6日、2015年度の国家公務員一般職(行政職)の月給を平均1469円(0・36%)、ボーナス(期末・勤勉手当)を0・1か月分それぞれ引き上げるよう内閣と国会に勧告した。
 月給、ボーナスとも昨年に続く増額で、2年連続のプラス勧告は1991年以来24年ぶりとなる。また、勤務時間を柔軟に選べる「フレックスタイム制」について、現在は研究職など約1200人に限っている対象者を原則全職員に拡充するよう勧告した。
 勧告は月給について、初任給を含む若年層の基本給を2500円引き上げる一方で、40歳前後より上の世代では引き上げ幅を1100円にとどめた。ボーナスも民間の月給4・21か月分を踏まえ、4・10か月分から4・20か月分に引き上げた。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150806-OYT1T50068.html?from=tw

本日発表された人事院勧告で、計らずもアベノミクスの危機が示されたようなので、それについて触れておきたい。

まずアベノミクスの要点を簡単に書いておくと、それは『企業収益から賃金・消費への循環』であると言える。
金融緩和や円安を行うとまず最初に物価が上昇するので、労働者が実際に物を買える賃金(=実質賃金)は目減りする。
しかし物価の上昇は企業収益を改善させるので、企業の利益が物価上昇率を上回る形で賃金に回れば、実質賃金も上昇し、消費が増える。
その消費がさらにまた企業収益を改善させ・・・ という形で、企業利益→実質賃金→消費→企業利益→ という好循環が生まれる。
これがアベノミクスの要点で、ポイントは消費の元となる、実質賃金の上昇にあった。

その実質賃金が期待するほど上がっていないのが、計らずも人事院勧告で明らかになった。

具体的な数字で書いてみよう。
例えば平均的な月額給与が40万であったとすれば、昨年と今年の人事院勧告で、公務員の給与は以下のようになる。

○勧告前(H25)
月額給与 400,000円
支給月数 12月+3.95月
年間給与 400,000円×15.95月=6,380,000円

○昨年(H26)勧告
【月給 平均0.3%増 期末勤勉手当 0.15月分増】
月額給与 400,000円×100.3%=401,200円
支給月数 12月+3.95月+0.15月=16.10月
年間給与 401,200円×16.10月=6,459,320円
(H25比 1.24%増)

○今年(H27)勧告
【月給 平均0.4%増 期末勤勉手当 0.10月分増】
月額給与 401,200円×100.4%=402,800円
支給月数 12月+4.10月+0.10月=16.20月
年間給与 402,800円×16.20月分=6,525,360円
(H25比 2.28%増)

という事で、2年連続の上昇勧告とはいっても、その上昇幅は2.28%程度でしかなく、消費税増税の3%にも及ばない。
もちろん金融緩和や円安による物価上昇幅をカバーできるものでもはない。
つまり公務員は、アベノミクス開始前より実質賃金がマイナス(実質的給与の目減り)となっていることが伺える。

しかしここで重要なのは、それは民間でも同じということ。
毎年の人事院勧告は、民間給与の調査に基づいて行われている(注1参照)。
つまり今年は民間給与が公務員に比べ、月額で0.4%、支給月数で0.10月分多かったから、公務員もそうしましょう、足並みをそろえましょうと勧告された。

昨年(H26)の勧告でも、その前年でも、人事院勧告は公務員と民間の足並みを揃えるように勧告しているので、裏を返せば、民間もH25に比べ、2.28%しか上昇していないことを意味する。
つまり民間も消費増税3%すらカバーできていない。
実質賃金マイナスであったことになる。

マスコミ報道では『大幅ベア』と騒がれていたが、どうやらそれは一部で、民間も公務員も、多くの労働者では消費増税をカバーできるベースアップすら達成されていない。
これでは、アベノミクスが目標とする賃金から消費への好循環は起こり得ない。
むしろ実質賃金が下がっているのだから、国内消費の実質的縮小と言う、不景気への悪循環、アベノミクスにとっての危機的状況が発生している恐れがある。

それを計らずも、民間給与を調査して公務員に反映させる、人事院勧告が明らかにした。


注1)人事院勧告における民間給与調査

人事院の民間給与調査は、事業所規模50人以上の企業を対象とするほかに、学生アルバイトや主婦パートを含み、いわゆる『民間の年収400万』の元になっている国税庁民間給与実態統計調査」とは異なり、同種同等比較を行っている。
同種同等比較とは、役職・業務内容・学歴などを揃えて比較を行う方法。
部長なら部長と、10人以上の部下を持つ課長なら同じような課長と、ヒラならヒラと比べる。
加えて、仕事内容や学歴といった条件を揃えて比較している。

つまり、人事院の調査でも民間側が2.28%しか上昇していなかったという事は、正規雇用で長く働く、世間でイメージされるような一家の大黒柱的ないわゆるサラリーマン達が、実質賃金マイナスであることを示している。

これはパートやアルバイトと言った非正規雇用では時給アップが目立つが、正規雇用ではそれほどでもないと言う、他の労働統計が示す事実と整合性がある。

※地域手当について
今年の人事院勧告では、地域手当0.5〜2%引上げも勧告されているが、一方で昨年勧告では月給0.3%の引上げ勧告とは別に地域見合いとして平均2%の月給引下げ勧告が行われているので、全体的に見れば実質賃金マイナス圧力となっている。

福島の甲状腺問題 「現状」と「過剰診断問題」

先日、福島県が行う「県民健康調査 検討委員会」において、甲状腺検査に関する「中間とりまとめ」が報告されました。
原発事故後、福島の甲状腺問題については様々な声が発せられているので、この中間とりまとめを始めとして抜粋・要約することで、福島の甲状腺問題の現状と、そこで語られている「過剰診断問題」について確認してみたいと思います。

以下の引用は、主旨を損なわないよう配慮しつつ、私が抜粋・要約を行いました。
まずは現状確認として「中間とりまとめ」から。

○現状

甲状腺検査に関する中間取りまとめ
平成 27 年 3月 福島県県民健康調査検討委員会 甲状腺検査評価部会

1 先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価

  • 先行検査においては、震災時福島県にお住まいで概ね18歳以下であった全県民を対象に約30万人が受診、これまでに112人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定、このうち、99人が手術を受け、乳頭がん95人、低分化がん3人、良性結節1人という確定診断 が得られている。[平成27年3月31日現在]
  • 検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がん罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれか が考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見 があった。
  • なお、乳頭がんであればその生物学的特性から定期的な経過観察という選択肢もあり得る。スクリーニングに由来する乳頭がんの診断と治療のリスク評価に関しては手術適応も含めて専門家に委ねたい。
  • 現在、日本甲状腺外科学会の診療ガイドラインに従って診断・治療が行われているが、無症状の者に対するスクリーニングの結果であること、小児甲状腺乳頭がんの予後は成人より更に良いことから、今回の福島の状況に対応した診療ガイドラインまたは小児甲状腺がんの診療ガイドラインが別に必要ではないかとの意見 があった。

2 放射線の影響評価

  • 先行検査を終えて、これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時5歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくいと評価する。

3 医療費の公費負担

  • 二次検査を受ける患者の多くは、今回の甲状腺検査がなければ、少なくとも当面は(多くはおそらく一生涯)、発生し得なかった診療行為を受けることになると考えられる。そのため、二次検査以降の医療費については公費負担が望ましい。

6 今後の甲状腺検査

  • 今回の原子力発電所事故は、福島県民に、「不要な被ばく」に加え、「不要だったかもしれない甲状腺がんの診断・治療」のリスク負担 をもたらしている。
  • 甲状腺検査においては、利益のみならず不利益も発生しうる こと、甲状腺がん(乳頭がん)は、発見時点での病態が必ずしも生命に影響を与えるものではない(生命予後の良い) がんであることを県民にわかりやすく説明したうえで、被ばくによる甲状腺がん増加の有無を検証可能な調査の枠組みの中で、現行の検査を継続していくべき と考える。

第 19 回「県民健康調査」検討委員会(H27.5.18 )
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf

臨床や疫学の専門家が集う評価部会の中で、現在の甲状腺がん原発事故の影響と考えにくいことにはコンセンサスが得られています。
もちろん、子供の健康を守るという思いも共通しています。
そこまでは共通ながら、そこから先、甲状腺検査には利益だけでなく不利益もあり、予後の良い(命を脅かす恐れの大きくない)ものを、発見・診断→手術というやり方が果たして正しいのか?
そのような「過剰診断問題」を巡って、主に疫学側の部会員と臨床側の部会員の間で議論がおきています。
子供の健康を守るという思いは共通ながら、「どうやったら健康を守れるか」についての見解の相違が見られます。

次に、そのような過剰診断問題について見て行きます。


○ 過剰診断問題

まずは過剰診断を指摘する部会員の資料から紹介します。

福島県における甲状腺がん有病者数の推計
津金昌一郎
独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長)

  • 罹患率データに基づく累積罹患リスクを用いた甲状腺がんの有病者数を推計して比較を試みることがより適当と考え、国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部(担当:片野田耕太がん統計解析室長)に試算を依頼した。
  • 2001-2010 年のがん罹患率(全国推計値)に基づくと、福島県において18 歳までに臨床診断される甲状腺がんは2.1人、検査受診者集団からは約1.7 人と推計されるが、もし104人が甲状腺がんと診断された場合は、約61倍 となる。
  • 2011 年の人口動態死亡統計によると40 歳までに甲状腺がんで死亡する確率(累積死亡リスク)は、男性0.00036%(100 万人に3.6 人)、女性0.00032%(100 万人に3.2 人)である。即ち、今回の甲状腺検査受診者30 万人あたりでは約1人である。従って、検査による早期発見がなくても、甲状腺がんにより40歳までに死亡することは、極めて稀な事象 である。
  • 甲状腺がんが100 人を超えて診断されている現状は、何らかの要因に基づく過剰発生か、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している(いわゆる過剰診断)かのいずれかと思われる。今回の検査がなければ、1〜数年後に臨床診断されたであろう甲状腺がんを早期に診断したことによる上乗せ(いわゆるスクリーニング効果)だけで解釈することは困難 である。また、早期の診断により甲状腺がんによる死亡を回避出来たであろう甲状腺がんは、多くても1人程度 と思われる。
  • 過剰発生については、急性感染症などとは異なり、がんの要因と発生との間には、ある程度の年数を要することが明らかになっているので、2011年の震災以降に加わった何らかの要因が、2014年迄に診断された甲状腺がんの発生率を高めていると解釈することは困難 である。
  • 過剰診断については、成人の甲状腺がんにおいて確実に観察されていることや小児においても前例があるので、十分な蓋然性 がある。現在診断されている甲状腺がんの多くは、非常にゆっくりと大きくなる、そのままの大きさで留まる、あるいは、縮小して行くなどのシナリオが想定 される。
  • 「より多くの検査をする方がより安心である」、「早期診断は良いことであって、それによる不利益は生じることがない」という前提のもと、善意により行われた甲状腺検査ではあるが、無症状で健康な人に対する精度の高い検査は、少なくない不利益(過剰診断とそれに基づく治療や合併症・その後のQOL低下など心身への負担、偽陽性者の結果的に不必要な二次検査による心身への負担など)をもたらす可能性があるという認識を共有する必要 がある。

第4回「甲状腺検査評価部会」(平成26年11月11日)http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/91000.pdf

■部会長提出3議題に対するコメント
津金昌一郎
独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長)

1 先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価

  • 先行検査で100人を超えて甲状腺がんが診断されている現状は、いわゆるスクリーニング効果だけで解釈することは困難 であり、何らかの要因に基づく過剰発生か、将来的に症状を呈して臨床診断されたり死に結びついたりすることがないがんを多数診断している(いわゆる過剰診断)かのいずれか と考える。個人的には後者の可能性が高い と考えている。
  • 何らかの要因に基づく過剰発生でなければ、殆どのがんは将来的に致命的になる可能性は極めて低かった と想定され、かつ、甲状腺が成長や生命の維持に重要な役割を果たしていることを鑑みると、経過観察という選択肢が多くの症例で望ましかったとも推定される が、医師、並びに、患者・保護者にとって、そのような選択をすることは現実的には困難であったことも十分理解出来る。

  • 何らかの要因に基づく過剰発生でなければ、無症状の健常者に対する甲状腺検査は、それによる利益(早期発見による死亡率減少・QOL の向上)よりも不利益(偽陽性、過剰診断など)の方が大きいと思われるので避けるべきである。

2 2次検査後、保険診療に移⾏した際の医療費について

  • 今回の結果が、何らかの要因に基づく過剰発生でなければ、殆どのがんは、今回の検査がなければ診断されなかったと予想される ので、(個人の)保険診療で実施するのは適切ではない。

第5回「甲状腺検査評価部会」(平成27年2月2日)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/100580.pdf

■部会長提出3議題についての見解
渋谷 健司
国立大学法人 東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学教室 教授)

a 過剰診断の可能性が高い。
b 現行の無症状の住民を対象にした甲状腺がん検診は不利益が大きく、見直しが必要 である。特に、検診によって発見された甲状腺がんの治療に関しては、従来の臨床症例に基づいたガイドラインを再検討すべき である。
C 被ばくの影響は、現行のプロトコール(前後比較)では分からない。全員の被ばく線量評価がなされていないために、コホート研究は成立しない。

  • 「過剰診療」と「過剰診断」が混同されている。「過剰診療」は、ある個別の症例に対して不必要な診療を過剰に行うことであり、今回の議論の対象ではない。一方、「過剰診断」は、生命を脅かさないがんを発見すること。今回の検診では、検査をしなければ一生見つからず、しかも見つからなくても死亡するリスクは低く、切除する必要もない甲状腺がんを多数、診断・治療している可能性が高い。
  • 今回の検診は、世界でも前例の無い、症状の無い住民(平成23年3月11日時点で0〜18歳)を対象にした超音波検査である。通常の論文やガイドラインで用いられる症例の多くは、臨床症例(甲状腺がんの症状を持って病院に来た患者さん)である。この2つの集団は異なることを理解することが重要 である。
  • 地域がん登録のデータを見ると、甲状腺がん罹患率は増大傾向にあるが、死亡率は極めて低いままにとどまっている。 同様の傾向は米国などにおいても認められており、これは、超音波検査の普及に伴う過剰診断によるものと考えられる。 さらに、今回の検診は、症状の無い住民を対象にした超音波検査であり、甲状腺がんの死亡リスクは、がん登録された臨床症例よりも低いことが予想される。
  • 現行の甲状腺がん検診は、不利益(過剰診断・治療による健康影響や費用)が利益(死亡や障害の予防)を上回るために、その見直しが必要である。特に、検診によって発見された甲状腺がんの治療に関しては、手術以外の経過観察の選択肢をきちんと設定した診療ガイドラインを作成するべき であると考える。
  • もちろん、不安を持つご両親には、いつ何時でも説明と検査を実施する体制の確保は必要 である。
  • 県民が、そして、日本国民や国際社会が「被ばくの影響」に注目しており、プロトコールの見直しによる被ばくの影響の科学的検証は必要 である。
  • できるだけ、全員の被ばく線量評価が望ましい。 もし、無理ならば、地域などでの集団レベルの線量を用いて、福島全体で、甲状腺がん罹患率について、線量の低い地域と高い地域で用量反応関係を調べることが必要 である。

第5回「甲状腺検査評価部会」(平成27年2月2日)http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/100579.pdf

このように、これまでの罹患率データによるリスクから、早期診断を行ってもそれによって回避できるであろう死亡は多くても1人程度と、さほど多くは無い。
逆に無症状の者に対する大規模スクリーニングによって、これまでの数十倍の甲状腺がんを発見し、手術を行っている。
この過程では、多くの負担とストレスを、多くの患者や家族に与えているだろう。
検査には利益だけでなく、不利益も発生している。
それは避けられるであろう死亡リスクと照らし合わせて、果たして適切と言えるのだろうか?
と疑問を投げかけます。

これに対し、主に臨床側の部会員からは、いやそんなことは無い、適切にやっているんだという意見が出ている。
資料は無いものの、評価部会の議事録から、該当する部分を紹介します。

○清水一雄 部会長
学校法人日本医科大学 名誉教授
医療法人社団金地病院 名誉院長
日本甲状腺外科学会 前理事長

  • 部会長の立場を外させていただきますけれども、症状が出て病院に来る患者さんというのは遅いです。 ほとんどの患者さんは無症状ですね。たまたま人から指摘されたとか、外来でエコー検査でついでに甲状腺をひっかけたときに見つかってしまったとか。それで比較的進んでいる人もいます。
  • 福島の今回の検診は、背景にもちろんほとんど100%近い人が無症状です。ただその背景には福島原発の事故という背景があります。この背景を考え合せた上で全くしなくていいのか、あるいは事務局の方に(検査を)やって下さいという人がたくさんいる中でですね、どのくらいの方を対象にどこまでやるかを含めてその辺の所も頭に入れながら議論していただきたい というふうに思います。

鈴木淳一 福島県 保健福祉部長

  • すみません、県の保健福祉部でございます。事務局からあまり意見を申し上げるのもどうかと思いますが、過剰診断の話になった時に、報道などで過剰診断というのを見て非常に違和感を覚えるという、これは保護者の方のご意見です。
  • なぜかといいますとチェルノブイリの例を皆さん勉強なさっていて、やはり子供さんのことが非常に心配だ、ということで2年にいっぺんと言わず毎年検査してくれというような声が県にも多数よせられてきた ということで。
  • あの渋谷先生のですね、もし先生の説明のようにするのであれば、そういう不安はないので、ほとんどありませんから大丈夫ですと言っていただいた上で過剰診断という説明、議論になるのであれば分かるのですが、不安を抱えたままのところにですね、逆側から説明しようとすると、ちょっとまだ県民の多くの方からご理解が頂きにくいのではないか というのが我々の今の感じ方です。

○清水一雄 部会長

  • 子供の健康を見守るということでこの検査が始まった と思うのですが、その結果、細胞診で109人見つかって85人手術した わけです。これは鈴木先生からご説明いただいたように、109人全員手術したわけではなく、その中で専門家、外科医が集まって、あるいは内科の先生が一緒だったかもしれませんが、この手術は必要だと判断して行った85名と私は理解しています けども。

○鈴木眞一 福島県立医科大学 教授

  • 私、当事者なのでそのことは皆さんで議論していただいた方が非常にいいと思いますけど、私も日本の甲状腺の専門家でこの間まで理事長をしていましたので答えておかなければいけないのは、渋谷先生が勉強されたことはごもっともかと思うのですけど、我々は、日本が世界に先駆けて過剰にならないように、なるべく微小がんを取らない経過観察をするということでこの基準も作られた もので、米国のガイドラインは今年から日本の我々の経過観察という概念も一部取り入れるようになっております。そこは我々が先駆けてやっている中で日本の全国の専門家と相談してこの基準も決めております。 その結果でやっていることです。
  • 国立がんセンターのがん登録は我々も知っていますけど、あれは十分に甲状腺がん全てが捉えられているわけではないということで、あれはひとつの推定値です。
  • 生存率をその10年や5年の登録だけじゃなくて長い間で見ると今見つかっているのは過剰に早い所ではないですが、一般的にとるべき臨床例の中の早い方にきていますので、ご存じのように片葉切除が非常に多くて、非常に将来の予後は良いのではないか、QOLも良いのではないか ということは想像されます。
  • これは初めての試みですので、みんなで日本の英知を集めながら検討しながら行くべきだとは思っています。過剰だということに関してのそういう疫学的な議論に関してはもっとしていただきたいですが、そこに対する基本的な甲状腺の常識という今までの知識はもう少し明確に入れていただきたいと思います。

第5回「甲状腺検査評価部会」議事録(平成27年2月2日開催)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/109100.pdf

臨床側としては患者一人一人の状態を考え、一人一人に適切と思える対処を行っている。そういう思いが伝わるし、また行政側からも、保護者の心配する声に応えるためにやっているという思いが伝わります。

疫学側の思いと、臨床側の思い。
双方とも、子供の健康を思う気持ちは同じでも、集団のリスクを考えるか、目の前の個人のリスクを考えるかで、その解決策は違ってくる。

この過剰診断問題の最後として、中間寄りと感じられる意見を紹介します。
少々長くなりますが、この問題を考えるうえで参考になる論点を多数含んでいるので、なるべく多くを紹介します。

■現時点での福島第一原発事故甲状腺への影響について
西 美和
広島赤十字・原爆病院 小児科非常勤嘱託医,前副院長兼小児科部長)

  • 甲状腺がんは、小児期を通じて同じ発生率ではなく10 歳代後半に多い。また、検査方法の違いで発見頻度は異なる。
  • 国立がん研究センターによる発生率は、「15〜19 歳では年に100 万人当たり6 人」や「20〜24 歳では年に100万人当たり16 人」である。
  • これらは、何らかの訴えで病院を受診し、手術の結果甲状腺がんと診断されたものである。
  • 福島県の調査は、何ら訴えのない子どもが超音波検査を受け、甲状腺がんあるいは悪性疑いとされた人数であることが重要である。
  • 従って、何らかの訴えで病院を受診した甲状腺がん発生率と何ら訴えのない子どもをスクリーニングした福島県調査の甲状腺がん発生率とは、分子と分母が全く異なるので比較はできない。
  • 比較的大きな腫瘍径のものは、生物学的にも事故後すぐに発生したよりも事故前からあったものと考えられる。
  • 超音波装置の進歩もあり、従来見逃されていた微小病変が容易に検出されるようになった。
  • 20 歳以降の甲状腺がんも、10 歳代に甲状腺超音波検査されれば早期に発見される可能性がある。
  • 現時点では、スクリーニングでの甲状腺がん発生状況をアウトブレイク(異常多発)とは考えにくい。
  • チェルノブイリ甲状腺がんの発生は、事故当時5歳以下の世代に多いが、福島県調査では104人中10歳児以下は7人、5歳児以下は0人である(年齢は原発事故時)。
  • チェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの発見は、事故後最短で4〜5 年とされている。
  • 2011年4 月キエフ市国際会議の報告では、甲状腺がんの総数は7,000 人に達し、死亡例は20 人以下(0.3%)である。その多くは、手術や術後治療に不慣れな施設での治療による合併症に起因している。 乳頭がんが多く、術後の予後も良い。予後が良すぎるので、早期発見・早期治療の成果とも考えられるが、小さくてすぐに手術しなくても、フォローのみでよいような例まで見つけて手術している可能性も考えられる。→「過剰診断・治療」の可能性がある?

  • 福島以外で、10 歳代〜20歳代の万人単位での甲状腺超音波検査が実施されれば、甲状腺がんの実態が判明すると思う。ただ、倫理的な問題や、実際に何の訴えもないのに甲状腺がんを発見された人に対する対応の問題など、課題は多いので実施はかなり困難と考えられる。

福島県民健康調査の甲状腺検査は人間ドックと同様に「過剰診断」?

  • 「過剰診断」とは、病理組織学的には甲状腺がんであっても進行が非常に遅く転移の頻度も低い病変で、生命予後には影響しないものであり、検診のない状況では本来発見されるはずのない甲状腺がんが相当する。
  • 人間ドックなどの甲状腺超音波検査では、甲状腺がんの発見率は高くなっているが、死亡率は変化していないので「過剰診断」の問題がでている。
  • 小児の甲状腺がんの予後は良いが、リンパ節や肺転移が多いので早期発見・早期治療した方が良い。
  • 小児の甲状腺乳頭がんは、診断時に一見して進行した状態にあり再発も多いが、適切な初期治療と術後の処置により、長期の生命予後は成人に比較すると良好で、死亡率は低いと報告されている。
  • 現時点では、「過剰診断」とは必ずしも断定できないので、「甲状腺超音波検査で発見された甲状腺がん、疑い」とする。
  • 現時点では「過剰診断」なのかどうかを含めて、超音波検査の必要性と継続性について、客観的なデータを基に十分な話し合いが必要 である。

福島県民健康調査の甲状腺検査の問題点

  • 「福島もチェルノブイリと同じになる?」という不安の声に押されて開始された甲状腺超音波検査は、当初からスクリーニング効果が考えられていた。検査結果の公開に伴い、「過剰診断では?」の指摘があり、県民の健康状態を把握し不安を解消する対策が、逆に不安や不信感を招いている側面もある。
  • 甲状腺超音波検査のプラス面(利益)とマイナス面(不利益)を、ていねいにキチンと説明する必要がある。
  • 経過観察でよい場合でも、「がんの疑い」と言われれば精神的ストレス にもなり、「心配だから手術して欲しい」、「早期に見つかったから手術した方が治るから」の気持ちになる 可能性もある。
  • 一般的に、“がん”の名前から、甲状腺がんも肝臓がんや肺がんと同じように“予後の悪いがん”と思われている? “がん”=“不治の病”と思われている?
  • マスメディアは、検査結果については、不安をあおるようではなく適切かつ慎重に報道する。 検査結果で結節・のう胞や甲状腺がん、疑い報告があった当初には、マスメディアの一部には「原発事故と関係あるのでは」との風潮があった。

第4回「甲状腺検査評価部会」(平成26年11月11日)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/90999.pdf

福島の甲状腺検査の現状と、過剰診断の問題。
上に紹介してきたように、現在発見されている甲状腺がん放射線の影響とは考えにくい、という点についてはコンセンサスが得られており、子供の健康を守ると言う思いは同一でも、そこから先、「どうやったら子供の健康を守れるか」について意見の相違が発生している。

素人の考えですが、集団リスクから考えるか、個人リスクから考えるかの違いであって、多分どちらも正しいし、どちらも間違ってはいない。
だからこそ、この問題が難しい。

この大規模な超音波検査で潜在的甲状腺がんを発見できたメリットは間違いなく存在する一方で、果たして生命に影響を及ぼす可能性の低い、多くのがんを見つけて手術する必要はあったのか。

もし大規模な超音波検査はメリットがデメリットを上回るとなれば、他県でも実施すべきと言う話にもなるが、果たしてどうなのか。

放射線の影響評価という観点から始まったこの検査が、微小ながんまで発見してしまうと言う事態に直面して、早期発見とは何か、健康を守るとは何かと言う、根源的な難問に対する回答を、図らずも求められてしまっているように思えます。


ちなみに、放射線の影響評価として始まったこの検査ですが、渋谷先生の資料にあるように、現時点においては、全員の被ばく線量評価(特に甲状腺等価線量等の)が遅れているようです。
このことは今後の影響評価の課題となるでしょうが、マスコミなどでは「○人が甲状腺がんだった」という話ばかりが大きく取り上げられます。

検査の不利益としては、このような不安を煽るようなマスコミ報道や、子供や家族に絶望感を与えるような酷い言説が害悪なのは、多く共通するところだと思います。

非常に長くなりましたが、最後に、行われた手術の症例を紹介して今回のエントリの締めくくりとしたいと思います。
酷い言説の中には、「甲状腺がんと診断されれば、手術が行われ生死にかかわる、後遺症リスクも大きい」といった類もありますが、以下を読めば、医療関係者は一人一人の症例と真摯に向き合っていることが読み取れると思います。

■手術の適応症例について
「県民健康調査」検討委員会 第4回「甲状腺検査評価部会」(H26.11.11)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/90997.pdf

  • 2014 年6 月30 日現在までの二次検査者1848 名からの細胞診実施者485 名中、悪性ないし悪性疑いは104 例であり、うち58 例がすでに外科手術を施行。

  • 58 例中55 例が福島医大甲状腺内分泌外科で実施。55 例中1例は術後良性結節と判明。残り54例の病理結果は52 例が乳頭癌、2例が低分化癌。
  • 術前診断で、腫瘍径10 ?以下でリンパ節転移、遠隔転移が疑われるものは3 例、疑われないものは9 例。この9例のうち進展が疑われない2例は非手術経過観察も勧めたが本人の希望で手術となった。

  • 術式は、甲状腺全摘5 例(9%)、片葉切除49 例(91%)、リンパ節郭清は全例に実施。出来る限り3cm の小切開創にて行った。
  • 術後病理診断では、腫瘍径10 ?以下かつリンパ節転移、遠隔転移のないものは3例。甲状腺外浸潤は37%、リンパ節転移は74%が陽性。術後合併症(術後出血、永続的反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症、片葉切除後の甲状腺機能低下)は認めていない。

【残業代ゼロ】 働かせるほど安くなる換算時給で企業の狙いが見えてくる

政府が「高度プロフェッショナル制度」と呼ぶ残業代ゼロ制度については、現在のところ法案は示されていないが、その要綱というものがある。

それがこれ↓なのだが、

労働基準法等の一部を改正する法律案要綱
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000075870.pdf

この中に残業代ゼロに出来る条件がいくつか示されていて、その中の一つがこれ。
『4週間を通じ4日以上 かつ 1年間を通じ104日以上の休日を確保すること』

1日何時間まで、という制限は無い。
この休日要件さえ満たせば、残業代ゼロが可能になる。
つまり理論上は、「週休2日、後の5日は24時間労働」も可能となる。

とにかくこの要件の場合、決められた休日さえ与えれば、あとは全て労働時間とすることも可能なので、最大可能労働時間を計算すると、

365日−104日=261日
261日×24時間=6,264時間

この6,264時間が、最大限に働かせることのできる時間。

一方で「当面の」年収要件は1075万円だから、最大可能労働時間を時給換算すると、

1075万円÷6,264時間≒1700円 となる。

1075万円は「当面は」これ以上さげられないから、後は労働時間と時給の関係になる。

まぁさすがに24時間労働を261日は無理。企業もそこまで鬼じゃないだろう。
という事で、今の労働基準法と同じ8時間で計算すると、

261日×8時間=2,088時間
1075万円÷2,088時間≒5150円

時給換算で5150円。
まぁ家族を養うサラリーマンとしてはいい数字かな。
でも名前は「高度プロフェッショナル制度」だったはず。
「高度でプロフェッショナルな人材」の時給としては安いんじゃなかろうか・・・

でも実際のサラリーマンとしては、1日8時間以上働いてる人も多いよな。
高度でプロフェッショナルな、経済の第一線で働くような人材なら特に。

そこで、1日10時間労働ならどうだろう。
261日×10時間=2,610時間
1075万円÷2,610時間≒4100円

12時間労働なら
261日×12時間=3,132時間
1075万円÷3,132時間≒3400円

法律ができれば1日16時間以上働かせても許されるので、とりあえず16時間労働としてみると
261日×16時間=4,176時間
1075万円÷4,176時間≒2600円

時給換算で3400円とか2600円、ここまで来るとさすがに「高度でプロフェッショナルな人材」の給与では無い。
でも「高度プロフェッショナル制度」ではこれが可能となる。

マスコミは「時間では無く成果で評価される制度」と報道するけれど、法案要綱には成果とは何かも、成果と賃金を連動すべしとも書いていない。
もちろん成果を上げたら給料を増やすとも書いていない。

むしろ上の計算からは、企業としては働かせれば働かせるほど、時給換算で安い労働力を得ることができる。
もちろん「始めに仕事量を決めておいて、仕事の追加は禁止」とも書いていない。
与えた仕事が終わったらまた次の仕事と、体力の限界まで仕事を追加することで、企業が支払う換算時給はどんどん安くなる。

これまでの残業代制度なら、仕事の追加は残業代コストが増えるので、残業を増やさない、労働時間を増やさないことが企業のインセンティブだった。
ところが「残業代ゼロ」になると、仕事量をどんどん追加する、労働時間を増やすことが企業のインセンティブになる。
仕事を増やせば増やすほど、支払う換算時給が安くなるからだ。

「時間では無く成果で評価」なんてとんでもない。
労働時間を増やすほど、企業にとって「お得」になる制度。
それがこの「高度プロフェッショナル制度」の本質。

使えば使うほど安くなる。「労働者定額使い放題」と呼ばれるのもむべなるかな。

もちろん、年収要件の1075万は「当面」だし、年間104日の休日要件を守らなくても罰則は無い。