全数検査の話の余談

先週の金曜、たまたま映っていたテレビの中でのこと。
「専門家」と言われる人が、今回の牛肉汚染問題について、汚染拡大を防ぐ有効な方法はないのかという話で、このようなやり取りがあった。

専門家「牛の尿を調べるのがいい、チェルノブイリでは有効な方法だった」
出演者「どうして政府は牛の尿を調べないのですか?」
専門家「政府の人間は、チェルノブイリの事を知らないのだろう」
出演者(顔をしかめて)「ええー、そんな・・・」

このやり取りを見ていた人は、今対策に当たっている人達は、さぞやいい加減な連中だと、市井の専門家が知っているようなことも知らない、素人同然の連中なんだと感じたことだろう。
そういう流れだった。


まず1点。
尿を調べれば、確かにある程度は、牛の体内のセシウムが多そうか少なそうかは分かる。
ただ、その値を知るには、「いつ放射性セシウムを取り込んだか」が分からなければならない。
尿中のセシウム濃度と、いつ取り込んだか、その2つの情報があって始めて、体内の放射性セシウムの量が求まる。

牛の生物学的半減期は○日だから、○を尿に出た数字で割り返せば体内の放射能が求まるとか、そういう簡単な話でも無い。


もう1点。
結局のところ、その牛の尿を何で測るかが問題になる。
少し前の、福島の子供の尿から放射性セシウムが検出された話。
あれを測ったのも結局、ゲルマニウム半導体検出器だった。
わざわざフランスまで持って行って、測っていた。

牛の尿を測れば、確かに多そうか少なそうかは分かるかもしれない。
じゃあ何で測る?
ゲルマニウム半導体検出器?
国内のそれは、牛だけじゃなく、水やら野菜やら魚やら、食品の分析で既にフル稼働状態なんですけど…
それとも、そういった食品の分析は押しのけて、牛の尿を1頭1頭測れと言うことかな?

「尿を測れば出る」それは確かにそうだよね。
でも【対策】というのは、そういう「アイデア」だけじゃなくて、その「アイデアを実現させられるだけのリソース」がどれだけあるかも含めて考えなければならないわけで。
今対策に当たっている人達は、そういう限られたリソースという、制約条件の中で出来ることを考えていかなければならないわけで。
リソースの裏付け無しにアイデアだけで「○○すれば出来る!」と言われたって、そんなのは絵に描いた餅でしかないわけで。

仮にも「専門家」を名乗るなら、今の対策が間違っていると批判するなら、そのアイデアを実現できるだけのリソースもこれだけあるんだと、今の対策はリソースの使い方がこれこれこういう風に間違っているんだと、その「アイデアの実現可能性」まで踏み込んで、具体的に示して欲しかったなぁ。

テレビに出てくる「専門家」の言ったような対策が取られていない理由には、そんなこと分かった上で条件の関係で出来ないのか、それとも本当に単なるバカなのか、可能性は色々あるわけだけど。
まぁ、そういった「アイデアの実現可能性」まで示すのは骨が折れるからね。
単純に、相手を「バカ」扱いにしてしまうのが、一番簡単でいいよね。うん。