ガイガーカウンタで測った数値について
ネット界隈をうろついていると、こういう動画を目にする。
私はこういう系はあんまりウロつかないから、あまり多くは知らないけど、他にも結構あるようだ。
で、こういう数値の意味合いについて、ちょっと考えておこうと思う。
この動画で言えば、一番高い値は、最初の計測場所であらわれる(0:00〜1:50)。
雨樋下から1m?程度離れた場所では4μSv/h程度だったものが、雨樋下に持って行くと、90μSv/h程度と、20倍以上にもはね上がる。
この計測器は9秒毎に値を出すように設定されていて、97.39μ、84.39μ、89.39μSv/hと計測され、3回の平均では90.39μとなる。
普通の人なら、ガイガーカウンタで90マイクロといった数値がでたら、ビックリしてしまうだろう。
そこで、この数値の意味合いを考えてみる。
まずは測定方法から。
測定に使われているのは、携帯型のGM計数管方式の測定器。
ちなみに、GMとは「ガイガー=ミュラー」と読む。
意味は、こういう方式の放射線測定器を開発したのが、ドイツ人のガイガーさんとミュラーさんだったから、こう呼ばれている。
放射線測定器は、よくガイガーカウンタと呼ばれたりするが、それはこの、ガイガーさんたちが開発したガイガー=ミュラー計数管が有名になったから。
ガイガーカウンタという言葉が有名なおかげで、放射線測定器とはガイガーカウンタのことだと思われているようなケースもあるが、放射線測定器には、他にも電離箱方式やシンチレーション方式といったものがあるので、これらをひっくるめてガイガーカウンタと呼んでしまうのは、正しくない。
ガイガーカウンタとは放射線測定器の一種類で、上のGM計数管方式の測定器を指す。
で、今回は、この携帯型のガイガーカウンタ(GM計数管方式)であることが重要になる。
測定原理を詳しく書くとさらに長くなるので、結論だけを書くが、ガイガーカウンタはその原理的に、測れるのは放射線の数だけ。
単位で表せばcpm(カウント・パー・ミニッツ)、つまり1分間に放射線が何本通ったかしか測れない。
どれだけの被曝するかのμSvは、本当は測れない。
だけど、上の動画にあるように、一般的に売られているガイガーカウンタでも、cpm(何本)ではなくμSv(どれだけ被曝するか)で表示されている。
これは何故か。
仕組みとしては、事前に「大体このくらいだろう」という演算式をあらかじめ設定しておいて、その演算を通った放射線の数に行うことで、cpm(何本)をμSv(被曝)に換算して表示している。
例えば、これまでの福島であれば、放射線を出している物質には、ヨウ素131があったり、セシウム134があったり、セシウム137があったりする。
これらの物質、本当は、それぞれが出す放射線のエネルギーが違う。
だから本当は、放射線が測定器を通ったと言っても、その放射線のエネルギーが分からないと、より正確な被曝量(μSv)は分からない。
同じサーベイメーターと言っても、数万円で買えるものもあれば、数十万円するものもある。
動画のような携帯型GM計数管は数万円から買えるが、公的機関や研究機関は30万とか50万とかするものを使っている。
もし精度が同じであれば、わざわざ高いものを買う必要がない。
つまり、公的機関や研究機関が使っているサーベイメーターは、上で書いたような放射線のエネルギーを判別できる性能がある。
だから、より正確に、被曝量(μSv)を計測できる。
ということで、まずはここで誤差が出る。
GM計数管は、小型で安く作れるが、本来はμSv(被曝)ではなくcpm(何本)しか分からない。
それを、あらかじめ内部に設定しておいた式で演算してるから、μSv(被曝)と表せるのであって、本来はそういう機械じゃない。
つまり、≪GM計数管は、精度が良くない≫
ということで、ここでまず誤差が出る。
おもしろいHPがあったので紹介。
複数の放射線測定器を、同じ場所に並べて測定している。
http://www.kasetsu.net/radioatom.htm
(ページ内を、「放射線測定の基礎」で検索かけてね)
GM計数管方式のものだけ、他の測定器に比べてかなり高い値を出している。
他のに比べて、3〜10倍になっている。
このGM計数管は「ガンマスカウト」という商品だが、事故前は5万くらいだったものが、今では10万とかで落札されているらしい。
こういうのを外に持って行って、測って、「○○μSv!」と騒ぐことに、どれだけの意味があるかという話。
ただし、だからと言って「GM計数管はダメ」というわけではない。
精度が良くないと分かっていながら、大量に作られているのにはそれなりに理由がある。
精度が高くない代わりに、小型・安価に作れ、持ち運びに優れている。
つまり、値そのものを問題にするのではなく、≪トレンドを掴む≫のには適している。
日頃から、同じ場所を同じように測っておいて、その値に大きな変動があったら、「何かあったな」と分かる。
そういう、「何かあったな」ということを見るための、≪トレンドを掴む≫のには充分役に立つ。
個人の用心として持っておいて、大きな変動に注意する。そういう使い方をするのなら、問題ない。
でも、それを新しい場所に持って行って、そこで出た数値を見て「○○μSv!」と騒ぐことに、どれだけの意味があるかと言えば、あまり意味は無い。
そんなわけで、始めの動画に戻れば、最初の4マイクロの場所と、雨樋下の90マイクロの場所で、雨樋下の方が高いというのはその通りだろう。
だけど、じゃあ雨樋下の90マイクロは本当に90マイクロなのかと言うと、そうとは言えない。
あくまで、最初の4マイクロの場所よりは放射性物質が多くありそうだな、という事しか分からない。
ましてや、90マイクロ×24時間×365日=788ミリシーベルト!と騒ぐことには、マトモな意味は無い。
その場所での、より正確な被曝量(μSv)を知りたいと思ったら、携帯型のガイガーカウンタではなく、高くて大きな機械と、測定方法の知識を持った、行政なり分析機関の人を連れてこないと分からない。
ガイガーカウンタは、あくまで目安。
次に、上の方で、「この計測器は9秒毎に値を出すように設定されていて」と書いたが、これには意味がある。
9秒間測ったものが、マイクロシーベルト/時と表示される。
これは要は、9秒間で測れた放射線の数を、1時間当たりに直しているということ。
放射線とは、放射性物質が壊れるときに放出されるのだが、放射性物質が壊れる程度が一律ならば、こういう測り方でもいいかもしれない。
だけど現実的には、一律ではない。
同じ1分の間でも、もしかしたら始めの30秒はいっぱい壊れて、残りの30秒はあまり壊れなかった、そういうこともあり得る。
だから、短い時間しか測らないと、いっぱい壊れたときだけ測って、少ないときは測らなかった、そうなると、長く計り続けた場合より高い値になるのだが、そういうこともあり得る。
ということで、ここでも誤差があり得る。
次に、測り方。
上の動画の測定者は、地面にベタ置きした測定器を、そのまま雨樋下まで持って行ってる。
もし、地面に置いたときに、放射性物質が付着していたら、測定値にノイズが入る。
こういうベタ置きする測り方は、非常によろしくない。
そして、最近はこういう携帯型ガイガーカウンタが、ネットで取引されてるようなのだが、どこまできちんと校正されているのか分からない。
放射線測定器の校正は、標準線源という、あらかじめ強さがわかっている線源があって、それにあてて調整する。
基本的に個人レベルで出来るものではなく、車で言う車検みたいに、一度機械を業者に引き渡して、調整してもらう必要がある。
ネットで売られているようなものは、きちんと校正されているのだろうか。
これまで書いたように、携帯型ガイガーカウンタは、入った放射線が何からの放射線かを判断することが出来ないので、元々誤差を持っているし、測り方でも誤差が出る。
校正されているものでも誤差があるのに、校正されていなければ、この誤差はさらに膨らむ。
と、このようなわけで、ネットでは、携帯型ガイガーカウンタを持って行って、「○○μSv!」と公開しているものがあるが、これまで書いてきたように、確かに他の所と比べて高いのはその通りでも、それが本当にその値かは分からない、ということ。
機械には、その仕組みに基づいた用途と使い方というものがある。
仕組みに沿った用途で、正しい使い方をしたなら信頼できるが、仕組みから外れた用途で使い方も間違えば、信頼できない。
そういう話。
ちなみに、動画の途中、公園で、地上1m付近では2μ程度だったものが、地面では18μ程度、9倍以上にまで上昇している場面がある(2:20〜)。
福島県も、県内1600箇所以上の学校などで、1mと1cm高さを測った数字があるが、1.0〜1.8倍程度。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/08/1304815_0408.pdf
9倍以上というのは無い数字。
9倍以上という、この値は信頼できるのだろうか。
ここでは、β線の影響が、大きく疑われる。
放射線にはγ線の他にも、β線と言う種類があることはよく知られている。
γ線は透過力が強く、人体に当たれば内臓まで通り抜けて行ってしまうのに対し、β線は透過力が弱く、皮膚の上層で止まってしまう。
だから、人体への影響を考える空間線量としてはγ線の存在が問題であり、行政や研究機関では、γ線のみを区別して正確に測ろうとしている。
一方、この動画のような携帯型ガイガーカウンタでは、そのγ線とβ線の区別が出来ない機械が多い。
γ線もβ線も、同じ放射線としてカウントしてしまう。
なので、そもそもの放射線(γ線)の数に誤差が出る。
さらに、上で携帯型ガイガーカウンタでは放射線のエネルギーの区別無しに演算してしまうと書いたが、ここでも、カウントしたβ線に対しても同じような演算を行ってしまう。
こうなると、行政や研究機関の、精密な機械でγ線を測った実際のμSvとは、大きな差が出る。
個人がガイガーカウンタで測ったという報告では、何倍も、時には10倍以上もの値が報告される事があるが、それにはこういう、β線を拾って、なおかつβ線もγ線と同じように被曝量計算してしまうという、機械の性能の限界が現れているものがあるように思う。
ちなみに、放射線の飛ぶ距離だが、γ線は100〜200m飛ぶのに対し、β線は1m程度しか飛ばない。
地上1m程度では大したことない値が、地面に近づけるに従ってみるみる上昇していく動画があるが、β線を拾っている可能性が大きいと思う。
またもし、仮に信頼できるとしても、福島県が測った他の1600箇所以上では出てこない数字なので、そう言う数字が事実であったとしても、本当にかなり局所的なケースではないかとも思える。
とりあえず、ここまでが測定に関する話。
次に、そういう測定に関する問題には目をつぶり、仮にこの測定値が信頼のおけるものだったとして、その危険性について考えてみる。
最初の測定場所を例に、もし仮に、幼児が、雨樋の下の土や小石を全て飲み込んで、ここにあった90.39μを出した放射性物質を全て体内に取り込んだ場合の、被曝線量を計算してみる。
ちなみに、きちんと考えれば、ここで90マイクロが計測されたとしても、その放射線は雨樋下以外からも色々な方向からも飛んできていて、それらの合計が90マイクロという数字なので、雨樋下に90マイクロを出した放射性物質が全部あるというわけではないのだが、まぁ雨樋下に全部あったとすればより厳しく見込むことになるので(というか計算の簡単のためだけど)、雨樋下に全部あったとして計算する。
まず、4月の福島市内の学校の土壌分析の結果から、ヨウ素131:セシウム134:セシウム137の比を、0.5:1:1とする。
地表1cmで90マイクロを計測するとして、各核種の放射能を逆算する。
ヨウ素131
0.0648μSv×0.012MBq÷(0.01m)^2=7.8μSv/h
セシウム134
0.249μSv×0.024MBq÷(0.01m)^2=59.8μSv/h
セシウム137
0.0963μSv×0.024MBq÷(0.01m)^2=23.1μSv/h
合計 7.8μSv+59.8μSv+23.1μSv=90.6μSv/h
試した結果、このように、12000Bq:24000Bq:24000Bqで、だいたい90μになるので、これを雨樋下の放射能とする。
ここで求められた各核種の放射能に、幼児の線量係数を乗じて、内部被曝の実効線量及び甲状腺等価線量を求める。
○実効線量
ヨウ素131:12000Bq×7.5×10^(−5)=0.9mSv
セシウム134:24000Bq×1.3×10^(−5)=0.31mSv
セシウム137:24000Bq×9.7×10^(−6)=0.23mSv
合計:1.44mSv
○甲状腺等価線量
ヨウ素131:12000Bq×1.5×10^(−3)=18mSv
ということで、雨樋下で90マイクロを出している放射性物質を全て体内に飲み込んだとして、その場合の被曝量は、実効線量で1.44mSv、甲状腺等価線量で18mSv。
実効線量では、直ぐに障害が出るとされる500mSvにも、将来的にガンのリスクが増える100mSvにも及ばないし、甲状腺等価線量で考えた場合の50mSvも下回る。
子供がどろんこ遊びをするにしても、地面で転げ回るにしても、手を洗うだろうし、風呂にも入るだろう。
雨樋下の放射性物質が、全て体内に入るのは、普通に考えて有り得ない。
その普通に考えて有り得ないケースを想定しても、この数値。
子供が24時間365日、雨樋下に寝そべっていたり、他の雨樋下の土も全部飲み込むのなら問題だと思うが、そういうことはないだろう。
そんなわけで、普通に生活している分には大丈夫だと思うし、避難を要するほどの危険性があるとは思えない。
逆に避難をすれば、支援があったとしても、ストレスを抱える。
チェルノブイリなどでは、健康に影響のあるレベルの放射線ではなくても、ストレスから健康を崩したことが指摘されている。
健康障害というのは、純粋に放射線によるものだけではなく、精神的苦痛からも生じる危険性があるだろう。
避難するとかしないとかは、そういったところも考えた方がいいんじゃないかと思う。