【出た】からって評価をすっ飛ばして騒ぐ


■福島の子供の尿から放射性セシウム検出 (日テレNEWS24 - 06月30日)
 福島県の子供の尿から微量の放射性セシウムが検出されたことが市民団体の調査でわかった。国の原子力安全委員会は「健康への影響はない」と説明している。
 この調査は、福島第一原子力発電所事故当時、福島市内に住んでいた6歳から16歳の男女10人を対象に市民団体がフランスの研究所の協力を得て行った。5月下旬に尿を採取して検査した結果、10人全員の尿から放射性セシウム134と137が一リットルあたり約0.41ベクレルから1.3ベクレル検出されたという。
 市民団体は、子供たちの健康に影響があるかどうかの評価は行っていないが、原子力安全委員会はこの数値について「十分に低い値で、健康への影響はない」と説明している。
 市民団体は「子供たちに内部被ばくの危険があることは間違いない」として、国や県が責任を持って子供たちに対する内部被ばくの検査を継続的に行うよう求めている。

まず、尿からセシウムが検出されたことについては、別に驚くべき話ではない。
始めから予想されていたと言うか、当然そうなるだろう話。

周辺の土壌にもセシウムが含まれているし、食品にもある程度は含まれている。
そこからいくらかは体内に入るだろうし、体内に入れば「出るもの」として出てくるわけで、便や尿を測れば検出されるのは当然の話。

沿岸部に住んでいる人の便からは、魚の残骸がそれなりに出るだろうし、トウモロコシを食べれば消化されなかった実がそのまま出てくることもあるだろうし、そういうのと同じ話なので、出るのは当然のこと。
別に驚く話じゃない。


私の尿だって、測れば出ると思う。
摂取制限地域の野菜食べてたし、風で埃が舞っている中で散歩したり、その後深呼吸したり、うがいもしないでお茶飲んだり、そういうことしてたし。

なので測ればセシウム出るだろうけど、だからと言ってそれが危険だとかそういう話だとは思って無い。
健康に影響があるかどうかは、【出た】ことではなく、【どれくらいの量があったか】で決まるから。

今回、尿からセシウムが検出されたという。
この情報だけでは、騒ぐ話でも心配する話でも無い。
問題になるのは【量】だから。

そして、その肝心の【量】は、最大でも1リットル当たり1.3ベクレルだという。
これは、心配する値ではないだろう。

どうして心配ないと言えるのか、それを考えてみる。


まずはセシウム137から考えてみる。

セシウム137は、最大1リットル当たり1.3ベクレル検出されたとのこと。
ここで、最大値が出たのが7歳〜8歳とのことなので、標準的な体重を25kgと見込む。
体重25kgの人間の標準的な尿量は、1日0.6リットルだから、1日当たりの排出量としては以下のようになる。

1.3ベクレル×0.6=0.78ベクレル/日

次に、内部被曝の評価としては、これをどのような形で、時期的にはいつ、体内に取り込んだかが問題になる。

どのような形で取り込んだかについては、現実的には知ることは難しい。
詳細は省くが、実際には呼吸よりも飲食によって取り込んだものの方がずっと多いと思うが、ここでは仮に、吸入摂取分と経口摂取分を50%ずつとして考える。
ちなみに、これによって、線量としてはかなり過大に(つまり安全側に)なると思う。

つまり、吸入摂取分・経口摂取分、共に以下のようになる。
1.3ベクレル×0.6×0.5=0.390ベクレル/日


時間的には、一時期に一度に取り込んだものでは無く、継続的に少しずつ取り込んだのだろうが、これもやはり現実的にはいつ取り込んだかを知ることは困難なので、3月の事故直後に一度に取り込んだものとして考える。
報道によると尿を採取したのは5月下旬となっているので、ここでは、3月15日から5月23日まで、摂取後70日間経過したものとして考える。

70日経過後の残留率としては、以下のように与えられる。
吸入:3.25×10^-4
経口:2.94×10^-3


これらにより、体内に取り込んだセシウム137の量が求まり、それに実効線量係数をかけることで実効線量が求まる。

吸入:0.390Bq/(3.25×10^-4)×(1.3×10^-5)=0.0156mSv
経口:0.390Bq/(2.94×10^-3)×(1.0×10^-5)=0.0013mSv
合計:0.0169mSv


次にセシウム134についても、同じように計算する。
こちらは、計算式と結果のみ記す。

吸入:0.339Bq/(3.06×10^-4)×(1.2×10^-5)=0.0132mSv
経口:0.339Bq/(2.77×10^-3)×(1.4×10^-5)=0.0017mSv
合計:0.0149mSv


合せて、0.0318mSv(=31.8マイクロシーベルト)となる。
健康に影響の出るような値じゃ無いし、心配するような値でもない。
これは、最も汚染の大きかった時期を含む、事故後70日間での内部被曝量だが、仮に今後も同じ程度取り込み続けたとしても、年間0.1665mSvに留まる。

セシウム137と134、どちらも今回の最大値が出たとしてもこの値なので、実際の子供の内部被曝量はもっと小さいことになる。
心配するような話では無いだろう。


と言うか、セシウム134や137は、量は確かに少ないが、原発事故が起きる前から身近な食物に含まれていた。
当然、みんな体内に取り込んでいたはずだし、取り込んだ以上は尿から出てもいただろう。
尿にセシウムが含まれていたか/いないかと言えば、事故が起きる前から含まれていただろう。
ただ、健康に影響が出るレベルか/そうで無いかの話しであって、それは今回も変わらない。
【出た】からといって、イコール=危険と言うわけではない。

さらに、核実験の盛んだった1960年代に遡れば、日本でも中学生の尿から一リットル当たり4.5ベクレル、今回の3倍以上のセシウム137が出ている。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010411/03.gif
当然、当時の小学生の尿からも出ていただろう。
当時小学生だった、今の60歳手前の人達に健康被害が増えたという話も聞かない。
心配するような話ではないだろう。


それにしても、「母乳に放射性物質」の話でもそうだったが、数字の評価も行わずに、【出た】ことだけを伝えようとする市民団体とは一体何なのだろうか。
一般の人では、【出た】とだけ伝えられても、その数字の評価ができないだろう。

健康に影響が出る値なのか、心配するほどの値では無いのか、分からないだろうし、分からなければ、心配を募らせる保護者や子供も出てきてしまう。
こういった市民団体は、子供のため保護者のためと言うが、評価も行っていない数字をただ伝えることで、不安を募らせる子供や保護者を生み出すことが、子供を守り保護者を守ることになると、本気で考えているのだろうか。

母乳も尿も、自分達で分析したのではないし、専門機関に分析を依頼したはずで、それならば、出た値にどういった意味があるかも、併せて聞けるはずだし伝えられるはずだ。
そういったところまで行わず、ただ【出た】ということを伝えることが、本当に子供のためになり、保護者の不安を解消することになるのか、私には甚だ疑問に思う。


と言うかね、尿を調べれば出るってことは、別にこの市民団体が気が付いた話じゃ無く、ちょっと勉強した人なら誰だって分かる話。
文科省だって、子供の尿検査を検討しているフシがある。

子供の被曝量を、一人一人なるべく正確に調べようと思ったら、ホールボディカウンタかバイオアッセイになる。
ただ、ホールボディカウンタは元々台数が少ないうえに、今はより現実的に健康への影響が心配される、原発作業者に振向けられている。
原発作業者でさえ、順番待ちのようだ。

なので現実的に、多くの人間を大量に検査しようと思えば、尿検査が有力な手段になる。
そんなことは誰だって気が付いている。

だけど、文科省が心配していそうなのは、結局、今回みたいに【出た】といって騒がれそうなこと。

調べれば出るのは分かりきっている。
目的は、健康に影響の出るレベルがあるかどうかを調べることなのに、【出た】からといって騒ぎ、出たからもう危険だ、もう健康に影響がある、病気になる、君は終わりだ、そうやって周りで騒がれたらどうだろうか。

周りから、危険だ病気になる君の将来終わりだと騒がれれば、問題ない値の子供だって病気になる子供が出るだろう。
そう言われるであろう側の気持ちを考えれば、騒ぎを煽るなんてとても出来ない事だ。

まして、そんな騒ぎの中、要精密検査レベルになる子供でもいたとしたら、その子供の心の負担はどれほどになるだろう。

どうも、文科省には、その辺りを懸念し、実施方法に慎重になっているフシが見受けられるし、このような団体と、それに乗って騒ぐ人間の存在が、そのような懸念を裏付けていると思う。
このような団体のやっていることは、検査をやりにくくしているのではないかと思える。


と、そんな風に思っていたら、この市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」(中手聖一代表)って、山本太郎と一緒に文科省前で騒いだ団体ということで。
まぁ、何と言うべきか・・・