2号機扉の開放による、被曝線量を計算してみた

少し前の話になるが、福島第一原発2号機で、作業環境改善のために、二重扉を開放するという話があった。
この話を受けて、例によって、18億ベクレルだとか、放射能が拡散して被曝して東京も終わるとか、そういう騒ぎも一部で見られたわけだが、実際被曝量はどの程度になるのだろうか。
今回は、それを私なりに考えてみる。

2号機二重扉の開放による被曝量については、すでに東電から、原発敷地内においても最大で1マイクロシーベルト程度と発表されている。

この「原発敷地内でも最大1マイクロシーベルト程度」という数字を見た時点で、周辺環境に影響の及ばない事は明白なのだが、まぁ頭の体操として、避難区域外の20km地点では被曝量がどのくらいになるかを【単純なモデルで】計算してみた。

なお、計算にあたっては、
「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(原子力安全委員会
放射線緊急事態時の評価および対応のための一般的手順」(IAEA
を参考にした。


まずは各種条件設定から。
二重扉開放の各種条件は、原子力安全委員会への提出資料に示されているので、それを参考にし、近い値となるように設定した。
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan044/siryo1.pdf

最初に、開放された扉からの放出率。
資料によると、換気量は毎時8100立方メートル、8時間で18億ベクレル放出となっている。
そこで、1秒あたりでは2.25立方メートル。

2号機建屋内の放射能濃度については、6月13日の値が採用されており、だいたい以下の通り。
ヨウ素131 : 8000 Bq/m3
セシウム134: 11000 Bq/m3
セシウム137: 11000 Bq/m3

これらのことから、二重扉からの放出率を以下の通りとする。
ヨウ素131 : 18000 Bq/s
セシウム134: 24750 Bq/s
セシウム137: 24750 Bq/s

これでだいたい、8時間で18億ベクレル放出という、放出条件に近い数字となる。
(ここでは、放出条件より少し多めにしている。あと、ヨウ素セシウムも、放出条件より少し多くなるように設定している)


建屋から求める地点への風速は、ほとんど拡散しないような値として(つまり観測地点で厳しい値が出るように)、1m/sとされている。

大気安定度も、ほとんど拡散しないような条件として、Fとされている(拡散せずに遠くまで届く)。

放出高は、地上29.9mとなっているので、そのまま用いる。

以上が、原子力安全委員会への提出資料から拾った各種条件。


これらを用いて計算を行うが、風下方向20km先の、地表面の放射能濃度を求める拡散計算式は、以下の通り。

χ(x,y,0)=Q/(π・σy・σz・U)×exp(−y^2/2σy^2)×exp(−H^2/2σz^2)

但し、
Q :放出率(Bq/s)
U :風速(m/s)
H :放出高(m)
σy :y方向の拡がりパラメータ(m)
σz :z方向の拡がりパラメータ(m)

ここで、大気安定度をFとしていることから、σy、σzを以下のように求めた。
σy = 501.3459
σz = 61.4505


以上を元に、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137の20km先地表での濃度を求めると、以下のようになる。

ヨウ素131 : 0.165 Bq/m3
セシウム134: 0.227 Bq/m3
セシウム137: 0.227 Bq/m3

ちなみに、一般住民が暮らす場所での濃度限度は、

ヨウ素131 :  5 Bq/m3
セシウム134: 20 Bq/m3
セシウム137: 30 Bq/m3

となっている。
もうこの時点で、被曝線量は問題にもならない値になる事が予想されるが、計算を続ける。


上で求めた20km先の地表での濃度から、被曝線量を計算する。

本当は、空気カーマから求めた方が厳密なのだろうが、(計算が大変そうなので)簡便な方法で求める。
空気中の濃度に対する実効線量係数は、以下の通り。

ヨウ素131 : 8.1×10^−5 (mSv/h)/(kBq/m3)
セシウム134: 3.4×10^−4 (mSv/h)/(kBq/m3)
セシウム137: 1.3×10^−4 (mSv/h)/(kBq/m3)


これに上で求めた、20km先での地表濃度を乗じると、1時間当たりの実効線量は、

ヨウ素131 : 0.000000013 mSv/h
セシウム134: 0.000000077 mSv/h
セシウム137: 0.000000030 mSv/h
(本当なら丸めるところだが、丸めるとゼロになってしまうので、あえて小さい値まで表示している)

原子力安全委員会への提出資料では、放出時間は8時間となっているが、ここでは(有り得ない事だが)1日24時間、365日放出が続いたとし、(さらに有り得ないことに)その間ずっと外に出ていたとして計算すると、その線量は以下のようになる。

ヨウ素131 : 0.000117219 mSv
セシウム134: 0.000676539 mSv
セシウム137: 0.000258677 mSv

合計 : 0.001052434 mSv

参考までにμSvに換算すると、
合計 : 1.05 μSv


ということで、20km先においても、被曝量としては非常に低い値となる。
この年間1.05μSvという値、被曝量としてはほとんどゼロ言っていい値。
しかも、実際には有り得ない、24時間365日放出が続いたと想定した値だ。

実際の想定のように8時間放出で考えると、もう本当にゼロと変わらなくなってしまう。
0.000000961mSv(=0.000961μSv)


ここまでの計算過程で説明してきたように、この計算は大気安定度Fという、実際にはあまり無い、ほとんど拡散せずに放射性プルームが遠くまで届くような厳しい気象条件を前提に計算されている。
今回の扉開放は夜間に行われているが、夜間であれば陸から海へと陸風が吹くことが多いので、実際には陸地側へ向かう分は少なくなると考えられるし、実際に西よりの風(陸風)が吹いている。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/images/f12u-op-201106200600-j.pdf

また、そもそも今回使った計算式自体が、放出物の大地沈着をゼロとしている。
どういう事かと言うと、仮に放射性物質が飛んでくるとしても、その一部は途中で大地に降下して、そこで沈着するのが普通だ。
この計算式は、一度大地に降下しても、その全てが再び舞い上がり、遠くまで飛ぶという考えで作られている。
つまり、それだけ数字を厳しく見込むように考えられている。

こういったことから、実際の被曝量としては、ここで計算した数字よりももっと少なくなるだろう。

このように、数字を厳しく見込んだとしても、20kmの避難区域外ではほとんどゼロと言っていい数字。

と言うか、このように低い数字になることは、「原発敷地内でも最大1マイクロシーベルト程度」という数字を見た時点で、既に分かっていたこと。
この計算は、実際にどれだけ低いのかを、確認したに過ぎない。

まぁ要は、扉を開放するだとか18億ベクレルだとか、そんなに騒ぐ話じゃ無いと思うけどね。

※後で見返して間違っているところがあれば修正します。