「ヨウ素131が急上昇!再臨界か!?」とかそんな感じの話について

「東京と岩手県奥州市ヨウ素131が急上昇!再臨界か!?」
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110909/dms1109091222007-n1.htm

との話題については、デマだと分かって相手にされていないかと思ったのだが、いまだに尾を引いている部分もあるようなので、余所で自分がまとめたことを書いておく。

東京と奥州市ヨウ素131が急上昇との話で、自分もツイッターはやらないので、つらつらと調べたりしてみたこと。

■確認された事実
奥州市においては、7月14日〜8月12日まで不検出だったが、8月23日に2300Bq/kg、9月2日に590Bq/kg、9月6日に480Bq/kg検出されている。
・東京都においては、ZAKZAK記事によると、8月15日〜16日にかけてヨウ素131濃度上昇と書いてあるが、100Bq/kg台の数値はこれまでにも他処理場で度々出ており、特に急上昇との印象は受けない。
奥州市、東京都とも、ヨウ素131が検出されているのは脱水汚泥。
茨城県宮城県の下水処理施設では、8月中の脱水汚泥のヨウ素131濃度に、特にこれといった急上昇は確認されない。

・8月15日や8月20日の数日前に、岩手や東京で、それらしき定時降下物は確認されていない(定時降下物は全て不検出)。
・8月15日や8月20日の数日前に、岩手や東京で、それらしき空間線量の上昇は確認されていない。
ZAKZAK記事においてヨウ素131が急上昇とされたのと同じ分析で、奥州市・東京都とも、放射性セシウムの濃度には大きな変動が無い。
福島第一原発のモニタリングポストや、空気中の放射能濃度についても、特に目立った変動は無い(不検出レベル)。

■確認された事実を元にした考察
原発からの放出であると考えた場合の不自然さ
原発内で何らかの事象が発生し、ヨウ素131が放出されたとすれば、定時降下物の増加なり空間線量の上昇が確認されるはずだが、それらが見られないのは不自然。
・同じく原発からの放出が原因であったとすれば、岩手や東京に向かう途中の宮城や茨城でも、下水汚泥に似たような傾向が確認されてもいいはずだが、それが見られないのは不自然。
自治体がモニタリングデータを隠蔽してる…ということを考えたにしても、それなら下水汚泥からヨウ素131検出されたと公表されること自体が不自然。

○医療用ヨウ素131からのアプローチ
・医療用にヨウ素131が投与されることがあり、その場合、体内残留量500,000,000Bqで帰宅が認められる。
ヨウ素131の実効半減期は7.27日。体内残留量500,000,000Bqで帰宅した人から、尿や便を通して排出されるヨウ素131は、帰宅後一週間(7日間)で170,000Bq程度と見積もられる。
・このように排出された医療用ヨウ素131が、処理場で検出された可能性。

○総放出量やモニタリング結果からのアプローチ
・現在見積もられている、福島第一原発からのヨウ素131の総放出量は、130,000,000,000,000,000Bq。
・3月中に観測された、岩手県盛岡市における定時降下物のヨウ素131は、8000MBq/km2程度。
・これが奥州市にも同等程度降下したと考えると、奥州市の面積は993.35km2だから、市内全域で7,946,800,000,000Bq程度。ヨウ素131の総放出量の16000分の1程度。ただ、奥州市盛岡市より福島第一原発に近いため、実際にはもう少し多く降下していたかもしれない。
奥州市に降下したと仮定した7,946,800,000,000Bqの、8月までの5ヶ月間(150日)での物理的半減期による減衰を考えると、150日後のヨウ素131は、20,000,000Bq程度。ただし、川面に降下した分や、地表に降下した後に川に流れ込んだりした分についてはもっと早く減っていると考えられるので、減少の程度はもう少し大きいと思われる。
奥州市付近には8月20日前後に前線が停滞しており、18日には大雨警報や土砂災害警戒情報が出されるような状況だった。
・この雨で流れたヨウ素131を含んだ土壌混じりの水が、マンホールの隙間などから下水道に流れ込み、処理場で検出された可能性。

■まとめ
原発からの放出であったとすれば、定時降下物・空間線量・他の汚泥といった、他のモニタリング結果に数字が現れないのは不自然。よってこの可能性は低い。
・医療用ヨウ素131の可能性、市内全域に降下した、未だ残っていたヨウ素131が流れ込んだ可能性、どちらも考えられるとは思う。
・しかし、降下したヨウ素131が流れ込んだ可能性については、大雨・土砂災害の状況、下水道の状況等がよく分からないので、可能性はあると思うものの、今の時点ではあまり踏み込んだことは言いづらい。
・それに、下水道に土壌が流れ込んだことによるとした場合、同時にセシウムも上昇していいはずだから、これが見られないのも弱い部分。
・そんなわけで、現在のところは自分としても、医療用ヨウ素131に分がある、と思う。

■ちなみに、再臨界の可能性について
・もし再臨界していたのであれば、ヨウ素131だけでなく、放射性の希ガス放射性セシウムなども同時に出るはずなので、放射線量がまず上がるはずだし、モニタリングでヨウ素131のみの増加が確認されるのも不自然。
・なので再臨界というのはかなりありえ無く、もし可能性的に有り得るとすれば、崩壊熱によって局所的に200℃程度になった場所があって、セシウムなどは気体にならないが、ヨウ素131だけ気体になったような、そういう限られた状況下。
・ただこの可能性を考えるにしても、もうここしばらく200℃を超えるようなことは起きていないし、仮にヨウ素131だけが気体になって飛んだとすれば、やはり放射線量が上がっていいはずだし、それに東京や奥州市に向かう途中の、茨城や宮城の下水汚泥でも同じような状況が確認されてもいいはずなので、やはりその可能性は低い。

・また、モニタリング結果とは別に、原発の中の状況から再臨界の可能性を考えたとしても、核燃料が溶けたときには、臨界反応を止める制御棒も一緒に溶け落ちて、溶けた燃料と混在していると考えられるし、その後も再臨界の可能性を抑えるためにホウ酸注入が行われているので、そもそも再臨界が起こる可能性自体が低い。

原発とか放射性物質の話については、本当に、デマと言うか扇動と言うか、不安を煽るのが目的かのような話が、本当に多いねぇ。
これまでにも結構目にしてきたけど、とてもじゃ無いけど書ききれないから、全てに対して反論なんて書いてないけど。
(全部に対して書いてたら日が暮れちゃうよ)

挙げ句の果てに、そういう話が出るのは政府の発表に問題があるからだとか、無茶苦茶な責任転嫁を始めるような声も出る始末だし。
(政府がどう発表しようが、どうせ不安を煽って注目集めるのが目的なんだろ)
泥棒が、警察がしっかりしないからおれが泥棒したんだとか、うそぶく様なもんだ。

そういう、注目を集めよう・記事を売ろうという人間の下心のせいで、必要の無い不安に陥る人が出たり、社会的な混乱という壮大なリソースの無駄使いが行われるわけなんだが。

困ったもんだ。