福島でプルトニウム検出の話について

原発敷地外で微量プルトニウム…福島・双葉など (読売新聞 - 09月30日)
 文部科学省は30日、東京電力福島第一原子力発電所事故で周辺地域に拡散したとみられる放射性物質プルトニウムストロンチウムの土壌汚染状況をまとめた地図を公表した。
 プルトニウムは、福島県双葉町浪江町飯舘村の計6か所の土壌から検出され、国の調査では初めて原発敷地外から見つかった。同省は、「プルトニウムストロンチウムによる被曝(ひばく)線量は非常に小さいため、除染対策はセシウムに着目していくのが適切」と話している。
 調査は今年6〜7月、原発周辺の100か所の土壌を採取して行われた。東西冷戦時代の大気圏内核実験で日本に降下した放射性物質を同省が事故前10年間に測定した値と比較した。
 プルトニウムが見つかった6か所はいずれも警戒区域計画的避難区域だった。原発事故で放出されたプルトニウム238の最大値は、浪江町の1平方メートル当たり4ベクレル。これは過去の測定の最大値8ベクレルの半分だった。同省の試算によると、今後50年間の被曝線量は0・027ミリ・シーベルトだった。他の5か所は0・55〜2・3ベクレルで、最も遠い検出地点は、原発から約45キロの飯舘村だった。
 一方、原発由来のストロンチウム89、90は45か所で検出された。このうち半減期の長いストロンチウム90の最大値は双葉町の同5700ベクレル。過去の最大値(950ベクレル)の6倍に相当する。50年間の被曝線量の試算は0・12ミリ・シーベルトだった。ほかに、950ベクレルを超えたのは7か所あった。

ええと、今回の話、大元はこれ。

文部科学省による、プルトニウムストロンチウムの核種分析の結果について
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_0930.pdf

どうも記事を読むだけだとよく分からない。
と言うか、記事だと一般向けだから仕方ないのかもしれないが、色々と情報が削ぎ落とされているので、自分的に知りたい情報までは載っていない。
(今は記事が読売に差替えられて改善されたが、最初の毎日の記事なんて酷かった)

そんなわけで、こういう話は出来る限りソース元にあたるのが、より良く理解するための近道なので、この文科省の発表に従って、なるべくかいつまむ形で、今回の件を説明していく。


・まず、この調査の全体像だが、これは福島第一原発から半径80km圏内の、100箇所の地点での分析結果【重要】
・100箇所の地点のうち6箇所で、原発由来と思われるプルトニウム検出された【重要】
・つまり、6箇所測って6箇所とも原発由来が検出された、というわけではない【重要】

原発由来のプルトニウムと考えられる6箇所は、原発から北西方向の、放射線レベルの比較的高いエリアに限られていた(事故初期の高濃度プルームが雨によって沈着したと推定されているエリア)
・6箇所以外の、その他の地点でもプルトニウムの検出自体はされているが、これらは原発由来とは考えにくい。

原発由来かどうかを区別する方法は、プルトニウム238とプルトニウム239+240の比率(Pu238/Pu239+Pu240)による。
・これについて説明すると、まずは半減期87.7年のプルトニウム238の検出が一つの着目点にはなるが、プルトニウム238自体は過去にも8Bq/m2程度は検出されているので、4Bq/m2程度の検出だけでは原発由来とは判断できない。
・一方、これまでの国内のプルトニウム分析結果によると、プルトニウム238とプルトニウム239+240の比率は0.026程度となっている。
・今回原発由来と判断された6箇所については、その比率が0.33〜2.2程度と、これまでの0.026よりも高い値となっている。
・このことから、今回プルトニウム238が検出された6箇所については、原発由来の新たな飛散があったと判断された。

・ちなみに、プルトニウムの検出自体は特に珍しいことではなく、原発事故が起きる前からも検出されている。
プルトニウム238は最大8Bq/m2程度、プルトニウム239+240は最大220Bq/m2程度は検出されている。
・ちなみに、これは平方メートル単位なので、ざっくりとキログラム単位に直すと、プルトニウム238は最大0.12Bq/kg、プルトニウム239+240は最大3.38Bq/kg程度となる。

・そんなわけで、この程度なら、日本国中どこを測っても、検出されても不思議ではない。それこそ、京都でも愛知でも福岡でも【重要】
・日本国中どこを測っても、有るか/無いかと言えば、別にあって不思議じゃない【重要】
・ただ、プルトニウム238とプルトニウム239+240の比率。これが原発由来かどうかを判断するポイントですよ、ということ【重要】

・ちなみに、原発事故が起きる前から、そんな感じで日本国中どこにあっても不思議じゃ無い状況なので、人体にも既に微量(0.037Bq〜0.074Bq)ながらプルトニウムは含まれている。
・そんなわけで、プルトニウムが有ったか無かったかと言っても実は始まらないので、それがどの程度問題であるかは、その量の程度(例えば放射線量)を考える必要がある【重要】
・で、今回検出された最大値を使って、そこに50年間いた場合の50年分の被曝量を計算すると、外部被曝と吸入による内部被曝の合計で、プルトニウム238が0.027mSv、プルトニウム239+240が0.12mSvとなる。
・これらのプルトニウムからの被曝量は、セシウム134やセシウム137からの被曝量に比べれば、比べ物にならないほど非常に小さいので、被曝の程度とか除染とかを考えて行くには、セシウムを中心に考えていくことが必要である【重要】


と、今回の発表のポイントと、そこから読み取れる内容については、大体こんなところでいいんじゃないかと思う。

ええと、「プルトニウム!」「それが原発敷地外で検出された!」と聞くと、センセーショナルにも聞こえるし、ヒステリックにもなってしまいがちで、内容をキチンと理解できなければ、不安ばかりが募ってしまうことにもなりがちだろう。

でもまぁ、プルトニウムが検出されたと言っても、プルトニウムがその辺に存在すること自体は珍しい話では無いので、結局のところは、それがどの程度の量であったのか、というところがやはり重要になる。
「有ったか/無かったか」ではなくて。

で、まぁ検出されたとは言ってもこの程度の量であれば、そんなに心配するほどでも無いかなと思う。

今回検出されたプルトニウムの量で、「福島にはもう住めない!」と言っちゃうとしたら、原発事故が起きる前から、京都でも愛知でも福岡でも、日本のどこにも住める場所は無かったことになるからねぇ【重要】


ええとそれから、「この程度の量」という話が出たついでに、チェルノブイリとの比較なんかも、少しやっておこうかと思う。

今回の福島第一原発からのプルトニウム放出、現在までの推定によると、こんな感じになっている。

プルトニウム238: 19,000,000,000Bq(190億ベクレル)
プルトニウム239+240: 6,400,000,000Bq(64億ベクレル)

一方、チェルノブイリはどうだったかと言うと、プルトニウムの推定放出量はこんな感じ。

プルトニウム238: 35,000,000,000,000Bq(35兆ベクレル)
プルトニウム239+240: 75,900,000,000,000Bq(75兆9000億ベクレル)

プルトニウム238で福島の1800倍、プルトニウム239+240で福島の12000倍出ていたりする。

それで、1平方メートルあたりの沈着で考えても、日本の最大値としては、プルトニウム238で8Bq/m2、プルトニウム239+240で220Bq/m2となっている。
合算しても230Bq/m2に満たない。
この最大値は原発事故前の値だけど、これまでのところこれを超える値も確認されていない。

一方、チェルノブイリはどうだったかと言うと、3700Bq/m2とか1850Bq/m2とかのレベルが、移住対象ゾーンとされている。
移住権利ゾーンでも370Bq/m2から。

プルトニウムで3700Bqとか1850Bqとか、そういう値は、福島ではちょっとありそうも無い。
そもそも、原発からの放出量自体が、1800倍とか12000倍とか、桁がぜんぜん違う世界なので、周辺への沈着もこういう結果になるんだろうけど。

この辺が、格納容器が無くて原子炉の蓋が吹き飛んでしまったチェルノブイリと、格納容器があってそこまでには至らなかった福島との、大きな違いなのかと思う。

まぁそもそも、プルトニウム自体が重いから遠くまでには飛びにくく、チェルノブイリのように原子炉の蓋が吹き飛んだような場合でも、一部は最大数十キロまで飛んでも、大部分は敷地内に落下しており、敷地外に放出された量は僅か1.5%程度とされているから、放出量が多く見えたとしても、周辺環境への影響はそれほど大きくならないのだろうと思う。

蓋が吹き飛んだチェルノブイリで1.5%なら、吹き飛んだりはしなかった福島ではさらに低いだろうし。
東電敷地内のプルトニウム濃度も、原発由来は確認されているものの、その量自体は過去のフォールアウトと大差無いという結果も、この辺に理由があるのかもしれないなと。


あと余談だけど、今回の発表について、「文科省は発表遅すぎ!」という批判もあるようだけど、最初の方にも書いたとおり、この調査は100箇所の地点を調査したものだからねぇ。
それに、プルトニウムの分析だけでなく、併せてストロンチウムの分析もしているし。

プルトニウムストロンチウムの分析は、前処理などに凄く時間と手間がかかるので、結果が出るまでにそれぞれ数週間程度かかる。
最後のサンプル採取が終わったのが7月8日なので、分析して、結果が出揃って、その数字に間違いが無いか確認して、専門家の検討会にかけて最終的なチェックをしてもらう。
そういうスケジュール的なものを考えれば、時間がかかるのも仕方がないとは思うけど。

6箇所のプルトニウムだけ測って6箇所の分析結果をそのままポンと公表すえばいいだろとか、そういう調査じゃ無いんだから。
どうも、「遅すぎ!」と批判してる声は、そういう調査だったように誤解している気がするなぁ。


まぁ、色々と書いたけど、今回のプルトニウム検出の話は、とりあえずこんなところだろうか。
他に後で何か思い出したことがあれば書き足すかもしれないけど。
まぁ、ともあれ、こんなところで。

調査結果にはストロンチウムの結果も出ててるので、出来ればそちらにも触れたいところだけど、ちょっとプルトニウムの分が長くなってしまったので、とりあえず今回はここまでで。
時間(とやる気)があったら、後でストロンチウムも書こうかなと。


プルトニウムって、元からみんなの体に含まれてるよ
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20110328/1301337221