SPEEDIを公開していれば被曝は避けられたのだろうか
SPEEDIを巡っては、『始めから公開していれば住民の被曝は避けられた』という言葉をしばしば目にする。
一般の人だけでなく、政府の事故調査・検証委員会でもそのような意見を述べている。
そこで、当時実際に計算されていたSPEEDI図を確認しながら、被曝を避けられたのかどうか考えてみようと思う。
話に入る前に、SPEEDIとはどんなものか簡単に確認しておきたい。
SPEEDIとは、正式名称を『緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム』と言うことから分かるように、一言で言ってしまえば放射能の拡散を予測するシステムである。
そのシステムだが、ここでは詳細を述べることが目的では無いのでごく大雑把に言うと、まず第一に発災事業所(今回は福島原発)から、どれくらいの放射能が、何時くらいに放出されるか、そのような情報が送られてくる。これを『放出源情報』と言う。
放出源情報が得られることにより、放出される放射能の量・時間が分かる。
その次に、その時の気象状況・地形などのデータを総合して、放出された放射能がどのように拡散するかを予想し、そこからの放射線量を計算する。
つまり、放出源情報と、気象・地形等の情報。
これらの情報を組み合わせることによって、放射能の拡散を予測する。
これが、ごく大雑把に言ったSPEEDIの仕組みとなっている。
今回は、地震等によって、原発側のシステムや通信回線にトラブルが生じ、地震当初から既に放出源情報が得られなくなっていた。
どれくらいの放射能が何時出てくるかという、第一の情報が既に地震当日の3月11日から得られなくなっていた。
この時点で、SPEEDIはその期待される予測性能を発揮することが既に困難になっていた。
この点について、事故調査・検証委員会の中間報告でも以下のように述べている。
○事故調査・検証委員会の中間報告(257ページ)
2 SPEEDI 情報の活用及び公表に関する状況
(1)SPEEDI システムの概要等
今回の事故対応においては、SPEEDI 計算の前提となるERSS からの放出源情報が得られなかった。(略)放出源情報を基にしたSPEEDIによる放射性物質の拡散予測はできなかった。その結果、避難訓練において行われていたように、SPEEDI により各地域の放射性物質の大気中濃度や被ばく線量等を予測した上で、それを避難区域の設定に活用することはできない状態となった。
http://icanps.go.jp/111226Honbun5Shou.pdf#page=11
今回の事故においては、既に事故当日から、放射能の拡散をより正確に予測するための第一の情報、放出源情報が得られなくなっていた。
それを受けて、防災機関側はどのような行動を取ったか。
放出源情報を基にした拡散予測は不可能となったので、仮に1時間に1ベクレルずつ放出したらどのように拡がるかという仮定の計算、『単位量放出』による計算を1時間ごとに行うことにした(3月11日の16時以降から)。(注)
○事故調査・検証委員会の中間報告(258ページ)
(2)3 月15 日以前のSPEEDI の活用・公表の状況
a 単位量放出を仮定した定時計算結果の活用・公表
これを受け、同センターは、(略)福島第一原発から1Bq/h の放射性物質の放出があったと仮定し(単位量放出)、同日16 時以降の気象データ等を用いて1 時間毎の放射性物質の拡散予測を行う計算(定時計算)を開始した。なお、これらの計算結果は、実際の放出量に基づく予測ではなく、気象条件、地形データ等を基に、放射性物資の拡散方向や相対的分布量を予測するにすぎないものであった。
http://icanps.go.jp/111226Honbun5Shou.pdf#page=12
放出源情報を断たれた時点で、SPEEDIに本来期待された拡散予測は困難になり、1時間に1ベクレルという単位量放出による計算となった。
“仮にこの時間に原発から出たものがあるとすればこのように拡がるだろう”という参考程度の情報になってしまい、言ってみれば、その時の気象と地形の影響を見るだけのものになった。
それは実際に出たであろう放射能の行方を追えるものでは無く、実際の放射線量を示すものでは無くなった。
ここまでは事故調査・検証委員会も認めるところだが、しかし同委員会は次の部分でこのように言う。
○事故調査・検証委員会の中間報告(259ページ)
しかし、定時計算の結果は、前記のとおり、放射性物質の拡散方向や相対的分布量を予測するものであることから、少なくとも、避難の方向を判断するためには有用なものであった
http://icanps.go.jp/111226Honbun5Shou.pdf#page=13
『避難の方向を判断するためには有用なものであった』と述べる。
そこで、放出源情報を断たれたSPEEDI図でも避難の方向判断には有用であったのか。
この点について考えてみる。
ここで、SPEEDI図を確認して行きたい。
原発事故のSPEEDI図と言うと、この図がよく例に挙げられる。
http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/0312-0324_in.pdf
この図を見て、
「北西方面に汚染が伸びていたのはSPEEDI図から明らかだったのに、政府が発表しなかったために被曝が拡大した」
との批判がよくされるわけだが、原子力安全委員会がプレス発表した時のこの説明にあるとおり、
○緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算について
平成23年3月23日 原子力安全委員会原子力安全委員会では、3月16日より、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による試算のために、試算に必要となる放出源情報の推定に向けた検討をしてまいりました。3月20日から陸向きの風向となったため、大気中の放射性核種の濃度が測定でき、限定的ながら放出源情報を推定できたことから、本システムの試算を行うことが可能となりました。
http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf
このよく見かけるSPEEDI図は、3月20日以降に集められたモニタリング結果を用い、SPEEDIの計算機能を逆算に利用することで得られた図である。
つまり、事前に予測されていた図ではなく、事後に逆算された検証用の図面ということになる。
よく言われるような「始めから分かっていた図」では無く、モニタリング結果から逆算することで「後になってから分かった図」であり、その意味するところは大きく違うので、この図を見るときは注意したい。
さてそれでは、事故が拡大している中での、実際のSPEEDI図はどのようなものであったのだろうか。
事故の中で放射性物質が多く放出されたと考えられる出来事としては1・2・3号機の爆発などがあるので、ここではSPEEDIの代表的な例として、その爆発などの後に行われている定時計算(単位量放出)を見てみたい。
【2011年3月12日15:36 1号機で水素爆発】
同日16:00のSPEEDI図(抜粋)
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110312rok/201103121600.pdf
南相馬市を中心とする北北西方向へと向かっている。
【2011年3月14日11:01 3号機で爆発】
同日12:00のSPEEDI図(抜粋)
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110314rok/201103141200.pdf
海側へと向かっている。
【2011年3月15日06:10 2号機で異音発生、圧力抑制室の圧力低下】
同日7:00のSPEEDI図
南のいわき市方面へと向かっている。
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110315rok/201103150700.pdf
【2011年3月15日08:25 2号機で白煙確認】
同日9:00のSPEEDI図
南南西、いわき市方面へと向かっている。
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110315rok/201103150900.pdf
【2011年3月15日10:22 3号機周辺で400mSv/hの高線量】
同日11:00のSPEEDI図
南南西、いわき市方面へと向かっている。
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110315rok/201103151100.pdf
このように、3月12日の1号機爆発後のSPEEDIは南相馬市を中心とする北方へと向かっており、3月14日の3号機爆発後のSPEEDIは海側へ、3月15日の2号機で異常があった後のSPEEDIは南方のいわき市方面へと向かっている。
これらのSPEEDIが全て逐一公表されていたらどうだったろうか。
3月12日の1号機爆発後にSPEEDIを見た人は、北側の南相馬方面へ走る図を見て、南側のいわき方面へと逃げたかもしれない。
3月14日の3号機爆発後にSPEEDIを見た人は、海側へ拡散する図を見て、急いで避難する必要は無いと思ったかもしれない。
一方で、3月15日の2号機異常後にSPEEDIを見た人は、南側のいわき方面へと走る図を見て、むしろ北西の飯舘村方面へと逃げたかもしれない。
事故が起きた3月11日以降、風向きは数時間ごとに様々に変化していた。
もちろんこれら以外にもSPEEDI図はあり、3月11日から3月15日の間だけでも、風向きは全方向に出現している。
SPEEDIでは1時間ごとに定時計算が行われていたが、放射能の伸びる方向は、風向きにあわせて東西南北、全方向に確認できる。
既に書いたことだが、これら単位放出量による定時計算は“仮にこの時間に原発から出たものがあるとすればこのように拡がるだろう”という参考としての情報であり、既に出た後の放射能の行方を追えるものでも、実際の放射線量を示すものでも無かった。
それらを全て公開して、果たして適切な判断に繋がっただろうか。
浪江町の避難の例では、避難する住民の車で渋滞が発生し、通常20分で行ける所が4時間かかったという。
数時間ごとに変化する風向きと、それに合わせて汚染方向の変わるSPEEDIの図面。
さらに、SPEEDI計算自体は文科省や保安院がそれぞれの考えに基づいてそれぞれの条件で計算していたので、時間が経つにつれ図面がどんどん増えていき、最終的には全部で数千枚にも上る。
それらを全て公表することで、的確な判断が出来ただろうか。適切な避難に繋がっただろうか。
変化する風向きに合わせて右往左往したり、ある時点のSPEEDI図を見た「○○方面が安全」という解釈が一人歩きしたり、あるいは様々な時点のそのような解釈が入り乱れたり、それに伴う道路事情の混乱など、避難環境に相当の混乱が発生した可能性は考慮する必要が無いほど小さいだろうか。
もちろん避難となれば健康な人だけが避難するわけではなく、病人や老人も避難する。
実際の避難でも体調を崩した人がいたように、避難が混乱すれば、それだけ避難中に健康を崩す人も増えるだろう。
果たして、SPEEDIを全て公開するべきであっただろうか。
中には、
「ネット上では始めから北西方面が危ないと言い当てている人もいた。SPEEDIを公開していればそのような見解が増え、適切な避難が行えた。」
と主張する人もいるが、全ての人が移動中にネットを使えるわけでは無いし、仮にネットを使えたとしてもそのような意見に行き当たるとも限らない。
ネット上には違う見解を示す人もいるし、古い情報を基にした見解を見つけてしまうことも考えると、このような主張はあまりにも楽観的過ぎるように思う。
SPEEDI図の中には北西方面へ伸びるものはもちろんあるし、北西が危ないという声もあったろう。
しかし一方ではSPEEDIが放出源情報を欠いた、単位放出量による参考情報に過ぎない以上は、南相馬やいわき方面へ伸びるものもあるし、北や南が危ないという見解も成り立ち得る。
北西方面が高いというのは可能性の一つであり、北や南が高いという可能性も充分存在した。
実際にどこが高かったのか。それが確度を持って言えるようになるのは、3月23日の原子力安全委員会からのプレス発表にあるとおり、モニタリング結果がある程度集まってきてからだった。
後になって、モニタリング結果などの情報が揃ってきてから、「やはりここが高かった」と言うことは簡単だ。
東西南北、全てに伸びるSPEEDI図面の中から、北西方向に伸びる図面のみを拾ってきて、「北西方向が高いのは最初から分かっていた」と言うことは簡単だ。
だが、東西南北全ての解釈が成り立ち得るSPEEDI図を、その図面を見るのも初めてのような人に何百枚何千枚と公開することで、果たして適切な結果が得られただろうか。
全てを公開すれば皆が皆、北西方面を避けたのだろうか。
南へ伸びるSPEEDI図を見て北西方向へ逃げる人がいた可能性は無視できたのだろうか。
SPEEDIが公開されていれば被曝を避け得た具体例として、事故調査・検証委員会の中間報告では、例えば浪江町の例としてこう述べる。
○事故調査・検証委員会の中間報告(263ページ)
c 浪江町における避難状況
浪江町は、3月12日5 時44 分の福島第一原発から半径10km 圏内の避難指示を受け、(略)福島第一原発から10〜20km 圏内に位置する立野、室原及び末森の3 地区並びに前記の津島地区への避難誘導を行った。同日18 時25 分、福島第一原発から半径20km 圏内の避難指示が出たため、20km 圏内の住民(略)の避難誘導を行った。その後の福島第一原発をめぐる情勢を受け、3 月15 日朝方、町長の決断で二本松市(東和地区)へ避難することが決まり、住民に伝達した上で避難を実施した。この避難経路は、結果的には、放射性物質が飛散した方向と重なることとなったが、SPEEDI 計算結果の公表がなかったこと等から、多くの浪江町民はそれを知らないまま避難した。
http://icanps.go.jp/111226Honbun5Shou.pdf#page=17
浪江町の動きとしては、事故後にまず原発から北西約30kmにある同町津島地区に住民を避難させ、3月15日04:30に町長独自の判断で再避難を決定、二本松市へ受け入れ要請、同日10:00に二本松市(東和地区)への避難を決定というものだった。
事故調査・検証委員会では、この二本松市(東和地区)への避難経路が、SPEEDIが公表されていなかったことで放射性物質が飛散した方向と重なってしまったと問題視する。
では3月15日10:00のSPEEDIはどうだったか。
これが3月15日10:00のSPEEDI(抜粋)だが、汚染方向としては原発から南南西の方向(いわき市方面)へと伸びている。
http://www.bousai.ne.jp/speedi/20110315rok/201103151000.pdf
もし仮にSPEEDIが全て公開されていて、二本松市(東和地区)への避難に際しこのSPEEDIを見ていたとしたら、津島地区から北西や西へ延びる国道を使って避難することは、SPEEDIからはむしろ適切であったとも考えられてしまう。
SPEEDI公表を巡る批判の多くは、原子力安全委員会が3月23日に公表したこの図
を元になされているが、既に書いたように、この図は実測値の収集とSPEEDIの逆算によって作ることの出来た図であって、事前に予測されていた図では無い。
図面にはSPEEDIと書いてあっても、これは予測図では無く、言ってみれば“SPEEDIの計算機能を利用して得られた検証図”であるので、そこのところを誤解してはならないだろう。
事故調査・検証委員会は、まとめの部分で対策の問題点と今後の課題として以下のように述べる。
○事故調査・検証委員会の中間報告(480ページ)
(3)SPEEDI 活用上の問題点
a 避難指示との関係における問題点
しかし、放出源情報が得られない状態でも、SPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果を得ることは可能であり、現に得ていたのであるから、仮に単位量放出予測の情報が提供されていれば、各地方自治体及び住民は、道路事情に精通した地元ならではの判断で、より適切な避難経路や避難方向を選ぶことができたであろう。
http://icanps.go.jp/111226Honbun7Shou.pdf#page=16
既に書いたことの繰り返しになるが、放出源情報が断たれたことで、単位放出量による定時計算となった。
この計算は“仮にこの時間に原発から出たものがあるとすればこのように拡がるだろう”という参考としての情報であり、既に出た後の放射能の行方を追えるものでも、実際の放射線量を示すものでも無かった。
事故後、文科省・保安院・原子力安全委員会、それぞれがそれぞれの検討のためにSPEEDI計算を走らせていたので、SPEEDIの図面としては何百枚何千枚にも上る。
それらSPEEDI図を全て公開することで、果たして混乱は起こらなかっただろうか。
実際の放射線量を示さない図面を全て公表することで、果たして被曝は避け得たであろうか。
原子力防災で避けたいことの一つは、避難経路の途中で放射性プルーム(放射性雲)に遭遇してしまうことだ。
放射性プルームには放射性ヨウ素や放射性セシウムが多く含まれているので、避難途中でその中に入ってしまうと、内部・外部共に大量の被曝をしてしまう恐れがある。
(例えば、原子力安全委員会3月23日のSPEEDI図に100mSvなどといった線が現れているのは、1歳児が24時間屋外にいたとする仮定を置いているため。当然、実際にはこのような被曝はしていないが)
避難途中で放射性プルームに長時間入ってしまうくらいなら、まだ家の中に入っていた方がいい。
家の中に入ってできるだけ放射性プルームをやり過ごして、それから避難した方が、被曝を少なくするという意味ではまだいい。
膨大な数にのぼり、汚染方向が数時間ごと変化するSPEEDI図。
それらを全て公開することで、果たして効果的な避難に結びついたのか。
避難を混乱させることは無かったか。
普段は20分の場所に4時間かかることが起きる状況下で、避難を右往左往させ、放射性プルームの中で行ったり来たりさせてしまう危険性は無視できるものだったか。
もし仮に私がその場にいたとして。
私にそのような確信が持てたかは、疑問だと感じる。
○事故調査・検証委員会の中間報告(481ページ)
c 今後の課題
被害住民の命、尊厳を守る視点を重視して、被害拡大を防止し、国民の納得できる有効な放射線情報を迅速に提供できるよう、SPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要がある。
http://icanps.go.jp/111226Honbun7Shou.pdf#page=17
『住民の命、尊厳を守る』のだとして。
参考情報でしか無く、既に出た後の放射能の行方を追えるものでも、実際の放射線量を示すものでも無い膨大な数の図面を全て公表することが、『住民の命、尊厳を守る』ことになるのだろうか。
そのような図面を逐一公表することが、防災機関としての『住民の命、尊厳を守る』責任を果たすことになるのだろうか。
私としては、まだその考えを肯定できるまでには至らない。
システムを運用している人間は、そのシステムの仕組みを理解しているから、逆に言えばそのシステムの限界も理解している。
どの部分にトラブルが生じればどのような影響を受けるか、そのシステムの信頼度がどの程度になるかも理解している。
一方で、システムに接していない人は、「予測するシステム」と聞いただけで、その能力を全面的に信頼してしまっているように思える。
システムに重大な障害が起き、本来の能力が発揮できなくなっているのに、「予測するシステムだから」というだけで、その能力を盲目的にすら信じ込んでしまっているように思える。
放出源情報を欠いたSPEEDIの予測をどこまで信頼できるか。
その予測にどこまで国民の生命を預けていいと思えるか。
一連のSPEEDI公表を巡る意見の違いは、トラブルの起きたシステムをどこまで信頼していいかという、システムへの理解の深さの違いに起因しているように思える。
【追記1】大切なこと
リンクを開いてもらえれば分かりますが、ここに紹介したSPEEDI図には、
『この予測は実際の放射線量分布を表しているものではありません。』
旨の注意書きがなされています。
私がPDFファイルを画像ファイルに変換する際に、どういうわけだか消えてしまうので、ここに貼り付けた画像にはその文言が抜けてしまっていますが、実際にはそのような文言が書いてあります。
これは、放出源情報が断たれた以上、実際の放射線量を示すとは到底言えない図面になったので、当然の注意書きではあるのですが、PDFから画像への変換の過程で、そのような大事な注意書きが抜けてしまっていることは付言しておきます。
なのでもう少し言えば、これらの図を見るときの考え方としては、これらの図を適切な避難に活用できるかどうかの問題では無く、『実際の放射線量を示してはいない図面を見て、避難の方向決定を適切に行えるかどうか』の問題だと思ってください。
【追記2】
ここに紹介した3月12日16:00の、北北西の南相馬市方面へ向かうSPEEDI図を見て、『この図があれば北西飯舘村方向での線量は想定できた』と主張する向きもあるかもしれませんが、事後に明らかになった北西方向での線量というのは、3月15日以後に通過したプルームが、降雨によって地面に沈着したことによるものです。
3月12日16:00のSPEEDI図からそこまでを予測することは困難です。
従って、それはSPEEDI図を見て予測できる問題ではなく、事後的な結果論と言った方がいい種類のものだと思います。
(注)毎正時に行われた定時の単位放出量計算以外にも、それぞれの事象の後に行われたSPEEDI計算もありますが、放出源情報が断たれているのは同じなので、結局は放出される時間の風向等を追いかける単位放出量計算と大差無いので、ここでは最も計算量の多い(つまり情報量の豊富な)単位放出量計算をメインに話を進めます。