廃炉が明言されても、やるべきことは何も変わらないんだけどな
ニュースを眺めると、
「遅い!」
「まだ使う気だったのか!」
という批判で溢れてるけど、廃炉なんて、海水入れた時点で事実上の決定事項でしょ。
廃炉という腹は既に決まっていて、今回のは、
「責任ある立場の人が、それを外部に向かって明言した」
というだけに過ぎない。
「廃炉の決断が遅い!」
とか
「この期に及んで、まだ使う気だったのか!」
とか、そういう批判の対象になる話じゃあ無いと思うんだけどね。
廃炉が明言されたことで、何か別の対策を打てるようになったと考えている人もいるけれど、そういうもんでもないよ。
何か別の画期的な対策があるのに、東電が廃炉を嫌がっていたから、その対策が打てなかった、というもんでもないんだよね。
と言うのは、原子炉の使用継続を目指そうが、廃炉を目指そうが、今現在行っている、「冷却機能の回復」という作業は、例えどっちであっても、共通して必要な作業だから。
使用継続と廃炉で違いがあるとすれば、冷却を、あくまで真水で行うか、海水も入れてしまうか、その違いでしかない。
そして、海水注入という後者を選択している以上は、もうずっと前に、廃炉が事実上、決定されていたんだよ。
だから、今やっている冷却機能の回復は、使用継続を目指してのものでは無い。
あくまで、「より安全な廃炉」を目指すためのものだ。
「より安全な廃炉」を目指すとは、どういうことか。
まず、冷却機能を回復させて、炉とプールの中の使用済燃料を、外に出せるレベルまで冷やす。
搬出した使用済燃料は、再処理工場に持って行って、そっちで処理・処分する。
そうすると、燃料が取り出された原発の施設が残る。
あとは、付着した放射性物質を除去しながら、解体作業を進め、最終的に更地に近づける。
既にやってきた、東海発電所の解体の応用編だ。
周辺の避難区域は、環境モニタリングの数値を見ながら、安全が確認できた範囲で、徐々に避難範囲を縮小していく。
これが、今目指していると思われる、「より安全な廃炉」に向けた流れ。
「より安全な廃炉」に持って行く為には、使用済燃料をコントロール下に置く必要があるし、そのためには、まず、冷却機能の回復が必要ということだ。
そして次に、「より安全」ではなく、「できれば避けたい廃炉」。
もし、今行っている、冷却機能の回復が上手く行かないとどうなるか。
外部からの送水で何とか冷却する。
どれくらい可能性があるか分からないが、さらに悪いことが起きて、外部からの送水が出来なくなる。
さらに、どれくらい可能性があるか分からないが、もう一段悪いことが起きて、冷却機能を維持するための、何らの手立ても無くなる。
するとどうなるか。
使用済燃料が溶けるのを、抑えられなくなる。
そうすると、使用済燃料が容器を溶かして原発建屋内に流出し、放射性物質が広がってしまう。
こうなると、もう安全な燃料の搬出や建物の解体は難しくなるから、いきなりコンクリでやるのかどうかは別として、何らかの構造物で原発を覆ってしまう。
いわゆる、「石棺」というやつだ。
この石棺で、ひとまず周辺への汚染を封じ込めることが出来るが、地下の土壌を通じた汚染の心配は残る。
まぁ、もしそうなったら、周辺に穴を穿つなりして、多分何らかの対処は取るだろうけど。
しかし、石棺でそれ以上に厄介なのは、石棺を相当長い期間、人の一生じゃ収まらない期間、建屋は問題ないか、放射性物質は漏れ出ていないかと、管理し続けなければならないということだ。
環境モニタリングの数値を見ながら、避難範囲を徐々に縮小させるのは同じとしても、多分、石棺によって周辺環境への影響は最小限に抑えられたとしても、地元に、深い傷を残すことになるのではないかと思う。
ちなみに、この石棺化が、現時点の事象から私が考える、「最悪のケース」だ。
なので、今回、「廃炉が明言された」というニュースを聞いて、
「遅い!」
「まだ使う気だったのか!」
という批判が湧き上がっているけど、いま目指しているのはそんなことではなく、使い続けるかどうかではなく、もう廃炉は決まった上で、「どういう形の廃炉を目指すか」に過ぎない。
「より安全な廃炉」に持って行くか、最悪な形の廃炉になってしまうのか、今、東電指導部と、現場が目指している戦いは、そこにあるのだと考えている。
ニュース日記では、廃炉と聞いただけで「ついに石棺か!」という話が聞かれるが、それを言うのはまだ早い。
それは最悪の場合の話。
なるべく石棺を避けるために、きれいな形で廃炉にするために、戦っているのだと思う。
その方が、不気味な構造物が残るより、地元にとってマイナスが少ないのだから。