避難区域の話

避難区域の件が変更になったが(計画的避難区域)、結論から言って、妥当な判断だと思う。

「遅かったのでは」という疑問もあるかも知れないけど、自分的にはそうは考えない。

と言うのは、避難区域の決定プロセスを考えれば、妥当なプロセスだと思うから。


まず始めに、現在までに浴びている放射線量では、健康には影響ない。
これは一応前提として、確認しておく。


さて、事故が発生したら、その時点で得られる(乏しい)判断材料から、一律に避難範囲を決める。
(現在の、20〜30kmの避難・屋内退避区域というもの)
これは、充分な判断材料や時間的余裕が無いなかで、事故当初にあったような、高線量の放出を回避するためのものだ。

その後は、モニタリングの結果を見ながら、防護対策を判断し、変更していくことになる。
それが、今回の変更にあたる。


今回、原子力安全委員会としては、今後約1年間でどれだけの放射線を浴びるかを考慮して判断している。

今回、計画的避難区域となったのは、浪江町飯舘村といった原発から見て北西方向だが、北西方向の放射線量は、事故発生後に大きく上昇したものの、その後は大きく低下している。

そしてこの低下のレベルが、どこまで低下していくかを注視していたのだろうと思う。
このまま低下が続けば、長期間滞在した場合のリスクもそれだけ少なくなるから。

その問題となる線量だが、今回新たに避難区域となったような場所では、大きく低下した後、ここ数日は横ばいとなっている。
もし仮に、この間に、それなりの雨でも降っていれば、土壌が洗われて、放射線量はさらに減ったのではないかと思うが、そういったことも無く、現実の数字としては横ばいとなっている。


そういったモニタリング結果を受けて、

【これまでの積算値】と、
【直近の値が、これから1年間継続したと仮定した推定値】

を合算して、1年間の被曝線量を推定した。


その結果、国際放射線防護委員会の示した、緊急事態の基準、100〜20mSv/年から、20mSvを採用し、それを超えるエリアについては、約1カ月内の避難を決定した、ということになる。

ちなみに、20mSvの意味合いだが、個人レベルで短期的影響や長期的影響が現れてくるのは、100mSv(低く見る場合は50mSv)を短期間に浴びた場合であって、20mSvでは健康被害は起こらない。
特に、今回の基準20mSvについては、短期間に浴びるのではなく長期間に浴びた場合でのことなので、影響はより少ないことになる。

今回の「計画的避難区域」の避難が緊急ではなく、約1カ月程度と幅がある背景には、そういった、健康に対する影響の小ささがあるのだろう。

また、上にも少し書いたように、今回の判断数値は【直近の値が1年間継続したと仮定した推定値】であって、現実には新たに大きな放出が無い限り線量は低下していくだろうから、安全側に見た数値であるとも言える。



さてそうなると、浪江町飯舘村といった、原発から北西30キロ40キロのエリアが避難になって、その他の南(いわき市)や西(田村市)といったエリアはどうなのか、という疑問も沸くかもしれない。
同じように、30キロ40キロ範囲は避難にするべきではないのかと。

これについては、南や西のモニタリング結果も出ていて、例えば原発から21km地点で5mSv、31km地点で6.5mSv、43km地点で1.2mSvといった数字も出ている。
つまり、同じ30キロ40キロと言っても、地点によってバラツキがあり、高い所もあれば低い所もある、ということになる。

そして、年20mSvを超えるような地点は、浪江町飯舘村といった、北西方向にしか無い、ということだ。


この、北西方向に高い値が出ている理由だが、やはり地形的・気象的影響ということになるだろう。
一つの分析として、原子力安全委員会の会議の中では、北西方向に放射性物質を含んだ空気が到達していたときに、雨が降り、それが土壌に落ちて残っていることが、現在も北西方向で放射線量が高い理由として述べられている。

このようなことを考えれば、原発から環境に影響を与えるようなレベルの放射性物質の放出がほとんど無いと考えられる現状において、30キロ40キロという一律避難ではなく、北西方向に限った今回の判断は、妥当と思える。
また、このような地域ごとの線量判断から、田村・南相馬いわき市では、屋内退避が解除される場所もあるという。



ちなみに、今回の変更の中では、浪江町などの「計画的避難区域」に加えて、「緊急時避難準備区域」というものも設定されている。
「緊急時避難準備区域」とは、何かあったときに速やかに退避・避難できるようにしておく区域だが、これは、会議の中で、いまだ原発が安定状態に至っていないことから、委員が指摘した措置だ。

また、新たに大きな放出が無い限り、放射線量は低減し続けるというのは、原子力安全委員のコンセンサスであるようだ。



このようなことから、今回の避難範囲の話をまとめると、

・現在までの被曝量では健康には影響ない
・事故初期の高線量を避けるための一律緊急避難の段階は過ぎ、モニタリング結果から地域ごとに判断していく段階に入った
・年20mSvを超えるのは北西に限られ、他の地点では屋内退避区域でも低いところがある
・このようなことから、年20mSvを超えるところは1カ月程度で避難することとし、低いところの屋内退避は解除することとした


ということになるだろう。